EnOcean|基礎編
EnOcean無線通信技術の概要
2016.08.30
この記事のポイント
・EnOceanのもっともな特徴は、バッテリ不要、つまり電源がいらない無線通信である。
・EnOcean無線通信は315MHz~928MHz帯を使い、データレートは低めで通信距離は長めのアプリケーションに向く。
・EnOcean無線通信は、エネルギーハーベスティング+超低消費無線通信の組み合わせで、最適化されたモジュールが提供されている。
・超低省電力を実現するためのハードウェアとプロファイル、プロトコルが用意されている。
今回は、EnOceanの無線通信技術の概要について説明します。
EnOcean無線通信のポジショニング
無線通信には様々な規格や方式があります。その中でEnOcean無線通信は、315MHz~928MHz帯(日本では928MHz帯)を使用します。同じ近距離無線通信のWi-FiやBluetoothは2.4GHz帯を使いますが、EnOceanは特定小電力無線/Sub-GHz帯無線と同じ周波数帯を使います。下の図は、通信距離とデータレートで各無線通信のカバレッジを示したイメージで、表は簡単な比較のための主な仕様です。
一般的に通信距離とデータレートは相反する傾向があり、データレートが高ければ(低ければ)通信距離が短くなる(長くなる)という関係があります。EnOcean通信は、通信距離は使用周波数帯に応じて数10mから200m程度であり、データレートも125kbpsとなっています。使用周波数帯の特徴も含めて、特定小電力無線/Sub-GHz無線などと同じく「データレート低めで通信距離は長め」のアプリケーションに適しています。だたし、他と一線を画する特徴があります。それは、「バッテリ不要の無線通信」であることです。
バッテリ不要の無線通信技術
EnOcean無線通信は、バッテリ(電池)を使わずに、エネルギーハーベスティングを利用して自己発電し、その電力を使ってセンサのデータを送信することができます。以下は、EnOceanスイッチモジュールの例ですが、このモジュールには電磁誘導発電デバイスと超低消費電力の無線通信モジュールが組み込まれています。スイッチを押すというわずかな動きから発電を行いますが、その電力は決して大きなものではないため、超低消費電力で無線通信を行うデバイスが必須です。これらの技術の組み合わせによって、バッテリ不要のEnOcean無線通信を実現しています。EnOcean無線通信の導入のために、アプリケーションに適した各種モジュールが用意されています。通信LSIや発電素子を集めて設計する必要はなく、すぐに使うことができます。
発電技術であるエネルギーハーベスティングにはいくつか種類があり、アプリケーションによって適するものを利用することができます。
左側のスイッチモジュールは電磁誘導発電を利用したもので、先の概要説明に使ったものと同じです。発電デバイスは、コイルと鉄心、磁石、バネ、そして整流回路で構成されています。スイッチを押すという操作により、鉄心と磁石の接触場所が変わることによって、コイルの中心を通る鉄心を通過する磁束の極性が逆転することで、パルス的な電力を生み出します。
中央は温度差発電の例です。これはモーターや配管など、熱を発するものの表面にペルチェ素子を接触させ、接触面と放熱フィンとの間で生じる温度差によって発生する電力を、DC-DCコンバータで昇圧して電源として使用します。
右側はソーラーセルによって光を電気に変換して電力を得ています。仮に光の当たらない時間帯があっても、二次キャパシタを内蔵しているため、満充電状態から数百時間の連続運転できます。
それぞれのエネルギーハーベスティングに対応した無線通信モジュールを組み合わせた、サイズ、仕様ともに実際のアプリケーションに使いやすいモジュールが提供されています。
実用的なサイズでバッテリ不要の無線通信を実現
EnOcean無線通信は、エネルギーハーベスティングと超低消費無線通信技術の組み合わせであることを説明してきましたが、ここで、あらためて確認したいことがあります。
エネルギーハーベスティングには様々な方法があり、発電できる電力も様々です。単純な話をすれば、大きな電力を得るには、発電素子を大きくしたり、時間をかけて蓄電したりするなどで対応可能です。先に説明した発電方法はいずれも該当すると思います。しかしながら、ビルオートメーションやセンサネットワークなど、ほとんどのアプリケーションで、与えることのできる動きやサイズに対する制限があります。
