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IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
2018.03.27
IoTを支える新たな無線技術してLPWAが注目されている。LPWAはLow Power Wide Areaの略称で、文字通り低消費電力で広いエリアをカバーする趣旨の無線技術である。現在LPWAには多種多様な方式が存在し、それぞれにメリットとデメリットがある。また、現状ではどの方式が主流になるのか、見当がつかない状況である。この状況においてラピスセミコンダクタは先般、2種類のLPWAに対応する無線通信LSIを業界で初めて市場に投入した。LPWAの特徴と現状、そしてデュアルモード対応無線通信LSI開発の意図などを、ラピスセミコンダクタ株式会社 ローパワーLSIビジネスユニット 野田 光彦 氏に聞いた。
-IoTにおける無線技術として、このところLPWAが注目されていますが、LPWAとはどんな無線なのでしょうか?
厳密な定義はないと思いますが、あまり高速な通信は必要とせず小さなデータを頻繁に送受信するというIoTにおける無線通信の特性に対応し、その名称が示す通り低消費電力で広範囲、長距離をカバーする無線の総称だと理解しています。そして、その中にいくつもの無線規格が存在しています。
もう少しわかりやすく言うと、通信量を少なくする代償として長距離の通信に特化した無線方式です。その代償によって、3G/LTEよりLow Power(低消費電力)で、3G/LTEやWi-SUNよりWide Area(広範囲/長距離)の通信を可能にしています。この図は、データレートと通信距離を軸にLPWAのポジショニングを示しています。
現状、LPWA無線は2つに大別することができます。1つは3G/LTEを低電力化および長距離化したLPWAであるNB-IoT(3GPPの呼称はCat-NB1)で、もう1つはWi-SUNに代表される特定小電力(Sub-GHz)無線を長距離化したLPWAです。図では、赤の破線で囲ってあります。
また、LPWAの中で使用する周波数帯の特徴からNB-IoTを「ライセンスドLPWA」、特定小電力無線系のものを「アンライセンスドLPWA」と呼んでいます。ライセンスドLPWAは、携帯電話の技術を流用していることからセルラーLPWAとも呼ばれることもあります。どちらも元の無線方式からデータレートを絞ることにより感度を向上させし、通信距離を大幅に延ばしたことが特徴です。
-この図はわかりやすいです。データレートを抑えて到達距離を延ばし、当然ながら低消費電力であるのがLPWAということですね。
概略的にはその通りです。ただ、それではあまりにも大雑把なので、もう少し詳細を説明したいと思います。LPWA無線が、特定小電力無線とLTEベースのNB-IoTに分類されることは先に示した通りですが、この2つの違いについて説明したいと思います。この分類は、使用する周波数帯がライセンスバンドかアンライセンスバンドかの違いによるものだと説明しましたが、さらに違いがあります。それらをまとめた表がこれです。
二者間には3つの大きな違いがあります。ライセンスドLPWAのNB-IoT側から見たアンライセンスドLPWAの状況を、個人的には「3つのなんちゃって」と表現しています。
-「なんちゃって」ですか。その理由を知りたいです。
無線周波数帯については、ライセンスバンドはその意味の通り、免許を受けたものが独占的に使用できる周波数帯です。それに対して、アンライセンスバンドは使用者を特定しません。したがって、アンライセンスドLPWAが使用する920MHz帯は、技適を取得していれば誰でも使用できます。利用しやすい反面、様々なシステムが混在することになり通信障害が課題になります。これに対してアンライセンスバンドでは、キャリアセンスや送信規制(電波法)を設けることで対処しています。
プロトコルスタックとセキュリティについては、LTEの流れを汲むNB-IoTは全国規模の基幹ネットワークを前提にしており、長年の進化により表にあるように安定で強固なものを流用しています。しかし、そのために消費電流やコスト面では不利になっています。アンライセンスドLPWAは、それぞれに比較的シンプルなものを使用していることから消費電流は約1/10で、「3つのメリット」に示されているように端末価格やランニングコストがライセンスドLPWAよりも安くなっています。
-そういう意味での「なんちゃって」なんですね。表現を変えれば、柔軟性や多様性によって消費電力やコストを抑えることができているということですね。次に、LPWAのネットワーク階層構造はどういったものをイメージすればよいのでしょうか?
現状ではまだまだ流動的なので、先に説明したそれぞれの特性を前提にした理想的なLPWA階層構造を示します。
安定で安心だということでNB-IoTだけでネットワークを構成すると、先に説明したように端末価格もランニングコストも高くなってしまいます。また、IoTではたくさんのセンサノードなどが無線接続されるシステムが想定されるので、このアイデアはあまりうまくはありません。そこで、IoTの特性からも消費電力とコスト面で優位なアンライセンスドLPWAを末端ネットワークに使い、ライセンスドLPWAのNB-IoTを基幹ネットワークに使ってクラウドにデータを送るという構成がよいのではと考えます。
-なるほど。基幹ネットワークのNB-IoTはライセンスドLPWAなので、おそらく通信事業者が独占的に構築する可能性がありますよね。そうすると逆に末端のIoT機器側には、参入障壁が比較的低いアンライセンスドLPWAが向いていると言うことにもなると思います。
その通りです。そういった意味では末端のIoT機器の無線に関しては、アンライセンスドLPWAを注視していくことになるのかと思います。
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