ブラシ付きDCモーター|基礎編

ブラシモーターの構造、回転原理、発電原理、ショートブレーキ、特性

2023.09.27

このページでは、ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の構造、その回転原理、発電原理、そして特性に至るまで、ブラシモーターに関する特徴について広く深く説明しています。さらに、ブラシを利用したショートブレーキの仕組みについても詳述します。

ブラシモーターは、模型(ラジコンやドローン)や家電製品といったさまざまな用途で広く活用されているモーターの一種です。このモーターがどのように機能するかを理解するため、私たちはまずその構造を詳細に解説します。特に、モーターの動作を可能にする2極磁石と3スロットコイルの働きについて詳しく説明します。
また、ブラシモーターが発電する原理、そしてブラシによるショートブレーキがどのように回転を制御するのかについても理解しやすいように説明します。電源電圧とトルクの関係性や等価回路を用いた理論的な分析といった、ブラシモーターの特性についても深く掘り下げています。

ブラシモーターはもっともポピュラーなモーターの1つです。まずはその構造から説明します。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)とは

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)は構造がシンプルであり、速度制御しない場合には駆動電子回路が不必要という点がメリットです。一方で、整流子が消耗部品であるため、定期的なメンテナンスが必要となり、その構造上寿命が短くなるという欠点があります。また、ブラシからは電気ノイズや騒音が発生することがあります。

まず、ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の構造について解説していきます。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の外観

ラジコンやドローンなどでよく使用されるブラシモーター(ブラシ付きモーター)の外観と、一般的な2極(2つの磁石)、3スロット(3つのコイル)タイプを分解した各部を示します。多くの方々が、モーターを分解して磁石を取り出した経験があるかもしれません。

このブラシモーターでは、永久磁石は固定されており、コイルが内部中心で回転するように設計されています。固定している側をステータ、回転する側をロータと呼びます。
モーターの回転原理についての詳細は「モーターの回転原理」をご確認ください。

図:ブラシ付きDCモーター外観。

図:ブラシ付きモーターの内部構造。

(ブラシ付きモーター)の内部の構造図

以下は、構造概念を示した構造略図です。

左図:ブラシ付DCモーター内部構造略図。右図:ブラシ付モーターの整流子とコイル接続等価回路。

回転の中心となる軸の回りに、3枚の整流子(電流切り替え用の湾曲した金属片)があります。整流子は互いに接触しないように間隔をもって120°毎(360°÷3枚)に配置されます。整流子は軸の回転にあわせて回転します。

1つの整流子には1つのコイル端と別のコイル端が接続されおり、3つの整流子と3つのコイルで回路網としてはひとつながり(環状)になっています(「整流子とコイル接続等価回路」参照)。

2つのブラシ(「ブラシ付モーター内部構造略図」参照)は、0°と180°の位置に固定されており、整流子と接触するようになっています。ブラシには外部のDC電源が接続され、ブラシ→整流子→コイル→ブラシの経路で電流が流れます。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の回転原理

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)が回転する原理を説明しますが、動くものの説明を静止画と言葉で説明するので想像力を働かせてください。

ブラシ付きDCモーターの回転原理

① 初期状態から反時計回りに回転開始

コイルAが最上部に位置しており、ブラシを通じて左側に(+)、右側に(-)の電源が接続されます。左ブラシから整流子を通じてコイルAに大きな電流が流れ、その結果、コイルAの上部(外側)がS極になります。

一方、左ブラシからコイルBとコイルCへの電流は、コイルAの電流の1/2で、しかもコイルAとは逆方向に流れます。そのため、コイルBとコイルCの外側は弱いN極(図では文字を小さく表現)になります。

これらのコイルに発生した磁界と、永久磁石の反発力と引力によって、コイルは反時計回りに回転する力を受けます。

② さらに反時計回りに回転進行

次に、コイルAが反時計回りに30°移動した状態を考えます。このとき、右ブラシは2つの整流子に接触しています。コイルAは、左ブラシから右ブラシへの電流が流れ続け、その結果、コイルAの外側はS極を維持します。

