エンジニアに直接聞く
フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ独自の適応型オン時間制御で、絶縁電源の過渡応答を大幅に向上
2017.06.27
-最初に、「適応型オン時間制御」からお願いします。
「適応型オン時間制御」は、ロームの非絶縁電源制御ICに採用されている「オンタイム制御」を応用したものです。BD7Fシリーズは、この適応型オンタイム制御を最初に採用した絶縁型電源制御ICになります。従来の絶縁型電源制御ICには、瞬間的な負荷電流の変動に対する出力電圧変動、つまり負荷過渡応答に改善の余地がありました。この課題に対して、BD7Fシリーズは適応型オンタイム制御の採用により、負荷過渡変動を200mVに抑えることができました。これは、一般的な制御方法に比べて最大で65%低減できています。比較データがありますので、ご覧ください。
-「適用型」というのはどういうことですか?
適応型オン時間制御は、負荷の状態に合わせて3種類の動作で対応します。
負荷が一定で安定している時は一般的なPWM制御を行い、スイッチング周波数は400kHz(Typ)固定で動作します。
負荷が変動した時はオン時間制御になり、負荷過渡に対応するオン時間で動作します。この時は、スイッチング周波数は変動します。
軽負荷時においてはPFM動作になり、スイッチング周波数を低下することで自己消費電力を抑え、高効率を維持します。
結果として、全負荷領域で高効率を実現し、高速負荷過渡応答を実現しています。また、従来方式では必要だった外付け位相補償部品も不要になっています。
-わかりました。それではもう一つの「出力負荷補償機能」についてお願いします。
「出力負荷補償機能」は、負荷電流によって二次側出力ダイオードのVFが変動することで生じる出力電圧変動、つまり誤差を補償する機能です。この誤差が問題になるアプリケーションでは、この機能を利用して負荷変動による二次側出力ダイオードのVF特性と逆の電圧補正を入れることができ、ロードレギュレーションを改善することができます。
-すいません。ちょっとピンとこないのですが。
一次側のフライバック電圧を利用して2次側の出力電圧を安定化する説明をした時に、この式を提示しました。
この式から、VOUTの誤差要因になるのがVFとESRであることを説明しました。負荷電流である二次側トランス電流ISの変動により、ESR(二次側の総インピーダンス:トランス巻線抵抗、基板のインピーダンス等)による誤差は単純に変動し、VFはダイオードのVF-IF特性に依存して変動します
この誤差を補償するために、COMP端子で補償量決定し、出力電圧を決める帰還電流を補正する機能を備えています。簡単に言うと、負荷電流に応じてVFとESRによって生じる誤差を相殺するイメージです。
このグラフは、出力負荷補償機能を使用した時の補償イメージです。この機能を使うには、補償量を決めるCOMP端子に接続する抵抗とコンデンサの定数を決めるだけです。定数計算式などの詳細は、データシートに記載されています。
-グラフを見ると、負荷が増えるにつれて誤差要因がそのまま誤差になるという意味と、補償した場合のイメージができました。ところで、BD7Fシリーズは、帰還経路の絶縁回路が不要でMOSFETも内蔵していることから、部品点数が少なく設計も簡単になっていると思います。ただ、トランスが必要なので、とっつきにくいと言われることがあるのではないでしょうか。
正直なところ、トランスは少々面倒かもしれません。もちろん、データシートにトランスの選定範囲は記載されていますが、トランスを形にするまでを考えると、様書、試作作成、仕様書取り交わしなど非常に手間が掛かるものになります。
そういった意味で、まずは評価してもらうために、評価ボードを用意してあります。代表製品として、BD7F100HFN-LBの評価ボード「BD7F100HFN-EVK-001」があり、ネット系商社からインターネット経由で購入することができます。BD7F100HFN-LBによる、入力電圧24V、出力電圧5V、出力電流800mAの絶縁電源を簡単に評価することができます。評価ボードはこんなかんじです。
また、トランスも含めた他の主要部品は、データシートのアプリケーション例で具体的な型番を示してあります。以下は、BD7F100HFN-LBのデータシートからの抜粋ですが、トランスについて言えば、スミダコーポレーションのトランスが推奨されており、一般的な電圧に関してはすでに品番が取れています。
この表もデータシートからの抜粋ですが、他のアプリケーション例も分も含んでますが、推奨トランスの大まかな仕様も示されています。
-このようなサポートがあると、安心して検討できると思います。
他にも質問にお答えするなど、サポート体制を整えてありますので安心してください。
-今回は、かなり詳細な説明をしていただき、ありがとうございました。
エンジニアに直接聞く
-
アプリケーションの電源設計のヒントを、エンジニア同士で語り合う
-
GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
- ロームグループのIoTへの取り組み:ロームグループがもつIoT関連技術を集結 センサはIoTキーアイテムの一つ
- 無線に取り組む機器設計者のための基礎知識:無線通信の種類と分類を考えてみる
- 工場のIoT化を促進するマシンヘルス:工場の設備、機器の健康状態を管理して故障を未然に防ぐ
- センサ評価キットがIoT機器のTime-to-Marketを加速:センサ評価用ツールの需要が高まる
- いち早く具体化が進むIndustrial IoT:産業IoTの動きが活発に 既存の装置や設備のIoT化が鍵
- IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
- IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える
- 13.56MHz(NFC)ワイヤレス給電のアドバンテージとは:モバイル機器のワイヤレス充電にはさらなる小型ソリューションが必要
- 産業用途グレード降圧DC-DCコンバータ:産業用途では長期供給保証と小口販売は普通の要求
- 全43機種、車載向け汎用LDOレギュレータ:43機種という豊富なバリエーションには理由がある
- FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズ:FPGAの電源要求とは
- MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
- 業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ:フォトカプラのメンテナンスから解放 小型で設計が簡単
- 48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
- 第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く
- 環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に
- 力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
- 車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
- 4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
- 小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計:技術トレンドの変化によって、熱設計には逆風が吹いている
- DC-DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化:出力の安定性と応答性のチェックには周波数特性を評価する
- 業界トップクラスの低ノイズと低損失を両立した600V耐圧IGBT IPM:IGBT IPMを使うメリットと課題