つまり、限られたサイズと動きで、最大効率の発電を行い、最小限の消費電力で必要な無線性能を達成することが必要です。下図は、EnOcean無線通信が他の通信と比較して如何に低消費電力でありながら、比較対象より長い通信距離を達成しているかを示しています。縦軸は通信距離、横軸はEnOcean無線通信を1とした場合に他の無線通信が必要とするエネルギーです。EnOcean無線通信は、低消費電力と言われているZigBeeやBluetoothより10~1000分の1のエネルギーで動作するだけではなく、バッテリが不要でメンテナンスフリーであることが大きな特徴となります。
低消費電力化のための技術:ハードウェアおよびソフトウェア
ソフトウェアも含めた通信システムの全体像を示します。エネルギーハーベスティング素子により電力を得て動作する無線センサモジュールの場合、構成はエネルギーコンバータ、エネルギーマネージメント、センサ、マイコンおよび無線ブロックなどからなっており、これを使って構築されるワイヤレスセンサネットワークは、EnOceanが保有する基本特許になります。
左側のブロックはEnOceanの無線センサモジュールで、マイコン搭載超低消費電力無線通信LSIが低消費電力化のキーデバイスとなっています。例として、日本国内用928MHz帯のDolphin V4があり、ディープスリープ時の消費電流はわずか100nAです。
無線通信プロトコルは、電力消費を最小限にするEnOcean独自のものです。ネットワーク層、データリンク層、物理層が世界で始めてのバッテリレスワイヤレスセンサネットワーク向けの国際標準規格ISO/EC 14543-3-10として認証されています。
また、アプリケーション層には、EnOceanアライアンスから効率的な相互通信のプロファイルであるEEP(EnOcean Equipment Profile)が提供されています。
通信プロトコルについて、もう少し説明します。
アプリケーション層のEEPの他に、無線通信プロトコルのERP(EnOcean Radio Protocol )、受信機側のCPUへのシリアル通信(有線)プロトコルのESP(EnOcean Serial Protocol )が用意されています。後にあらためて説明しますが、EnOcean無線通信には、これらがかかわることを覚えておいてください。これらは、EnOceanおよびEnOceanアライアンスのサイトから、最新バージョンをダウンロードできます。
以上、概要となりましたが、以降、それぞれについて説明をして行きます。
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ローム主催セミナーの配布資料です。 エナジーハーベストによる電池不要の無線通信とセンサソリューションを提供するEnOceanに関する基本情報と基礎知識、スイッチモジュールおよびセンサモジュール製品群の説明です。
EnOcean
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基礎編
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EnOcean電池不要の無線モジュール ー概要ー
- スイッチモジュール : PTM210J
- スイッチ用発電モジュール : ECO 200
- スイッチ用送信モジュール : PTM 430J
- マグネットコンタクトモジュール : STM 429J
- 温度センサモジュール : STM 431J
- 湿度センサモジュール : HSM 100
- モジュール用ケースおよびケース付きモジュール
- 受送信モジュール : USB 400J
- 送信モジュール : STM 400J
- 送受信モジュール : TCM 410J
- EnOcean開発キット : EDK 400J
- ゲートウェイ開発キット : CS-A420W-ENOCEAN
- 送受信モジュール : CS35A3
- EnOcean電池不要の無線モジュール ーまとめー
- EnOcean無線通信技術
- DOLPHIN V4プラットフォーム
- DOLPHIN V4 開発ツールと開発フロー
- EnOceanを活用した開発導入事例
- 電波伝播に影響する要因と回避策
- EnOcean機器設置の実際
- EnOcean無線周波数への対応
- EnOceanエネルギーバジェット計算
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IoTにセンサソリューションと無線通信を提供するEnOcean
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EnOcean電池不要の無線モジュール ー概要ー
- 製品紹介
- FAQ