この状態では、コイルBにはコイルAと同等の電流が流れ、その結果、コイルBの外側は強いN極になります。

一方、コイルCはその両端がブラシによって短絡状態になっているため、電流が流れず、磁界も発生しません。

この条件でも、コイルは反時計回りに回転する力を受けます。

③から④ 反時計回りの回転を継続

さらに30°ずつ回転し、③、そして④の状態へと移行した場合、中央の水平軸より上に位置するコイルはS極に、下に位置するコイルはN極になるという動きを繰り返します。これにより、コイルは反時計回りに連続的に回転します。

コイルAが1番上にあり、ブラシに電源を接続し左側を(+)、右側を(-)とします。左ブラシから整流子を通じてコイルAに大きな電流が流れます。これは、コイルAの上部(外側)がS極になる構造です。

一方、左ブラシからコイルBとコイルCに、コイルAの電流の1/2がコイルAと逆向きに流れるため、コイルBとコイルCの外側は弱いN極(図では文字を小さくして表現)になります。

これらのコイルに発生した磁界と、磁石の反発と吸引によってコイルは反時計回りに回る力を受けます。

② さらに反時計回りに回転する

次にコイルAが反時計回りに30°移動した状態で、右ブラシが2つの整流子に接触しているとします。コイルAは左ブラシから右ブラシを通じて電流が流れ続け、コイルの外側はS極を維持します。

コイルBには、コイルAと同じだけの電流が流れ、コイルBの外側は強いN極になります。

コイルCはコイルの両端がブラシによって短絡状態になっているので、電流が流れず磁界が発生しません。

この条件によっても、反時計回りに回転する力を受けます。

③から④ 上側のコイルは左へ、下側のコイルは右へ動く力を連続的に受け反時計回りを継続する

さらに30°ずつ、③、そして④の状態に回転していった場合、中央の水平軸よりコイルが上になるとコイル外側はS極になり、下になるとN極になることを繰り返します。

つまり、上側のコイルは左へ、下側のコイルは右へ(どちらも反時計回り)動く力を、それぞれ繰り返し受けることになります。これによって、ロータは常に反時計回りに回転します。

電源の接続を逆の左ブラシ(-)、右ブラシ(+)にすると、コイルに発生する磁界が逆になるため、コイルに加わる力の向きが反対になり時計回りに回るようになります。

また、電源を切り離すと回転を継続する磁界の発生がなくなるのでロータは停止します。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の発電原理

発電原理の基本

モーターは電気エネルギーを動力に変換しますが、その逆の過程、つまり機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する発電作用も持っています。この原理は発電機と同様で、モーターの軸を回転させると端子間に電流が発生します。

基本的な発電原理に関しては関連の法則や、式については「モータの発電原理」でご確認いただけます。

実際的な発電原理

ここでは、ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の模式図を使って実際的な発電原理を説明します。

ブラシ付きDCモーターの発電動作

電源がブラシに接続されていない状態で、コイル(ロータ)が反時計回りに回転しているとしましょう。現実的な状況としては、回転しているモーターから電源が切断された後、惰性によりロータが回転し続けるような場合が考えられます。

①の状態では、コイルAは磁石NとSの中間に位置しています。磁石による磁界はNからSに向けて存在し、コイルAが反時計回りに回転して磁石Nに接近するため、回転軸に向かう磁束の変化は(+)方向で、その量は最大となります(ピンクの矢印)。この結果、コイルAには、回転軸から外側へ電流を流す起電力が発生します(紫の矢印)。

一方、コイルBは磁石Nから離れ、コイルCは磁石Sに接近するため、磁束の変化は(-)方向であり(ピンクの矢印)、それぞれの位置が磁石に近いため磁束の変化量は最大値よりも少なくなります。これにより、コイルBとCでは、外側から回転軸に向かって電流を流す起電力が発生します(紫の矢印)。

