無線通信|基礎編

電波の送信と受信 : アンテナと基本回路

2016.11.15

この記事のポイント

・半波長(λ/2)ダイポールアンテナはアンテナの基本で、共振を利用して最大の送信/受信電力を得る。

・小型化のために接地型λ/4モノポールアンテナが多く使われている。

・アンテナの特性を見るには、アンテナ指向特性利得とVSWRが重要。

・送信/受信回路構成の概要は理解する。

今回は、電波の送信と受信に関して必須となるアンテナと、無線の基本回路について説明します。

アンテナの種類

アンテナは無線通信において、電波の入り口と出口の役目をする重要な部品です。代表的なアンテナには、以下の4つがあります。それぞれの特徴を記します。

<半波長(λ/2)ダイポールアンテナ>

使用する周波数の波長の半分(λ/2)の長さのアンテナで、アンテナの基本です。効率が良いのが特徴です。無線周波数とアンテナの長さの例を示します。念のため、λ[m] は、3×108[m] / 無線周波数[Hz]です。

  > 920MHzの場合:λ = 約33cm → 約16.5cm
  > 2.4GHzの場合:λ = 約12cm → 約6cm

<接地型λ/4モノポールアンテナ>

半波長ダイポールアンテナの片側を、大地(グランド:GND)に肩代わりしてもらう接地型のアンテナです。アンテナ長は、λ/4が示す通り波長の1/4にすることができ、近年は機器の小型化のために多く利用されていますが、グランドが非常に重要になります。

RD_5_R2

<チップアンテナ>

高周波用誘電体セラミックスを使って形成した、接地型λ/4モノポールアンテナです。小型化、広帯域性に優れてます。チップの中にλ/4に該当するアンテナが形成されています。

<パターンアンテナ>

逆F型、ミアンダ型など、基板上に接地型λ/4モノポールアンテナを形成する方法です。多少利得が落ちますが、チップアンテナ同様に小型化に寄与します。λ/4ですので、2.4GHzの例だと、λ = 約12cm → 約3cm分を基板上に効率良く配線して作ります。

RD_5_chip

アンテナの長さに関する知識の一つとして、実際のアンテナは、導体における伝搬速度が真空中(光速)より少し遅いため、波長から計算される長さより少し短く設計されていることを知っておいてください。

代表的な4種類のアンテナを紹介しましたが、アンテナは形状で分類されることが多いと思います。一般によく見かけるTV受信用の八木アンテナ(メーカー名でもあるがアンテナの種類*)は線状アンテナに分類されますが、線状、平面など形状の呼称も多様です。また、大まかな形状分類の下に詳細構造や方式によって様々なアンテナがあります。 
*正確には八木・宇田アンテナ。現社名は日立国際八木ソリューションズ株式会社

半波長ダイポールアンテナの原理

半波長ダイポールアンテナは、アンテナの基本であることから、その原理を説明したいと思います。

右の図が示すように、半波長ダイポールアンテナは波長λの1/2の導体を2分割した構造になっており、この中央部を交流で駆動します。

この時に:

  • 両端は電流ゼロで、中央部に交互に向きを変えて電流が流れる(交流)と、両端を「節」、中央を「腹」として共振が起きる(青線)
  • 中央部は電圧ゼロで、両端に交互に向きを変えて電圧が生じ、両端を「腹」、中央を「節」として共振が起きる(赤線)
RD_5_R2dtl

長さが半波長の時、アンテナと送信電波が共振状態になり、最大電力が放射されます。受信においても受信電波とアンテナが共振状態になり最大電力を受け取ることができます。こういった意味で、半波長ダイポールアンテナはアンテナの基本と言われています。電流と電圧の分布状態を示すのに、「腹」と「節」という言葉を使いましたが、これらの表現は慣習的に使われているものです。

ちなみに、アンテナを曲げたり、丸めたりすると電波の減衰が大きくなります。

アンテナの特性

アンテナの特性を見るには、アンテナ指向特性利得とVSWRが使われます。

<アンテナ指向特性利得>

アンテナの指向特性で、アンテナ利得がわかります。左下の図は、λ/2アンテナの電波の放射特性です。中心にアンテナがあり、ドーナツ状に電波が放射されていることを表しています。ただし、この様な放射特性図はアンテナのデータシートに示されているとはほとんどなく、代わりに右下の指向特性図が提供されています。これは重要特性なので、データシートになくてもベンダーに要求すれば入手可能だと思います。

RD_5_R2rad
RD_5_R2dir

指向特性の左側、H面と表示のある図は、真上から見たものです。右側の8の字を横にしたようなE面は、真横から見た指向特性を示しています。指向特性に関して考慮しなければならないのは、水平偏波、垂直偏波面では特性が異なることから、送受信機の双方のアンテナは偏波面を合わせる必要があるということです。偏波面が合っていないと損失が大きくなり、目的の利得が得られなくなってしまいます。

<VSWR(Voltage Standing Wave Ratio):電圧定在波比>

VSWRはVoltage Standing Wave Ratioの略称で、日本語では電圧定在波比と呼ばれます。VSWRは、高周波が通過する際の反射の度合いを示します。VSWR=1は、反射がまったくない理想特性になります。数字が大きくなると、反射量が多くなります。実際には、使う通信LSIによって一律ではありませんが、1.5~2.0が使用可能の目安で、3.0が限界かと考えます。

  VSWR=1.5: 反射電圧20%、反射電力4%
  VSWR=2.0: 反射電圧33%、反射電力11%
  VSWR=3.0: 反射電圧50%、反射電力25%

VSWR=3.0では、反射電圧で半分、反射電力で1/4が損失となり、送受信に問題が生じる可能性があります。したがって、これも重要なパラメータです。

無線通信回路構成

ここで、一例として、実際の無線通信回路構成と、送受信の流れを説明します。以下の図は、送信に直接変調方式、受信にはLow-IF方式を採用した構成例です。

RD_5_trtx

細部の構成は方式によって異なりますが、送受信の基本的な流れは同じと考えてかまいません。送信時および受信時の各部の主な動作を番号順に記してありますので、参考にしてください。

次回からは、電波を使ってどの様にデータを伝送するのかを説明して行きます。

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