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フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ一次側を制御することで二次側を安定化する手法

2016.10.25

-回路図だけを見ると、非安定の絶縁電源みたいですが、安定化されていますよね?

もちろんです。BD7Fシリーズが、どうやって出力を安定化するか説明しましょう。この説明には図があるとわかりやすいので、おもちしました。

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図の左側の回路図は、DB7Fシリーズの簡略回路ブロックと、外付けになるトランスおよび二次側の整流回路を示しています。右側は各ノードでの電圧(Vx)と電流(Ix)波形です。

二次側からの帰還なしに、どうやって安定化を行っているかと言うと、一次側のフライバック電圧Vswを構成する成分にVoutが含まれていることから、Vswをモニタして演算することによりVoutを間接的に検出して安定化制御をしています。

もう少し詳しく説明しますので、図中の波形と式を見ていただけますか。Vswは一次側のフライバック電圧で、トランスの一次側巻線の一端とこのICのSWピンがつながるポイントにおいて、内蔵スイッチ(MOSFET)がオフすると発生する電圧です。このVswには、「トランスの巻線比(一次側Np/二次側Ns)」と、「Voutと出力整流ダイオードVfの和」を掛け算した値に、「Vin」を加算した電圧が現れます。簡単に言うと、トランスの巻線比に比例した(Vout+Vf)の電圧にVinを足した電圧が発生します。言葉より、図と式を見ていただく方がわかりやすいですね。1つ補足があります。この式は、イメージしやすいように簡略化してあります。二次側に発生する電圧を(Vout+Vf)としましたが、厳密には(Vout+Vf)に、「二次側の総インピーダンス(巻線抵抗やESR)×Is」分の電圧を加える必要があります。この項は誤差要因ですので、設計のための計算には含まれている必要があります。

-一次側のフライバック電圧を利用することはわかりました。演算するとのことですが、特別むずかしくなければ、どのようにしているのか教えてもらうことはできますか?

原理は、そんなにむずかしくはないと思います。とは言え、やはり図と式があった方がわかりやすいので、もう一度図を出して式を使って説明します。図に2か所、丸囲みしてある部分がポイントになるところです。また、詳細は製品のデータシートに示されており、データシートの式は先ほどの簡略式でなく二次側電圧の全項を含んでいますので、整合のためにここからはデータシートの式を使います。記号の表記(小文字、下付き)が若干変わっていますが、意味は同じです。

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まず、以下が基本の式になります。VSWは、SWピンでのフライバック電圧です。先ほどの簡略式に「IS×ESR」が追加されています。

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VSWは抵抗RFBによって電流IRFBに変換されます。FBピンの電圧VFBはVINとの差動回路によりVINの電圧とほぼ等しくなります。この動作はオペアンプの差動回路と同じ考え方で、ループ制御になっていることを覚えておいてください。IRFBを式で表すと以下のようになります。

fom1

VFB≒VINなので、VSWからVIN(VFB)を差し引いた電圧をRFBで割るとIRFBになるのはわかると思います。これで、式の中にVOUTの項がでてきました。これから、VOUTを求めて行きます。

このIRFBは抵抗RREFに流れるため、REFピンの電圧VREFは次式となります。
すでに、IRFBが展開されていますが、戻すと当たり前ですが、VREF=RREF×IRFB になります。

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ここで、ブロック図を見ていただけますか。REFピンの電圧は、IC内部のコンパレータの非反転端子に入力され、反転端子の基準電圧0.78Vと比較されます。一般的な制御ICではここはエラーアンプになりますが、このICはコンパレータを使った制御方式なのでコンパレータになっています。エラーアンプと同じ考え方で、REFピン(コンパレータの反転入力)の電圧は基準電圧(0.78V)と等しくなります。従って、出力電圧VOUTとREFピンの電圧VREFは次式の関係になります。

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つまり、出力電圧VOUTはトランスの巻数比、そしてRFBとRREFの抵抗比によって決まります。VFとIS×ESRは出力電圧誤差の要因になります。

-なるほど。一次側のフライバック電圧をループ制御して、間接的に出力電圧を安定化するという意味がわかりました。設計のときは、この式をもとに出力電圧を設定すればよいのですね。

それで大丈夫です。データシートには、RREFの標準値として3.9kΩが示されており、VREFは0.78V(typ)ですので、それから出力電圧を設定できます。また、応用回路例と推奨トランスも提示されていますので、是非、データシートを見ていただければと思います。

-フォトカプラや補助巻線が不要だという仕組みのポイントを説明いただいたので、今度はDB7FシリーズのICとしての機能や特徴を伺いたいと思います。

(次回に続く)

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