モータードライバー|基礎編

モーターの種類と分類|電磁モーターの代表的な種類の特徴や用途とは?

2023.11.30

モーターの種類は、多岐にわたりますが、一般的には「電磁モーター」で、これは電磁誘導を活用して電気エネルギーを運動エネルギーへ変換する仕組みを持っています。

電磁モーターの種類は、「直流モーター」「交流モーター」「ステッピングモーター」の3つが主要な分類としてあり、これらは電源の種類や制御方法で区分されています。例えば、おもちゃや家電製品でよく使われる「直流モーター」、家庭のエアコンや洗濯機に用いられる「交流モーター」、そして精密な位置制御が要求される場面での「ステッピングモーター」といった具体的な用途での利用が挙げられます。

さらに、これらの主要なモーターの種類は、構造や仕組みに応じてさまざまなバリエーションが存在します。この記事では、これらのモーターの種類ごとの特徴や日常での具体的な用途について、わかりやすく説明していきます。興味のある方はぜひご覧ください。

直流モーターの種類や用途(ブラシ付きDCモーターとブラシレスモーター)

直流モーターとは、直流電源によって動作するモーターです。主な特性としては、回転速度が電圧によって調整可能であり、設計がシンプルな点が挙げられます。

日常生活においても直流モーターは非常に身近で、おもちゃや家電製品、車のウィンドウを開閉する機構など、多岐にわたるアイテムに搭載されています。代表的な直流モーターについては以下で詳しく説明していきます。

1.ブラシ付きDCモーター

ブラシ付きDCモーターとは、乾電池などの電源に直接つなぐだけで動作する直流モーターです。単に「DCモーター」や「ブラシモーター」というと、多くの場合はブラシ付きDCモーターを意味します。電圧によって回転数を制御するシンプルな構造で、小型な点が特徴です。プラモデルや模型などの工作用モーター、電動歯ブラシなどの製品に活用されています。

ブラシ付きDCモーターの回転中は、整流子とブラシ(電極)が接触します。したがって、ブラシの摩耗、火花や電気ノイズの発生、騒音・臭いの発生、整流子・ブラシの消耗により寿命が短いといったデメリットがあります。

磁界の発生方法による分類

ブラシ付きDCモーターは、磁界の発生方法によって次の2つに細分化できます。

  • ・巻線界磁式DCモーター:巻線(電磁石)によって磁界を生む
  • ・永久磁石界磁式DCモーター:永久磁石によって磁界を生む

小~中型のブラシ付きDCモーターは永久磁石界磁式が、大型は巻線界磁式が主に使用されています。

2.ブラシレスDCモーター

ブラシレスDCモーターとは、名前のとおりブラシ(電極)がない直流モーターです。単に「ブラシレスモーター」という場合もあります。整流子もなくなったため、摩耗による難点が改善されました。具体的には、長寿命で高効率・省エネ・静音・低ノイズといった特長を持ちます。ブラシ付きDCモーターの改良版と言えるでしょう。HDD、自動車・EV、ファン、一般家電などの幅広い製品に組み込まれています。

基本的に、ブラシレスDCモーターは永久磁石を使用します。また、電源に繋いだだけでは回転せず、ドライバー(駆動回路)が必要です。そのため、ブラシ付きDCモーターよりも構造が複雑になっています。

永久磁石の位置による分類

永久磁石の位置によって、ブラシレスDCモーターは次の2つに分類されます。

  • ・表面磁石型(SPM:Surface Permanent Magnet):回転子(ローター)の外周部分に永久磁石を取り付ける
  • ・埋込磁石型(IPM:Interior Permanent Magnet):回転子の内部に永久磁石を埋め込む

表面磁石型は小容量な製品への利用が一般的です。一方の埋込磁石型は、遠心力による磁石の剥離リスクがなく、自動車・EVなどの大容量・高速回転が求められる製品で主に用いられています。

【関連記事】

ブラシレスモーターについてより詳しく知りたい方は「ブラシ付きDCモーターについて」をご参照ください。

記事内容

  • ・ブラシ付きモーターの構造と原理
  • ・発電原理
  • ・ショートブレーキ
  • ・Hブリッジ回路によるブラシ付DCモーターの駆動
    (出力状態切り替え、リニア駆動、リニア制御)
  • ・PWM出力によるブラシ付DCモーターの駆動
    (PWM駆動、損失と注意点、Hブリッジ、BTLアンプ)
  • ・1スイッチ回路駆動、ハーフブリッジ回路駆動

ブラシレスDCモーターについてより詳しく知りたい方は「3相ブラシレスモーターについて」をご参照ください。

記事内容

  • ・3相全波ブラシレスモーターの構造と原理
  • ・3相全波ブラシレスモーターの位置検出
  • ・3相全波ブラシレスモーターの駆動
  • ・センサレス120度通電駆動の起動方法

