エンジニアに直接聞く

業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ高耐圧だけではユーザーの課題は解決しない

2016.05.17

-それでは、BD9G341AEFJについて具体的にお聞きします。最初に概要を教えてください。

BD9G341AEFJが内蔵しているMOSFETは、Nチャネルで定格が80V/3.5Aになります。変換方式は、ダイオード整流または非同期整流と呼ばれる降圧方式です。抵抗とコンデンサ、ショットキーバリアダイオード、そしてインダクタといったわずかな外付け部品で、簡単に高性能な高耐圧DC-DCコンバータを構築できます。

電流モード制御なので、位相補償が簡単で高速な過渡応答が得られます。スイッチング周波数は50kHz~750kHzの範囲で設定でき、サイズと効率の最適化が図れます。また、近年のDC-DCコンバータに搭載されいるほとんどの保護機能をもっています。

特長と仕様の概略、応用回路例を用意しましたので見ていただければと思います。

  • ・定格80V/3.5A、Ron 150mΩの
       Nch MOSFET内蔵
  • ・最大出力電流:3A
  • ・入力電圧範囲:12V~76V
  • ・出力電圧範囲:1.0V~入力電圧
  • ・スイッチング周波数(可変):50kHz~750kHz
  • ・基準電圧:1.0V±1.5%(25℃)
      ±2%(全温度範囲)
  • ・高精度なENスレッショルド±3%
  • ・ソフトスタート機能
  • ・スタンバイ機能
  • ・過電流保護(OCP)、
       低入力誤動作防止(UVLO)、
       温度保護回路(TSD)、
       過電圧保護(OVP)搭載
  • ・動作温度範囲:-40℃~+85℃
  • ・パッケージ:HTSOP-J8(4.9 x 6.0 x 1.0mm)

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-高耐圧品ということで何か特別なことがあるかと思いましたが、非常にシンプルな構成なんですね。

一般的に高耐圧のDC-DCコンバータは、高耐圧MOSFETを外付けにする回路構成を採ることで高耐圧を実現している場合が多いのですが、BD9G341AEFJはMOSFETを内蔵したことでMOSFETの選択作業などが不要です。実装面積は、外付けのMOSFETがない分小さくなります。高耐圧なだけではなく、最新鋭のDC-DCコンバータICとして必要なことが盛り込まれたICなのです。

-高耐圧以外にも盛り込まれたことがあるのですね。

BD9G341AEFJは、4つのキーワードをもとに開発されました。

1.業界最高クラスの80V高耐圧を実現する
2.80VクラスのDC-DCコンバータで業界最高効率を達成する
3.破壊を防止し安全性を高める保護機能により機器の信頼性を向上させる
4.小型パッケージと外付け部品削減により省スペース化と設計の簡素化を図る

-やはり、MOSFET内蔵で80V耐圧の実現は大変なのでしょうか?

最初に少し説明しましたが、80Vの高耐圧はロームがもつ業界最先端のパワー系プロセスである0.6?mの高耐圧BiCDMOSによって実現しました。こういった高度な製造プロセスをもっていないと製造することは無理です。現に、市場の高耐圧品が80Vに及んでいないことからも明らかです。テレコムや産業分野での48V系入力電圧にまで、しっかり対応するには80Vの耐圧が必要なのです。80Vであれば、突発的なサージなどに対して大きなマージンを取ることができるので、電源条件が厳しく高可用性も要求されるアプリケーションの信頼性を向上することが可能です。

-効率なんですが、高い入力電圧から低電圧に降圧する条件では、効率は悪くなると聞きますが?

一般的に、高耐圧対応DC-DCコンバータの効率は素子特性や回路構成などの関係から、低電圧用より劣ることが多いです。また、48Vから5Vのような降圧比が高い条件では、12Vから5Vのような条件より効率は低下します。BD9G341AEFJは近似のICと比較した場合、最大で19%、定常状態で1.5%の効率改善を可能にしました。グラフは、発振周波数300kHz、入力電圧48V、出力電圧5Vでのデータです。

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-破壊防止、安全性向上というのは、高電圧を扱う場合には重要ですよね。

高電圧を扱うのが前提ですから、より安全な保護機能をもつ必要があると考え、出力短絡保護に独自のヒカップ(hiccup)方式を搭載しました。通常の出力短絡保護は、保護機能が働きますが過熱状態になり、最終的には破壊に至ることがあります。BD9G341AEFJの保護機能は、シャットダウンと復帰を周期的に行い、発熱を抑えつつ障害が排除されれば自動復帰します。この方法によって、電源の破壊を防止しアプリケーションの信頼性を向上させることができます。

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-4つ目は小型化と設計の簡素化ということですが、これは昨今では必須の課題です。

80Vの高耐圧MOSFETをはじめ、ゲートドライブ用の昇圧ダイオードなど、一般には外付けだった部品を可能な限り内蔵したことにより、外付け部品は最低限です。近似品では外付け部品が17個ほどですが、BD9G341AEFJは12個で済みます。また、これだけ集積度を上げながら、小型8ピンHTSOP-J8(4.9 x 6.0 x 1.0mm)パッケージにチップを収めることができました。結果として、実装面積を削減できるとともに、設計および評価も非常に簡単になります。特にMOSFETが内蔵されたことによって、MOSFETの選択や評価作業が大幅に軽減され、製品の市場投入までの時間短縮が可能です。

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-最後にまとめてください。

テレコムや産業機器市場の要求を考えた場合、既存の高耐圧DC-DCコンバータICでは、安全なマージンをもった電源にすることは困難でした。それに対して、ロームは80Vという業界トップクラスの耐圧を達成したICをもって、高耐圧DC-DCコンバータICの市場に参入しました。これは、ユーザーにとって高耐圧DC-DCコンバータICの選択肢が増えたことになると思います。

ただし、近年の小型省力化要求、そして製品の市場投入までの時間短縮という課題には必ず対応する必要があります。単に「80V高耐圧」だけでは、ユーザーの不満と課題は解決しないと考えてBD9G341AEFJを開発しました。

現在、高耐圧DC-DCコンバータのラインアップを拡充する派生品の開発を行っていますので、今後の展開にもご期待ください。

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