エンジニアに直接聞く

スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編電源の変遷とメタルインダクタ

2016.08.02

ここまでは、インダクタの基本特性が電源特性にどの様に影響するかをお話ししてきましたが、ここで、電源の変遷に関連してメタルインダクタの使用が増えてきている件と、材料面も含めたメタルインダクタの特徴を説明させてください。これは、近年の小型化要求に対して、スイッチング周波数の高い電源の需要が増えたことと関係しています。

-確かに、小型化のために電源回路のスイッチング周波数を高くして、インダクタンスの小さいインダクタ、つまりサイズも小さいインダクタを使用するケースは増えていますね。

ご存じだと思いますが、ICはプロセスの微細化が進むにつれて電源電圧が低くなってきています。そして、逆に電源電流は大きくなり、「低電圧大電流化」とも表現されています。インダクタについては、大電流を流すにはインダクタンスは小さい必要があり、電源回路としては、小さなインダクタンスで動作するにはスイッチング周波数が高い必要があります。これに対して、元来、大きなインダクタンスでは特性に難があると言われたメタルインダクタが、インダクタンスが小さいという条件であれば特性とサイズの両面で優位になります。下のグラフはICの電源電圧の変遷イメージと、スイッチング周波数/インダクタンス/電流に対する、フェライトインダクタとメタルインダクタのカバレッジのイメージです。

ty_2_4_g1.gif

-フェライトインダクタにもインダクタンスの小さなものがあると思いますが、メタルインダクタの優位性は何ですか?

それでは最初に、フェライトインダクタとメタルインダクタの違いについて説明します。

ty_2_4_t1.gif

まず、メタルは透磁率μが低いので、インダクタンスを大きくしにくい材料です。しかしながら、飽和磁束密度が高い、つまり直流重畳許容電流が高く、飽和も非常に穏やかです。このため、直流重畳許容電流を同じとするならフェライトよりサイズを小さくできます。また、インダクタンスは温度に対してほとんど変化しないという特性をもっています。絶縁に関しては考慮すべき点があるので、後ほど説明します。周波数特性は最近かなり改善されており、高い周波数に対応しています。最後に材料費が△になっていますが、最近は需要が高まっていることもあり、かなりこなれてきていると思います。

大きな利点として、メタル材料は飽和磁束密度が高いので、優れた重畳特性をもつインダクタを実現することができます。これを有効利用するためには、透磁率μが低くインダクタンスを大きくできない点を改善する必要があります。

-実際は改善されているわけですよね?

自社製品で説明することになってしまいますが、弊社では一般的なメタルコンポジット材料に対して、「金属磁性圧粉材料」と呼ぶ独自の材料を開発しました。弊社の金属磁性圧粉材料は、メタルコンポジット材料に対し従来より高い透磁率μをもち、高い絶縁性をもった材料です。MCOIL™は金属磁性圧粉材料他、弊社の独自技術を盛り込み、実用的なインダクタンスと優れた重畳特性をもつメタルインダクタです。 

/mcoil.jpg

-その独自材料は絶縁性にも優れるということで、先ほどの「絶縁に関して考慮すべき点がある」という話と関係していますか?

同じく材料にかかわる話なので、ここで説明させてください。下の図はメタルコンポジットタイプとMCOIL™の比較で、改善点を示しています。

ty_2_4_t2.jpg

メタルコンポジットタイプの鉄粉は、鉄粉間の有機物樹脂により絶縁されています。それに対してMCOIL™の鉄粉は、個々に無機の酸化膜で覆われており、相互に絶縁をもちます。

メタルコンポジットタイプの絶縁樹脂は、特に高温下では劣化が進み絶縁も劣化します。そうするとQが劣化して損失が著しく増加します。鉄粉内に発生する渦電流が損失になるわけですが、鉄粉の径が大きくなると渦電流も大きくなり損失も増加します。この場合は、樹脂の劣化により鉄粉間の絶縁が劣化し、いくつかの鉄粉がひと塊りになり、大きな渦電流が流れるのが原因です。

MCOIL™の鉄粉を覆う酸化膜は有機物樹脂とは異なり、高温にさらされてもほとんど劣化が生じない材料です。これによって、メタルインダクタの課題の一つである絶縁性の劣化、結果的にはQの劣化を大幅に改善しました。また、この酸化膜を使う方法は、透磁率μの向上にも関係しています。

-具体的にどのくらい特性が違うのですか?

試験データがありますのでご覧ください。これは、MCOIL™と他社のメタルコンポジット標準タイプ(STD)と高Qタイプに対し、125℃と150℃の高温放置試験を実施した結果で、試験時間に対して、絶縁抵抗、インダクタンス、Qの変化をプロットしたグラフです。

ty_2_4_g6.gif

左上のグラフは、絶縁抵抗の変化を示しています。初期値(0時間)の値は個体のばらつきだと考えてください。これは他のグラフも同じです。500時間経過した時点での結果は見ての通りで、メタルコンポジットタイプは125℃の試験で約百分の1、150℃試験では1万分の5以下に減少し、明らかな劣化が確認できます。それに対してMCOIL™はほとんど劣化がありません。

右上はインダクタンスで、メタルコンポジットタイプには若干の劣化傾向が認められますが、MCOIL™は安定しています。

左下はQの変化です。メタルコンポジットタイプは125℃では緩やかな劣化ですが、150℃の条件では時間とともにどんどん劣化が進行しているのがわかります。先ほど説明したように、絶縁が劣化しQも劣化するといった結果を示しています。