交流モーターの種類や用途(誘導モーター、同期モーター、整流子モーター)

交流モーター(ACモーター)とは、交流電源によって動作するモーターです。交流電源は電圧が一定周期で変化し、電流の向きも切り替わります。一般家庭や工場の電力は交流電源で供給されている上、電圧は変圧器によって簡単に変えられる仕組みです。こうした扱いやすさにより、交流モーターは家庭用製品から産業用機械まで広く普及しています。

交流モーターの種類は、以下の3つが挙げられます。

  • 1.誘導モーター
  • 2.同期モーター
  • 3.整流子モーター

それぞれの特徴を解説します。

1.誘導モーター

誘導モーターは、回転する磁界(回転磁界)を利用します。まず、固定子のコイルに交流電流を流し、回転磁界を発生させます。固定子の内側にある回転子は鉄などの導体であるため誘導電流及び電磁力が生まれ、回転子がつられて回る仕組みです。回転磁界の回る「同期速度」よりも回転子の回転速度のほうがやや遅いため、「非同期モーター」とも呼ばれます。

誘導モーターのメリットは、構造が比較的単純かつ堅牢で、メンテナンスがしやすい点です。また、誘導モーターは、使用する電源によって「単相誘導モーター」と「三相誘導モーター」に分かれます。

1-1.単相誘導モーター

単相誘導モーターは、単相交流で動作します。仕組みがシンプルで、比較的安価なモーターです。洗濯機や扇風機、電灯などの家庭用製品に用いられています。

1-2.三相誘導モーター

三相誘導モーターは、三相交流で動作します。モーターのエネルギー損失が小さく、単相誘導モーターよりも大きな動力を得られます。回転子の形状によって「かご型」や「巻線型」があり、近年の主流はかご型です。主に、産業機械の動力として利用されています。

2.同期モーター

同期モーターも、誘導モーターと同じく回転磁界を活用するモーターです。ただし、誘導モーターと異なり、同期速度と回転速度は等しくなります。同期速度と回転速度の差である「すべり」がなく、エネルギーの損失が起きません。

同期モーターのうち、回転子に永久磁石を使う「PMモーター」の技術が発展し、誘導モーターよりも優れた高効率・省エネ化を実現しました。洗濯機などの家庭用製品のみならず、クレーンや金属加工機、ポンプといった産業機械の動力として幅広く採用されています。PMモーター以外には、回転子に永久磁石を埋め込まない「リラクタンスモーター」やヒステリシス特性を使う「ヒステリシスモーター」などの種類もあります。

3.整流子モーター(ユニバーサルモーター)

整流子モーターとは、直流と交流のどちらの電源でも使えるモーターです。「ユニバーサルモーター」や「交流整流子モーター」とも言います。高速運転が得意な上、家庭用電源(AC100V)で稼働できる使いやすさから、軽量かつ大出力が求められる一般家電に適しています。例えば、ドライヤー、掃除機、ミキサー、電動ドリルなどの製品です。

なお、本記事では交流モーターに分類していますが、直流電源でも運用できるため、独立して分類する解釈もあります。ただし、実際の活用シーンにおける整流子モーターは、交流電源向けに作られている製品がほとんどです。

ステッピングモーターの種類や用途

ステッピングモーターとは、回転子に複数の溝があり、ドライバーから送られるパルス信号によって決められた溝の分だけ回転するモーターです。「パルスモーター」とも呼ばれます。ここまで紹介したDC及びACモーターは、持続的に回転する仕組みです。そのため、さまざまな製品の動力源として用いられます。対するステッピングモーターの回転は、断続的です。動力源には向いておらず、一定の角度ごとに回転する特性から位置制御のために利用されています。

ステッピングモーターの仕組みが分かりやすい製品例が、アナログ時計です。1秒ずつ動く秒針は、ステッピングモーターにより1秒に6°ごと回転しているわけです。アナログ時計のほか、ATM、自動販売機、医療機器、レーザー・3Dプリンター、改札といった製品に組み込まれています。

高精度に速度や位置を制御できる一方で、制御にはコントローラー及びドライバーが必要です。その分、モーター全体が大型化してしまうといったデメリットがあります。また、回転ごとに音や振動が生じてしまう点にも注意しましょう。ステッピングモーターの種類は、回転子の違いによって「VR型」「PM型」「HB型」の3つに分類されます。

1.VR型

VR(Variable Reluctance)型とは、回転子を歯車状の鉄心にしたステッピングモーターです。機械加工で歯を細かくすることで、回転角度(ステップ角)も細かく設定できます。一方でトルクが低く、大トルク化すると小型化ができないといった難点があります。

2.PM型

PM(Permanent Magnet)型とは、回転子に永久磁石を使用するステッピングモーターです。高トルクで電力消耗が少なく、小型化しやすいといった特長があります。ただし、回転角度の細かな調整はできません。