このとき、コイルA、B、Cそれぞれの起電力を合わせると、左側のブラシは右側のブラシに対して(+)の電圧を示します。

次に②の状態になったとき、コイルBが磁石NとSの中間に位置し、S極に接近しているため、磁束の変化は(-)方向で、その量は最大となります。これにより、コイルBには外側から回転軸に向かって電流を流す起電力が発生します。

一方、コイルAは磁石Nに接近し、コイルCは磁石Sから離れることにより、磁束の変化は(+)方向であり、各コイルの位置が磁石に近いため、磁束の変化量は最大値よりも少なくなります。これにより、コイルAとCでは、回転軸から外側に向かって電流を流す起電力が発生します。

このときも、コイルA、B、Cそれぞれの起電力を合わせると、左側のブラシは右側のブラシに対してプラスの電圧を示します。

つまり、コイル(ロータ)が反時計回りに回転しているとき、常に左側のブラシは右側のブラシに対して(+)電圧を示します。もしコイルが時計回りに回転する場合、その逆の動作により右側のブラシが(+)電圧を示します。発生した電圧は整流子により整流され、直流電圧となります。そして、発電電圧は回転数が大きいほど高くなります。これらの原理に基づいて発電機は作動します。

ショートブレーキ

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)では、電源を切った後に惰性で回転するロータを早く止めるために、ブラシ同士をショート(短絡)させてブレーキをかけることができます。

ブラシ付きDCモーターのショートブレーキ

ブラシが電源から切り離され、コイル(ロータ)がまだ反時計回りに回転している状態でブラシ同士をショートします。

①の状態では、「実際的な発電原理」で説明したように、左側のブラシには右側のブラシに対して(+)の起電圧が生じるので、ブラシ同士が短絡していることから電流が流れます。これにより、コイルAの外側はNになり、コイルB、Cの外側はSになります。

②の状態へ遷移した場合も同様に電流が流れ、コイルBの外側がSに、コイルA、Cの外側がNになります。

このようにブラシ同士をショートすると、そのときの回転方向と逆の回転力が生じ(黒の実線矢印)、元の回転を止めるブレーキ動作になります。これを、ショートブレーキと呼んでいます。

この回転を止めようとする力は流れる電流が多いほど大きいため、回転数大きいときは強いブレーキがかかりますが、回転数が小さくなるにつれて弱くなり、回転が停止すればゼロになります。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の特性

単純な話をすれば、モーターは電源電圧を印加すると電流が流れ回転しますが、電源電圧、回転数、トルクといった特性はそれぞれに関係があります。ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の等価回路と式を使って説明します。

●閉回路のDC関係式: \(E_a = R \times I_a + E_c\)
*Ea:電源電圧、R:電機子抵抗、Ia:モーター電流、
Ec:モーター誘起電圧

電源電圧Eaは、電機子抵抗Rとブラシモーター電流Iaをかけた値に、誘起電圧Ecを加えた値になります。電機子抵抗は巻線や鉄心の抵抗成分です。抵抗×電流が電圧になるのはオームの法則そのものです。誘起電圧はブラシモーターが回転することで生じる電圧(発電)で、追加の電圧となります。

ブラシ付きDCモーターの等価回路

●モーター誘起電圧:\( E_c = K_e \times N \)
*Ec:モーター誘起電圧、Ke:発電係数、N:回転数

モーターの誘起電圧Ecは、発電定数Keに回転数Nをかけた値になります。したがって、ブラシモーターの誘起電圧は回転数に比例します。

●モータートルク:\( T = K_t \times I_a \)
*T:トルク、Kt:トルク定数、Ia:モーター電流

ブラシモーターのトルクTは、トルク定数Ktにモーター電流Iaをかけた値になります。したがって、モータートルクは電流に比例します。

●回転数とトルクの関係:\( N = \frac{E_a}{K_e} – \frac{R}{K_e \times K_t} \times T \)

