エンジニアに直接聞く
無線に取り組む機器設計者のための基礎知識Sub-GHz無線を考える
2016.11.29
-それでは、次にSub-GHz無線についてお願いします。
Sub-GHz無線は、カバーエリアが広いというのが大きな特徴になります。これは、電波伝搬特性の良さと、ポッピングを用いた複雑な構成のMeshネットワークを構成可能な下位層によるものです。
まず、電波伝搬特性に関しては、無線周波数の違いによる回折特性が関係しています。回折とは電波が障害物を回り込む現象のことです。これは、実験データがあるので見てください。
回折現象は、電磁波が周波数に依存して光の特性を強く持つことに起因するもので、周波数が低い程回折は大きくなります。この実験結果は、無線LANなどに使われている2.4GHz帯は、10mでのエラー率がすでに96%で、実質、通信ができていないことを示しています。また、それ以上の距離では信号も検出されていません。一方、950MHz帯のSub-GHz無線は、50mになってもエラー率はほぼ0%なので、何ら問題なく通信ができています。送信機と受信機の位置関係と距離は左側の図を参照してください。また、このデータはARIB STD-T108以前の測定データのため、920MHzの代わりに950MHzが使われています。
-ずいぶん違うものですね。
そうですね。2.4GHzの搬送波ではほぼ回折は起きず、直線で見通せるエリアにしか伝搬していません。それに対して周波数が低い950MHzの搬送波は、回折により建物の背後50mに伝搬しています。
また、無線周波数の違いは、大気減衰にも関係します。同じ出展の別の実験によると、900MHz帯は2.4GHz帯に対して、同じ送信出力と受信感度で比較して、約10倍の伝搬距離を確保できます。これらが、Sub-GHz無線の伝搬特性の良さの理由です。
-わかりました。それでは、もう一つの特徴の「下位層」についてお願いします。
この説明のためには、「通信プロトコルスタック」について知っている必要があります。通信プロトコルスタックは単に「スタック」とも呼ばれます。多少むずかしい話になりますが、無線設計にかかわる以上は避けて通ることはできません。ビギナーの方でも、少なくてもこれから話すことを理解していただきたいと思います。まず、下の図を見てください。
この図は、無線に限りませんが、通信接続を実現するための階層構造を示しています。階層構造は、「仕事の種類」のようなもので、地層のように積み重なっているので、「スタック」と呼ばれています。実は、この地層の組み合わせこそが各々の近距離無線の本質的な要素で、この地層の組み合わせを理解することが、「無線でやりたい事」を実現するための重要なキーワードになります。
-図としてはむずかしく見えませんが、すぐには理解できません。
ベースのない方にはそうかもしれません。ただ、これを詳しく説明すると膨大な時間がかかるので、ここではスタックのエッセンスを理解していただきたいと思います。
スタックは先程説明したように、通信を実現するための一連の仕事、つまり通信プロトコルが階層を成しています。Sub-GHz無線通信のWi-SUNの場合、IEEE802.15.4g、IEEE802.15.4e、6LowPAN、IPv6、ECHONET Liteの組み合わせとなっており、この連携によって通信が実現しています。赤い枠で囲ったところです。このスタックの組み合わせが、無線通信システムの本質的要素を表しています。また、Wi-SUNの下層は、青で囲ったZigBeeと共通のIEEE802.15.4です。これは、Wi-SUNがZigBeeと同様のネットワークトポロジーに対応できることを意味しています。
-なるほど。階層に対応するプロトコルが何であるかを、知っている必要があるということですね。
そういうことになります。そのために、無線規格には必ずプロトコルスタックが示されています。この辺りで、Sub-GHz無線の「下位層」に話を戻します。
-わかりました。お願いします。
もう一度図を見てください。Sub-GHz無縁の一つであるWi-SUNのところですが、下位層はIEEE802.15.4、詳しくは、低消費電力向けに拡張されたIEEE802.15.4gになっています。これは、複雑なネットワークを構成することが可能であることを示しています。特徴は、ホッピングを実現するにあたって必要なネットワークアドレスをもっていることです。第3および第4層は、無線通信システムに依存して異なるプロトコルを使用しています。大は小を兼ねる理論で、複雑なMeshネットワークに対応できるということは、Meshより簡単なネットワークトポロジーにはすべて対応できることを意味します。この多様性も、Sub-GHz無線の特徴であると言えます。
このように多様性を持つことが特徴となるSub-GHz無線ですが、そのネットワークトポロジーの多様性と、ネットワーク層以上の層の未標準化が理由で、RFシステムを包含するSoCやSiPの開発を思うようにできない状況がありました。しかしながら、近年ネットワーク層以上の標準化が進み、Sub-GHz無線SoCも商品化されています。
製品情報
【資料ダウンロード】無線通信 基礎
エンジニアに直接聞く
-
アプリケーションの電源設計のヒントを、エンジニア同士で語り合う
-
GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
- ロームグループのIoTへの取り組み:ロームグループがもつIoT関連技術を集結 センサはIoTキーアイテムの一つ
- 無線に取り組む機器設計者のための基礎知識:無線通信の種類と分類を考えてみる
- 工場のIoT化を促進するマシンヘルス:工場の設備、機器の健康状態を管理して故障を未然に防ぐ
- センサ評価キットがIoT機器のTime-to-Marketを加速:センサ評価用ツールの需要が高まる
- いち早く具体化が進むIndustrial IoT:産業IoTの動きが活発に 既存の装置や設備のIoT化が鍵
- IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
- IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える
- 13.56MHz(NFC)ワイヤレス給電のアドバンテージとは:モバイル機器のワイヤレス充電にはさらなる小型ソリューションが必要
- 産業用途グレード降圧DC-DCコンバータ:産業用途では長期供給保証と小口販売は普通の要求
- 全43機種、車載向け汎用LDOレギュレータ:43機種という豊富なバリエーションには理由がある
- FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズ:FPGAの電源要求とは
- MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
- 業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ:フォトカプラのメンテナンスから解放 小型で設計が簡単
- 48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
- 第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く
- 環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に
- 力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
- 車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
- 4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
- 小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計:技術トレンドの変化によって、熱設計には逆風が吹いている
- DC-DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化:出力の安定性と応答性のチェックには周波数特性を評価する
- 業界トップクラスの低ノイズと低損失を両立した600V耐圧IGBT IPM:IGBT IPMを使うメリットと課題