無線通信|基礎編

電波を使ったデータ伝送と変調

2016.12.20

この記事のポイント

・変調には一次変調と二次変調があり、二次変調はチャネルの多重化や妨害耐性を高める目的で、一次変調にさらに変調を加えるもの。

・代表的な一次変調方式には、ASK、PSK、FSK、QAMがある。

・二次変調方式として、拡散方式と多重化方式がある。

・拡散方式としては、直接拡散(DS)と周波数ホッピング(FH)の2つが代表的。

・多重化方式としては、時分割多重(TDMA)、周波数分割多重(FDMA)、符号分割多重(CDMA)がある。

今回は、電波を使ったデータ伝送とそれにともなう変調について、どの様な方式があるのか、概要と特徴を説明したいと思います。

無線通信では基本的に、信号送信時には変調を行い送信し、受信時には受信信号を復調するのは、前回の「無線通信回路構成と送受信の流れ」で説明した通りです。デジタル通信では、パケット(電文)と呼ぶ2値(0または1)のデータ列を伝送します。送信時に、この2値のデータ列を無線の搬送波(キャリア)にのせる(混合する)操作を一次変調といいます。また、通信路(チャネル)の多重化や妨害耐性を高める目的で、一次変調されたデータにさらに変調を加える操作を二次変調といいます。

RD-6_mod

一次変調方式

搬送波の振幅(amplitude)、周波数(frequency)、位相(phase)などを、送信するデータの0と1に対応する状態に変化させることが変調(modulation)です。変調方式によっては、1つの状態にNビットの情報を対応させ、伝送路の帯域幅を超えるデータの伝送も可能です。ここでは、代表的な4種類の一次変調方式を示します。データの0と1に対応する変調波形と特徴をまとめました。

RD-6_1mod

ASK、PSK、FSKのイニシャルは、先に記したAmplitude:振幅、Phase:位相、Frequency:周波数の略、そして、SKはSift Keyingの略で、Sift:偏移、Keying:変調を意味します。QAMはQuadrature Amplitude Modulationの略で直交振幅変調、または直角位相振幅変調と呼ばれる変調方式です。

ちなみに、気づかれた方がいるかと思いますが、同じ「変調」に対して、keyingとmodulationが使われています。keyingはモールス通信の名残です。単純に変調を言い表す場合や新しめの変調方式にはmodulationが使われていることが多いと思います。

本題に戻ります。FSKは、Sub-GHz無線とも呼ばれる特定小電力無線では主流の一次変調方式です。FSKは、2つの異なる周波数を使って0と1を表します。2つの異なる周波数は、搬送周波数に中心に±にシフトさせた周波数で、このシフト量を周波数偏移(frequency deviation:Fdev)といいます。また0と1のデータ変更速度をボーレート(baud rate)といいます。

以下は、搬送周波数:426MHz、Fdev:4.8kHz、データレート:9.6kbpsでの2値FSKの例です。左側は、全データ1送信時の波形で、搬送周波数(黄色トレース)に対して、+4.8kHz(緑トレース)に波形がシフトします。つまり、426+4.8kHzがデータ1を表す周波数です。データ0はこの逆で426-4.8kHzになります。右側は、ランダムデータを送信した場合で、搬送周波数に対して、±4.8kHzにピークができています。

RD-6_fsk1
RD-6_fskrand

二次変調方式

二次変調方式として、拡散方式と多重化方式の例を示します。

<拡散方式>

拡散方式とは、一次変調した搬送波をより広い帯域に拡散して送信することです。拡散することにより、特定の帯域にエネルギーが集中せず、他の通信からの干渉も受けにくくなります。方式としては、直接拡散(DS)、周波数ホッピング(FH)の2つの方式が代表的です。

RD-6_2mod

直接拡散(DS)は、データ列と高周波のPN符号(疑似ノイズ)を合成して広帯域に拡散して送信し、受信側で逆拡散(復元)します。図で示したように、拡散された信号にノイズが含まれても、復元時の逆拡散によりノイズは拡散されてしまう(信号は復元する)ので、ノイズの影響が小さくなります。これが、最初に説明した二次変調の目的の一つです。

周波数ホッピング(FH)は、実際に拡散するわけではないのですが、ホッピングによりチャネルを移って衝突を避ける手法をとることから、全体的には周波数が広くなっているように見えるので拡散手法に含まれます。図は、Bluetooth®の周波数ホッピングを例に示しています。

<多重化方式>

1つの伝送路上に複数のチャネルを構成し、同時に複数の通信を行う手法です。伝送路とは、有線伝送ならケーブル、無線伝送なら空間(周波数帯域)のことです。多重化方式には、時分割多重(TDMA)、周波数分割多重(FDMA)、符号分割多重(CDMA)があります。

RD-6_tr

TDMA(Time Division Multiple Access)は、1つの周波数上で時間を区切ってチャネルを配置するので、実際は同時ではありませんが、見かけ上同時といえる多重化方式です。FDMA(Frequency Division Multiple Access)は、チャネル毎に異なる周波数を割り当てて同時通信を行います。CDMA(Code Division Multiple Access)は、チャネル毎に異なる符号を合成し拡散させ同時通信を行う高度な多重化方式で、携帯電話に使われたことで聞き覚えのある方がいるかと思います。

一次変調および二次変調の方式を以下の表にまとめました。OFDMは上記の説明にはありませんが、無線LAN(IEEE802.11a/g/n)に採用されている方式なので、参考までに入れてあります。

一次変調方式

ASK 振幅偏移 “0”と”1”で搬送波の振幅を変える RFID、ETCで採用
FSK 周波数偏移 “0”と”1”で搬送波の周波数を変える Sub-GHzで多く採用
BluetoothはGFSK(ガウシアンFSK)
PSK 位相偏移 “0”と”1”で搬送波の位相を変える ZigBeeはQPSK(4値PSK)
QAM 直交振幅変調 振幅位相の両方を変える LTEで採用

二次変調方式

DS 直接拡散 疑似乱数波形(PN符号)で拡散 無線LAN(IEEE802.11b)で採用
ZigBee(IEEE802.15.4)で採用
FH 周波数
ホッピング
常に周波数を移動しながら通信 Bluetoothで採用
OFDM 直交周波数
分割多重
時間軸の波形を多数の周波数軸
(サブキャリア)に分散
無線LAN(IEEE802.11a/g/n)で採用
CDMA コード拡散 コードを使って周波数上に拡散 FOMAなど携帯電話で採用

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