3.HB型

HB(Hybrid)型は、VR型とPM型のメリットを併せ持つステッピングモーターです。永久磁石と歯車鉄心のどちらも使用しています。VR型の構造により細かな回転角度の調整が可能になり、永久磁石を使うことでトルクが大きくなりました。こうした優れた性能から、近年普及しているステッピングモーターの多くはHB型が採用されています。

【補足】サーボモーターとの違い

ステッピングモーターと関連するものに、サーボモーターがあります。サーボモーターとは、ステッピングモーターと同じく制御装置として使われるモーターです。

サーボモーターはステッピングモーターと異なり、回転子に溝がありません。代わりに、モーターの位置や速度を検出するセンサー「エンコーダー」が備わっています。エンコーダーの役割は、モーターの速度・位置情報をドライバーへ伝達することです。ドライバーは、モーターの位置・速度と制御指令の情報に差がなくなるように調整します。

こうした仕組みにより位置のずれを自動修正できる上、ステッピングモーターよりも非常に細かな位置制御が可能です。ただし、ステッピングモーターに比べて構造が複雑になるため、コストは高くなります。

【補足】リニアモーター、ダイレクトドライブモーターとの違い

「リニアモーター」や「ダイレクトドライブモーター」というモーターの種類を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。これらはいずれも、前項のサーボモーターに含まれる種類のうちのひとつです。

前述のとおり制御性に優れたサーボモーターのうち、サーボ機構部分の運動方向が直線運動となるものをリニアモーター、回転運動となるものをダイレクトドライブモーターと呼びます。

【関連記事】

ステッピングモーターについてより詳しく知りたい方は「ステッピングモーターについて」をご参照ください。

記事内容

  • ・ステッピングモーターの構造
  • ・ステッピングモーターの基本動作原理
  • ・マイクロステップ動作原理
  • ・ステッピングモーターの基本特性
  • ・ハイブリッド型ステッピングモーター
  • ・バイポーラ結線とユニポーラ結線
  • ・2相バイポーラステッピングモーターの駆動

モーター(電動機)は種類によって特性や使用方法が異なる

モーター(電動機)のうち、電磁モーターの種類は大きく分けて「直流(DC)モーター」「交流(AC)モーター」「ステッピングモーター」の3つです。最後に、各モーターの違いを以下の一覧表にまとめます。

項目 直流モーター 交流モーター ステッピングモーター
主な用途 動力源 動力源 位置制御
回転 持続的 持続的 断続的
主な種類 ・ブラシ付きDCモーター
・ブラシレスDCモーター
・誘導モーター
・同期モーター
・整流子モーター
・VR型
・PM型
・HB型
製品例 工作用モーター、電動歯ブラシ、自動車・EV、ファン など 洗濯機、電灯、クレーンやポンプなどの産業機械、ドライヤー など アナログ時計、ATM、自動販売機、医療機器、改札 など

モーターは、種類によって特性や使用方法が異なります。さらに上記のほか、原理が異なる「静電モーター」や「超音波モーター」といった種類も存在します。モーターを必要とする際は、各種類の違いを理解した上で選定しましょう。

選定にあたっては、検討の順番が重要となります。
具体的には、以下の手順をご参考ください。

1. 駆動機構を決定する

モーターの駆動機構には単純な回転体のほか、ボールねじ、ベルトといった種類があります。高精度の位置決め運転や大負荷の搬送に適したボールねじ駆動、高速の位置決め運転や軽負荷の搬送に適したベルトといったようにそれぞれに特徴がありますので、搬送物の寸法や質量、各部品の寸法と質量、可動部品のしゅう動部(滑らせて動かす部分)の摩擦係数などを基に決定します。

2.モーターへの要求仕様を確認する

続いて、装置の運転速度や実際の運転時間、位置決めの距離と時間、停止精度、使用環境や電源電圧といった求められる条件から、モーターへの要求仕様を確認しておきます。

3.負荷計算を行う

モーター出力軸における「負荷トルク」「負荷慣性モーメント」を計算しておきます。さまざまな機構における負荷トルクや負荷慣性モーメントの計算式は、各モーターメーカーの公式サイトや技術資料などで確認できます。

4.モーター機種を選択する

以上で導き出した要求仕様に対して、最適なモーターを選択しましょう。

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小型モーターの選定についてより詳しく知りたい方は「小型モーターの特徴、性能、特性の比較」をご参照ください。小型モーターを最適に選定するためのガイドラインを一覧表で比較してわかりやすく説明しています。

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モーターは様々な分野で多様なアプリケーションに使用されているので多くの種類があり、モーターのドライブ(駆動)方法や制御方法も多様です。このハンドブックでは、モーターの基礎とモータードライブの概要について解説しています。

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