前に述べたブラシモーターの誘起電圧とトルクの式をまとめ、回転数NとトルクTの関係を表します。KeとKtは定数なので、1) トルクTがかかると回転数Nは一定値で低下する、2) トルクTが一定の場合電源電圧Eaに比例して回転数Nが上昇する、ことが式からわかります。

上記の関係を右図にまとめました。トルク-回転数(T-N)特性は、トルクがかかると回転数が一定に低下、つまり反比例します。また、電源電圧を上げるとブラシモーターにかかる電圧が大きくなるため回転数は上昇します。回転数ゼロのときが最大トルクとなります。

トルク-電流(T-I)特性は、トルクがかかるとモーター電流は一定に増加、つまり比例します。最大トルク時=回転数ゼロ時にモーター電流は最大になります。

ブラシモーターを駆動する場合、この関係を基に駆動条件を考えることになります。

ブラシ付きDCモーターのトルク-回転数特性およびトルク-電流特性

モーターパラメータの単位

先の説明でいくつかモーターパラメータが出てきたので、それらの単位系について一般的なものを示します。

回転数N: min-1、rpm、rad/s
トルクT: N・m
発電係数Ke: V・s/rad、V/rpm
トルク定数Kt: N・m/A

複数の単位系をもつパラメータがありますが、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する場合の単位系としては、太字で示したN・m、rad/s、V・s/radで統一する必要があります。

ブラシレスモーターとの比較

モーターの構造の違い

ブラシレスモーターとの基本構造など仕組みの違いについて「小型モーターの構造」で情報を提供しています。ここでは、ステッピングモーター、ブラシモーター、ブラシレスモーターの構造が概略的に解説されており、基本構成部品が同じでもその構造がどのように異なるかについて説明しています。モーターの構造と動作原理についての理解を深めることは、より高度な技術的知識を習得するための重要なステップとなります。

ブラシレスモーターとは?

ブラシレスモーターの構造と働きについて詳しく解説しているページをお探しの方は、「ブラシレスモーターとは?モーターの極数とスロット数、機械角と電気角、ホール素子(ホールIC)についても解説」をご確認ください。

ブラシレスモーターの「ブラシレス」とは文字通りブラシモータのデメリットであるブラシと整流子の部分が摩耗しやすく寿命が短い問題を解決するためにが開発されたことに由来します。半導体素子のトランジスタを使い、さまざまな新たな技術が要求されるブラシレスモーターの特性、そしてそれがどのように実装されるのかについても、実践的な視点から解説しています。

まとめ

この記事では、ブラシモーター(ブラシ付きモーター)の基本的な構造、回転原理、特性、およびそれらに関連するパラメータと単位について詳細に説明しました。

ブラシモーター(ブラシ付きモーター)は磁気の反発と吸引の原理に基づいて動作し、その中心部であるコイルは、磁界と磁石により反時計回りに回転します。このモーターの動作原理は、特にモーターが回転する際に重要な役割を果たす電源、整流子、コイル間の電流の流れに大きく依存します。

また、ブラシモーターの特性については、電源電圧、回転数、トルクといった要素が互いに密接に関連していることを認識することが重要です。具体的には、ブラシモーターのトルクは電流に比例し、ブラシモーターの誘起電圧は回転数に比例します。これらの関係性は、モーターを適切に制御し最大の効率で運用するために理解するべき重要な要素です。

さらに、ブラシモーターのパラメータの単位についても触れました。回転数、トルク、発電係数、トルク定数などのパラメータはブラシモーターの性能を理解するための基本的な要素であり、それぞれに適切な単位があります。
以上のような理解を深めることで、ブラシモーターの動作原理と性能をより深く理解し、適切なアプリケーションで最大限に活用することが可能になります。

最後に、ブラシモーターの理解と適用は、その基本的な原理から高度な応用まで、幅広い知識と技術を必要とします。この記事がその学習の一助となることを願っています。

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ブラシ付きDCモーターは最も汎用的なモーターで、非常に多くのアプリケーションに利用されています。このハンドブックでは、ブラシ付きDCモーターの基礎として、構造、動作原理、特性、駆動方法を解説しています。

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