無線通信|基礎編
電波の伝わり方:反射/透過、回折、干渉
2016.10.11
この記事のポイント
・電波は、反射、透過、回折、干渉といった影響を受ける。
・電波の周波数が低い程、回折によって電波が影になるところにも届きやすい。
・電波は、マルチパスフェージングによって受信磁界強度が大きく変わる。
前回に続いて、電波の伝わり方について説明します。前回は、電波の減衰について話をしました。今回は、電波が伝わる際に生じる反射、回折、干渉といった現象について説明します。
電波が受ける影響
実際に電波が発せられ伝わっていく過程において、電波は、「反射/透過」、「回折」、「干渉」といった影響を受けて変化します。最初に、これらがどの様なものか図で示しますが、言葉からもイメージできると思います。
もし、障害物が何もなければ、電波は直進します。そして、媒体の特性が変わる、例えば地上では、見通しのきく空間(空気)の直線上にビル(コンクリートなど)があるといったことですが、この場合電波は媒体によって反射したり透過したりします。回折というのは、分野が違う人には聞きなれない言葉かもしれませんが、簡単に言うと電波が障害物を回り込んで伝わる特性のことです。最後は、干渉ですが、同位相の電波が干渉すると強め合い、逆位相だと打ち消し合います。これは、例えば電気信号のアナログ演算や海や池の波と同じです。
回折特性
回折について、実験データを使ってもう少し詳しく説明します。電波の回折は電波の周波数によって異なります。周波数が低いと回折して、例えば建物の影になる場所にも電波が届きやすくなります。左下はそのイメージ図です。また、右下の表は、特定小電力/Sub-GHz無線の950MHz帯と、無線LANなどの2.4GHz帯無線の、距離に対するエラー率と受信強度の例です。
送信器から5.5m、イメージ図の緑のポイントで見通しのきく位置では、950MHz帯も2.4GHz帯もエラー率は0%(=すべての情報が受信機に到達)です。ただし、信号強度は2.4GHzのほうが約20dB減衰が大きくなっています。つまり、弱くなっています。これは、前回の「減衰」で説明した「波長が長い/周波数が低いほうが減衰は小さい」というセオリー通りのです。
さて、距離が10mになるとどうでしょうか。950MHzのエラー率はまだ0%ですが、2.4GHzは96%で実質的に通信できていません。この結果は、2.4GHzという周波数の電波の回折特性によるものです。図の受信機の位置だと、電波の周波数が高く回折が少ないため通信不能になります。これに対し950MHzは、このデータでは50mになってもエラー率は0%です。言うまでもありませんが、2.4GHzより周波数が低いので電波がより回折して、遠くでも受信可能になっています。これが、特定小電力/Sub-GHz無線が「届きやすい」と言われる理由の一つです。
マルチパスとフェージング
市街地や建物内など、実際私たちがよく利用する環境では、電波はどのように伝わるのかという説明をします。市街地や建物内には、様々な媒体や障害物が存在します。したがって、アンテナの位置関係や周囲の状況で、電波の受信状態は変わります。下の図が示すように、ある地点から送信された電波は、直接受信されるものもあれば、地面や床に反射して届くもの、さらには、反射した電波がさらに建物などに反射して届く場合など、様々な方向から受信機に届きます。これを「マルチパス」と言います。
そして、これらの電波の経路長、つまり、到達するまでの距離が異なるのは理解できると思います。経路長が違うと到達までの時間に差が出るので、電波に位相のずれが生じます。そして、位相の異なる電波による干渉が起こると、最初に説明したように、電波を強め合ったり打ち明けし合ったりして、受信磁界強度が大きく変わります。これを「フェージング」と言います。
これは、3GHz(波長100mm)の電波の例です。経路長が50mm、もしくは150mm違うということは波長の半分にあたり、位相は逆位相/180°ずれているので打ち消し合いが起こります。100mm、200mmのずれはちょうど波長分なので、同位相となり強め合う作用が生じます。
通信エラーの原因
先ほど、回折の説明で950MHz帯と2.4GHz帯のエラー率のデータを使いました。この通信エラーを引き起こす要因を以下に示します。図から容易にイメージできると思いますが、各要因と例を表にまとめました。
電波の物理特性に起因するもの | マルチパスフェージング |
---|---|
他の無線機器からの干渉 | 同一周波数または近傍の周波数を使用している無線機からの干渉 例:WiFi (2.4GHz)、Bluetooth(2.4GHz)、ZigBee(2.4GHz) |
周囲からのノイズ | 自動車エンジンからのノイズ、工場、送電線など産業機器からのノイズ、電子レンジ(2.4GHz)、蛍光灯など家庭内の電子機器からのノイズ |
自然界のノイズ | 大気ノイズ、太陽フレアなどの電波障害、地殻変動などによる電磁ノイズ |
自装置のノイズ | 電源回路、CPU、発振器などの部品からのノイズ |
これらの要因は、ほとんどの環境に存在していることを覚えておいてください。無線設計やトラブル回避の基本になります。