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環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に

2018.01.30

近年、環境問題は全世界的課題として分野を問わず、その対応が必要になっている。電源においては、変換効率はもちろんのこと、待機時消費電力に関しても規制が設けられるなど、省エネルギーの要求は厳しさを増している。加えて、環境負荷軽減の一端である産業廃棄物削減の要求が高まっている。このような状況を踏まえて、環境負荷低減に対する電源の技術的動向を、ローム株式会社 LSI本部 商品開発担当 アプリケーションエンジニア部 加藤 遼 氏に聞いた。

-世界規模で省エネ対応が必須となり、電源では高効率化が第一の課題となって久しいですが、最近は電源にも産業廃棄物削減に対する方策が強く求められていると聞きました。最初に、この辺の状況を教えてください。

例えばACアダプタなどの電源は、電気製品の性能や機能に大きな影響を与えることが少ないことから、必要な電圧と電流を供給すること以外にあまり検討事項はありませんでした。ところが近年、ACアダプタなどの外部電源への関心が非常に高まっています。その理由は、やはり環境問題、そして関連する規制への対応において、技術的解決策を含めた対応が必要なところにあると思います。環境問題に対するACアダプタなどの重要課題は2つあると考えています。1つは「高効率化」です。もう1つは、産廃削減のためにACアダプタなど外部電源そのものの「数を減らす」ことです。

-わかりました。それでは、1つずつ詳細をお聞きしたいと思います。まず、高効率化ですが、効率はかなりのレベルまで来ている印象があるのですが。

電子機器などに搭載されているDC-DCコンバータでは、90%半ばの高効率を達成しているものが珍しくないので、確かにかなりのレベルにあると言えます。しかしながら、ACアダプタなどのAC-DCコンバータに関して言えば、スイッチング方式の普及により効率はかなり改善されましたが、まだ80%台のものがほとんどです。

-そうすると、電力の大もとであるAC-DC変換の効率を改善することが重要になるわけですね。

その通りです。電気製品の生産数量は年々増加し、それに比例して電力使用量も増加傾向にあります。電気製品は、現在、年間50億台程度生産されており、それらのほとんどに電源モジュールや電源回路が搭載されています。仮に、これらの電源の損失を1W改善できたとすると、単純計算で50億Wの電力使用を削減できます。これは、原子力発電5基分に相当する電力で、非常に大きな省エネになることは簡単にイメージできると思います。

-そう考えると、急務である実感がわきます。

このような背景から各国の規格団体等も効率に対する規制を強化しており、それらの基準や規格をクリアする電源モジュールや電源回路の開発する必要性が高まっています。

-例えば、どんな規制があるのですか?

ACアダプタに関する例の1つとして、米国エネルギー省(DOE)の効率規制があります。これは、2014年2月に発表され、2016年2月から適用されています。対象になるACアダプタなどの外部電源は、その基準をクリアしなければ、米国内での販売ができないという厳しいものです。表が示す通り、定格出力電力で分類され、動作時の平均効率と無負荷時の消費電力が定められています。

-ここにあるパソコンのACアダプタですが、16Vで2.5Aとなってます。

であれば、出力電圧6V以上に対する上の表で、出力電力は40Wなので2行目に該当します。計算すると87.6%以上の平均効率で、無負荷時の消費電力は0.1W以上である必要があります。これは、このACアダプタがスイッチング方式でなければ基本的に不可能で、スイッチング方式であってもかなり厳しい条件です。

-ということは、この規制をクリアするためには、さらに効率の高いソリューションが必要だということですか?

やはり、より効率が高い技術や方式を使ったソリューションが必要だと考えます。従来のAC-DCコンバータでは、回路が簡単で比較的安価という理由から、整流素子にダイオードを使用したダイオード整流方式が多く採用されています。ダイオード整流方式の高効率化は、MOSFET等のスイッチング素子やダイオード等の整流素子の特性改善が主流でしたが、これらパワーデバイスの改善だけでは近年の要求に追いつかなくなってきています。

これらの課題を解決するためには部品技術では限界があるため、より高効率な回路技術として同期整流方式が採用されています。

-DC-DCコンバータでは、ダイオード整流方式から同期整流方式への移行によって、大幅な効率の向上を果たしたという経緯がありますが、それと同じと考えていいのでしょうか?

基本的には同じアプローチです。動作は一次側のスイッチングに同期して、二次側の整流素子となるMOSFETをオンオフさせます。整流素子がダイオードからMOSFETになることで、ダイオードのVfに該当する導通損失は、MOSFETのオン抵抗とIdsによる電圧降下になります。ご存知だと思いますが、同期整流方式で使用されるMOSFETのオン抵抗は一般的には十ミリΩ台と非常に低いため、大幅な損失低減が可能です。このポイントはDC-DCコンバータと同じ考え方です。

-DC-DCコンバータの同期整流方式化はかなり昔の話だと思います。なぜ、AC-DCコンバータではダイオード整流がまだ主流なのでしょうか?

同期整流方式自体は、低電圧のDC-DCコンバータのほとんどに採用されているため、特に目新しいものではありません。しかし、AC-DCコンバータにおいては制御方法などに課題があり、同期整流方式の普及の妨げとなっていました。

多くのAC-DCコンバータでは、PWMフライバック方式が採用されており、入出力条件やトランス仕様によって連続モード動作になります。しかし、同期整流方式との単純な組み合わせでは、連続モード動作になると正常な制御ができなくなり、一次側のスイッチ素子(MOSFET)と二次側の整流素子(MOSFET)が同時にオンしてしまい、貫通電流によって素子の破壊を引き起こす可能性がありました。このため、同時オンを防止するための保護回路の追加や、連続モード動作にならない疑似共振方式や不連続モード動作のみでの使用がほとんどでした。

-わかりました。それでは、具体的なソリューションを教えてください。

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