エンジニアに直接聞く
力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
2018.06.12
現在、省エネルギー化は世界共通の課題であり、電子機器には稼働時だけではなく待機時の電力消費に関しても厳しい削減が求められている。また、供給される電力の無駄を削減するには、PFC(力率改善)機能の搭載が必須となる。しかしながら、PFCにより特に待機時や軽負荷時の効率が低下することから、機器設計において力率と効率の兼ね合いが大きな課題となっている。
この様な状況において、ロームは機器の力率改善と待機時の高効率化を両立する独自の電源制御技術を採用したAC-DCコンバータICを開発した。力率改善と高効率化の課題とその解決へのアプローチについて、ローム株式会社の担当エンジニアに聞いた。
-早速ですが、今回伺う話のテーマが「力率改善と軽負荷時の高効率を両立する」ということなので、最初に「力率」と「効率」について簡単に説明いただけますか?
近年、「効率」という言葉は幅広く使われていますが、「力率」は一般の方が使うことはほとんどないかもしれませんね。
効率は入力電力に対する出力電力の割合で、%で表すことがほとんどです。簡単な例だと、電源の出力電力が60Wの時の入力電力(消費電力)が80Wだった場合は、60W/80Wから効率は75%になります。これは理解が簡単かと思います。
力率は、交流の皮相電力、有効電力、無効電力の考え方が必要なので少し面倒かもしれません。力率自体は皮相電力に対する有効電力の割合で、最大は1になります。こちらは、0.9とか0.95といった小数を使うことが多いと思います。皮相電力は電力会社が送電する電力で、「見かけの電力」ということもあります。有効電力というのは、機器、つまり負荷が使用する電力です。例えば、前出の電源を例にすると、電源(機器)が使用(消費)する電力(有効電力)が80Wで、この80Wのために電力会社が送電した電力(皮相電力)が100Wだとすると、力率は80W/100Wから0.8になります。
力率は交流電力なのでベクトルで考えます。交流電力の電圧と電流の位相をθとすると、力率はCOSθで求めることができ、電圧と電流の位相差がない状態で正弦波の時に1になります。言葉だけだとわかりづらいので、図をご覧ください。
負荷が単純な抵抗の場合は位相遅れが発生しないので力率は1になります。容量性や誘導性の負荷がある場合や波形が正弦波ではない場合は位相のずれが生じ、力率は1ではなくなります。これを、今回のテーマであるスイッチング方式のAC-DCコンバータの入力電圧と電流波形で考えてみます。
スイッチング電源は、入力の交流電圧平滑用にコンデンサが使用されています(コンデンサインプット型整流平滑と呼ばれている)。この平滑用コンデンサは、当然のことながら容量性負荷になります。このコンデンサへの入力交流電流は、入力交流電圧が平滑コンデンサ電圧よりも高い時にだけ流れるため、下図のように導通角が小さくパルスのような正弦波でない高周波成分を含んだ電流になります。
この様な状態では、電力消費が同じだとしても電源側では一時的に大きな電流が流れるため、Cin=100?F、Vin=100Vrms、Po=20Wとすると入力電流のピーク値は1.4Aとなります。力率は約0.5となり、力率が1のときと比較すると5倍になります。したがって、この様な高周波成分を含んだ正弦波でない電流が流れる負荷に対しては大きな皮相電力が必要なり、電力供給側である電力会社は余分な発電や大きなピーク電力に対応する設備が必要になり、コストも増加してしまいます。
-簡単な言い方をすれば、機器の電源の力率が悪いとその消費電力より大きな電力を供給する必要があり、発電や送電に無駄が多くなるということですね。
その通りです。力率が低いことの問題には、すでに世界各国で対応が取られており、指定電力以上を消費する機器には高周波電流規制を行うなど、法規制を行っている国も少なくありません。この規制に対応する手段の1つが力率改善回路(PFC)の利用で、力率を高め高周波電流を抑制します。ヨーロッパではすでに75W以上の機器にはPFCの搭載が義務付けられており、日本においてもほぼ搭載されています。
-PFCは、どの様にして力率を改善するのですか?
PFCとしては、受動素子(インダクタ)を使用したパッシブタイプと、MOSFETなどのパワースイッチを使うアクティブタイプが一般的です。この図は、アクティブPFC回路による電流波形の改善のイメージです。高いピークを持ったパルスのような電流波形を、スイッチング動作によりチョッピングして正弦波に近づけます。
特徴として、パッシブタイプは回路構成が簡単ですが、広い入力電圧範囲には対応しづらく小型化も難しい面があります。それに対してアクティブタイプは、広い入力電圧範囲に対応でき小型化にも有利です。PFCコントローラなどと呼ばれているICには、当然のことながらアクティブタイプです。
-それでは、今回のテーマである「力率改善と高効率の両立」に話を移したいと思います。これは、「PFC回路を搭載すると効率が下がる」と言うことでしょうか?
アクティブ方式のPFC回路の搭載は、その分の消費電力が増えるので効率に関し言えば低下します。特に待機モードを持つ昨今の電子機器においては、PFC回路の消費電力が待機時の効率に与える影響が顕著になります。
この課題に対して開発したのが、PFC制御機能を内蔵したAC-DCコンバータ用のコントローラICの1つが「BM1C101F」です。BM1C101Fは擬似共振型を採用しており、内蔵のPFCコントローラを設定した電力でオン/オフできる機能と、PFC出力を切り替えできる新制御方式が特長です。これらの技術によって待機時電力を大幅に削減でき、国際規格のEnegy Star6.0の要求をクリア可能です。
【資料ダウンロード】AC-DCコンバータの基礎と設計手順
エンジニアに直接聞く
-
GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
- ロームグループのIoTへの取り組み:ロームグループがもつIoT関連技術を集結 センサはIoTキーアイテムの一つ
- 無線に取り組む機器設計者のための基礎知識:無線通信の種類と分類を考えてみる
- 工場のIoT化を促進するマシンヘルス:工場の設備、機器の健康状態を管理して故障を未然に防ぐ
- センサ評価キットがIoT機器のTime-to-Marketを加速:センサ評価用ツールの需要が高まる
- いち早く具体化が進むIndustrial IoT:産業IoTの動きが活発に 既存の装置や設備のIoT化が鍵
- IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
- IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える
- 13.56MHz(NFC)ワイヤレス給電のアドバンテージとは:モバイル機器のワイヤレス充電にはさらなる小型ソリューションが必要
- 産業用途グレード降圧DC-DCコンバータ:産業用途では長期供給保証と小口販売は普通の要求
- 全43機種、車載向け汎用LDOレギュレータ:43機種という豊富なバリエーションには理由がある
- FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズ:FPGAの電源要求とは
- MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
- 業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ:フォトカプラのメンテナンスから解放 小型で設計が簡単
- 48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
- 第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く
- 環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に
- 力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
- 車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
- 4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
- 小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計:技術トレンドの変化によって、熱設計には逆風が吹いている
- DC-DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化:出力の安定性と応答性のチェックには周波数特性を評価する
- 業界トップクラスの低ノイズと低損失を両立した600V耐圧IGBT IPM:IGBT IPMを使うメリットと課題