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第三世代SiCショットキーバリアダイオード : SCS3シリーズ第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く

2017.07.25

ロームは、SiCショットキーバリアダイオード(以下SiC SBD)の第三世代として「SCS3シリーズ」を発表した。SCS3シリーズは、第二世代SiC SBDで達成した当時業界最小の順方向電圧をさらに改善しつつ、大幅にサージ電流耐量を向上させたデバイスである。このSCS3シリーズについて、特長や適用されるアプリケーションの展望を、開発を担当したローム株式会社 千賀 氏に聞いた。

-SiC-SBDの第三世代デバイスがこの春に発表されました。第三世代SiC-SBDの特長や前世代からどのように進化したかをお聞きしていきますが、せっかくの機会ですので、最初にSiC-SBDの基本的なことについて教えていただけないでしょうか。正直なところ、SiC:シリコンカーバイドという半導体を使ったダイオードやトランジスタの特長をよく知らない人が少なくないと思うのですが。

そうですね。ロームがSiCを使ったパワーデバイスの一貫生産体制を確立し、SiC-SBDとSiC-MOSFETの量産を開始したのが2010年です。この時点でSiC-SBDは国内初、SiC-MOSFETは世界初という状況でした。SiCパワーデバイスとして、SiC SBDが市場に流通し始めたのが2000年代初めですし、SiC MOSFETにいたってはまだ5年程度しかたっていないことになります。

最初にSiC半導体材料としての物性を少し説明しておきます。

SiCは、熱的、化学的、機械的に非常に安定した化合物半導体で、パワーデバイスにとって重要なパラメータが非常に優れています。絶縁破壊電界強度がSiと比べ約10倍高いため、耐圧を確保するために必要な膜のドナー濃度を高く、膜厚を薄くすることができるので、単位面積当たりの抵抗が非常に低い高耐圧デバイスを作ることができます。その結果、高耐圧で高速スイッチングに優れた多数キャリアデバイス(SBD、MOSFETなど)を実現することが可能になります。また、Si材料と比べて、バンドギャップが約3倍、熱伝導率が約3倍高いといった特長もあります。

-SiCはSiに対し、高速スイッチング可能な多数キャリアデバイスを高耐圧化するのに非常に有利な半導体材料であるということですね。

その通りです。ダイオードを例に挙げてより詳しく説明したいと思います。この図はSiC-SBDSi-SBDSi-PNDを図式化したもので、電流が流れる仕組みを示しています。

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SiC-SBDもSi-SBDもショットキーバリアダイオードですので、金属がn型半導体にショットキー接合している構造は基本的に同じで、多数キャリアの移動により電流が流れます。SiC-SBDの厚さを薄く示してあるのは、先ほど説明した耐圧を保持するために必要な膜厚を薄く、低抵抗に作れることをイメージしています。Si-PNDはp型シリコンとn型シリコンの接合構造からなり、多数キャリア少数キャリアともに電気伝導に寄与します。

SiC-SBDとSi-SBDはともにn型半導体中の多数キャリア(電子)が作用することで動作する多数キャリアデバイスなのでスイッチング時の高速性が特長です。加えて、SiC-SBDはSi-SBDでは実現困難な高耐圧デバイスを実現しています。Si-SBDは実用域での耐圧はおおよそ200V程度が限界ですが、SiC-SBDは1700V品まで量産されており、それ以上の耐圧のデバイス開発も進んでいます。

Si-PNDは少数キャリアデバイスであり、Si-SBDをはるかに超える高耐圧と低抵抗を同時に実現できますが、スイッチング時の性能は多数キャリアデバイスに劣ります。Si-PNDの中で高速性を高めたのがFRDですが、それでもスイッチング時のリカバリ特性はSBDに劣ります。

右の図は、Si-SBD、Si-PND/FRDとSiC-SBDの耐圧のカバレッジを示したものです。SiC-SBDは、Si-PND/FRDの耐圧範囲のかなりをカバーできているので、この耐圧領域のSi-PND/FRDを、SiC-SBDに置き換えることで、リカバリ特性を改善し、アプリケーション上でメリットを発揮できます。

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-SiC-SBDは、Si-SBDとは競合しない高耐圧領域をカバーし、それはFRDの領域と競合するわけですが、リカバリ特性がFRDよりはるかに優れるということですね。

そうです。これは、SiC-SBDとSi-FRDのスイッチング時のリカバリ特性の比較です。
それぞれ、温度依存性も示してあります。

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まず、見比べてすぐにわかるのは、リカバリ特性は明らかにSiC-SBDが優れていることです。また、温度依存性もほとんどありません。先ほど構造について簡単に説明しましたが、Si-FRDの場合、少数キャリアが作用することで低抵抗でのオン動作を実現しています。しかしながら、オフ時に少数キャリアがリカバリ電流に寄与し、アプリケーション上のスイッチング損失となります。SiC-SBDは多数キャリアデバイスであるため、原理的にこのリカバリ動作がありません。デバイスの接合容量に起因するリカバリ電流のみが流れ、温度依存性はほとんどありません。

リカバリ損失を大幅に削減できますので、機器の効率向上に貢献することができます。また、リカバリ電流が小さいのでノイズ低減も期待でき、これら対策部品を減らすことによる回路の小型化も可能です。

-他に確認しておくべき特性はありますか?

順方向電圧(VF特性もSi-FRD製品と違う点があります。こちらも図を見ていただいた方がよくわかります。

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Si-SBDのVF温度特性はSi-FRDも含むSi-PNDとは異なります。Si-FRDは高温になるにつれ抵抗が低下しVFが低下しますが、SiC-SBDは高温になるにつれVFが高くなります。

この特性には一長一短があり、Si- FRDは並列接続使用時に、片側のダイオードに電流偏りが起きた場合に熱暴走してしまう可能性がありますが、SiC-SBDはVFが高くなり、電流平衡をとれます。そのため、SiC-SBDはダイオードの並列接続を実施できるという意味でメリットがあります。逆に、サージ電流耐量IFSMがSi- FRDより低い点は気をつける必要があります。

-今まで説明いただいたことを、まとめてもらえますか。

まず、SiCはパワーデバイスに非常に適した半導体材料で、優れた特性をもっています。ショットキーバリアダイオードとした場合、高速性に優れ、Si-SBDでは対応できない高耐圧デバイスを実現することができます。耐圧の観点からはSi-FRDと競合しますが、リカバリ性能がより優れています。高速なリカバリ特性は、機器の効率向上と応用回路の小型化につながります。

-何か課題はないのでしょうか?

Si-FRDと比較して、サージ電流耐量が低いことが課題だったと思っています。今回、第三世代SiC-SBDをリリースしたのも、そういった課題に対するアクションの一つです。これまでロームの特長であった低VF特性に加えて、サージ電流耐量IFSMの向上、かつリーク電流IR特性を改善したことで、よりSiCパワーデバイスを採用されるお客様が増えるのではないかと期待しています。

次回に続く

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