いずれにしても、温度が高いほど影響が大きいのがわかります。これは、高温放置試験なので自己発熱はありませんが、実際の回路上では周囲温度に加え自己発熱も大きな劣化要因になります。これらの、インダクタの劣化が、DC-DCコンバータ特性にどの様に影響するか、効率で比較をしたデータを示します。

ty_2_4_g7.gif

このグラフは、150℃/500時間の高温放置試験を実施する前の試料と、実施後の試料を、実際のDC-DCコンバータ回路に組み込んで効率を測定したものです。実線が試験前のデータで、初期値の違いにより効率に差はありますが、どのタイプもそれなりに機能しています。オレンジのメタルコンポジットタイプはQが高いタイプなので、損失が少なく効率が高いことが伺えます。ちなみに、入出力条件は降圧比が高く少し厳しい条件になっています。他の確認事項として、Ioutが2A時のインダクタの表面温度を示してあります。

150℃/500時間の高温放置を行ったインダクタを使った結果は、破線で示されています。MCOIL™は若干の効率低下が見られますが、問題なく2Aの出力できています。メタルコンポジットタイプの2つは、青のSTD品は1Aの時点で試験前2A時と同じ表面温度になっており、オレンジのHi-Q品は1Aの時点で破損してしまいました。いずれも、先ほど説明したQの劣化により効率は低下し、それによりインダクタの発熱も増え、さらにQおよび信頼性の劣化を助長することになります。

-このような改善により、メタルインダクタの優れた特徴部分が電源回路に利用できるようになったわけですね。それでは、少し話を戻して、フェライトとの違いを詳しく教えてください。

こちらもデータを見ながら説明したいと思います。最初は直流重畳特性です。

ty_2_4_g3.gif

左のグラフは弊社のフェライト材料のインダクタのものです。前にお話しした磁性樹脂を使ったスリーブレスのインダクタで、飽和特性が比較的穏やかなタイプだと説明したものです。右は今まで説明してきたメタル材のMCOIL™です。どちらも5Aを超す直流重畳電流を流すことができ、フェライト材の方は穏やかにインダクタンスが減少しており、メタル材の方は説明した通り非常に穏やかなインダクタの減少を示しています。特性比較においては、ほぼ同じと言っていいと思います。

このデータで申し上げたいことは、メタルインダクタであれば、同等の直流重畳特性を得るのに、この例だとフェライトの6×6mmに対して4×4mmのサイズで対応できることです。面積比だと44%で半分以下になり、もちろん高さも低くなります。つまり、今回のキーワードの一つである小型化にも寄与するわけです。

続いて、このデータは直流重畳の温度特性を示しています。フェライトの方は、高温になるにつれインダクタンス低下の勾配が急になります。対してメタルの場合は、温度にかかわらず直流重畳特にほとんど違いなく、温度に対して安定だと言えます。

ty_2_4_g4.gif

フェライトは高温になると飽和しやすくなるので、実使用時の温度条件を加味して設計する必要があります。それに対してメタルは、もちろん、DCバイアス電流の増加によってインダクタンスは減少するのですが、設計の際に飽和に関して温度の影響をあまり考える必要ないのは重要なポイントになると思います。

最後に、公称インダクタンスと、直流重畳飽和電流と温度上昇許容電流の関係を示したグラフを見ていただこうと思います。

ty_2_4_g5.gif

先ほど、ほぼ同じ直流重畳特性が得られると説明したサイズのインダクタの比較例ですが、公称インダクタンスが5?H辺りまでは、フェライト、メタルともにほぼ同じなのですが、赤の破線が示すようにメタルタイプはインダクタンスが高くなると、フェライトより直流重畳飽和電流は小さくなります。言い換えれば、インダクタンスが高い場合はフェライトの方の特性が優れるということになります。これは、右側の温度上昇許容電流についても同様です。

それで、メタルタイプの5?H以上をプロットの点ではなく破線で示した理由を説明する必要があります。実は、弊社がもっているメタルタイプは4.7μHまでで、それ以上のインダクタンスのメタルタイプは作っていないからです。現状で、これ以上のインダクタンスではフェライトの方が優位だからです。

メタルタイプはμが小さくインダクタンスを大きくしにくいことはお話ししました。MCOIL™は材料の改善によりメタルコンポジットタイプより高いミューを達成していますが、それでもフェライトには及びません。メタルタイプも巻き線を多く巻くことでインダクタンスを増やすことができますが、それによってRdcが大きくなり発熱が大きくなるので現実的ではありません。現状では4.7μHがメタルタイプの恩恵を受けられる境界線かと考えています。

-そうすると、最初に説明いただいた負荷の低電圧大電流化と小型化要求に対して、電源側は小さなインダクタンスで小型のインダクタを使いたい。そして、そのためにスイッチング周波数の高速化を図っているという状況に、メタルインダクタはジャストフィットだということですね。

うまくまとめるとそういうことですが、メタルインダクタがもつ良い特性を活かせるように改善を行い、高速スイッチング電源の市場にアプローチしているといったところです。現状のメタルインダクタは、高速スイッチング電源に対する優れたソリューションであることを多くの人に知っていただきたくて、今回の話をさせていただきました。

【資料ダウンロード】スイッチングレギュレータの特性と評価方法

このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。

電源の変遷とメタルインダクタ

エンジニアに直接聞く

スイッチングレギュレータの特性と評価方法