エンジニアに直接聞く
業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
2016.05.17
ロームが先般発表した「BD9G341AEFJ」は、80Vの高耐圧MOSFETを内蔵したDC-DCコンバータICである。80Vという耐圧は、非絶縁型のDC-DCコンバータICとしては業界トップクラスで、自社のラインアップの中でも最も耐圧が高いDC-DCコンバータICとなる。ロームはこの「BD9G341AEFJ」の発表と同時に、高耐圧DC-DCコンバータ市場へ参入することを表明している。
高耐圧のDC-DCは、テレコム関連や産業機器をはじめ、最近ではバッテリスタックを利用するアプリケーションも増えていることから需要が増している。ところが、60Vを超える耐圧をもつDC-DCコンバータICの供給メーカーは限られており、ユーザーは少なからず不満をもっているという。このような状況に対して、「BD9G341AEFJ」の開発背景、そして市場での位置付けを、ロームのアプリケーションエンジニアである玉川氏に聞いた。
-80V耐圧のDC-DCコンバータICとのことですが、DC-DCコンバータとしてはかなり高耐圧ではないでしょうか?
当社の調べでは、80V耐圧のDC-DCコンバータICは業界トップクラスです。厳密にいうと、パワーMOSFET内蔵の非絶縁型DC-DCコンバータICではということになります。
ご存じかと思いますが、ディスクリートとしてのMOSFETやダイオード、そしてAC-DCコンバータ用ICなどでは、500V以上の高耐圧品は数多く存在します。例えば、ロームのMOSFET内蔵AC-DCコンバータ用ICの内蔵MOSFETの耐圧は650Vです。また、パワーMOSFETを外付けとするDC-DCコンバータコントローラICと高耐圧MOSFETの組み合わせにより、高耐圧DC-DCコンバータを構成することが可能です。
しかしながら、単体部品ではなく一つのICとして80Vの高耐圧を実現するのには、高度な製造プロセス技術が必要です。BD9G341AEFJに使用したロームの高耐圧BiCDMOSプロセスは、業界最先端のパワー系プロセスです。
-60Vくらいの耐圧のDC-DCコンバータICがあることは知っていますが、あまり品種は多くなく供給メーカーも少ない印象があります。
その通りだと思います。DC-DCコンバータICを供給しているメーカーは沢山あり、その機種数は膨大だと思います。ところが、耐圧が40Vを超えたくらいから機種数はぐっと減り、60Vになると数百のラインアップをもつメーカーでも数十種には及ばず、60Vを超えると数えるほどになると思います。また、60V以上のラインアップをもっているメーカー自体が多くはないのです。現に、ロームもこの機種を開発する前は、一部を除いて40V耐圧品が最も高耐圧のラインアップでした。
-なぜ、高耐圧品は少ないのですか?
概略的な話をすれば、2つの理由が考えられます。一つは需要の大小、つまり市場規模が関係しています。高いDC電圧を入力とするアプリケーションは、産業機器、自動車、テレコム関連が主だった市場だと思います。これらを民生関連の市場と比較すると規模的には劣ります。そして、要求は非常に厳しいという特性をもっています。もうひとつは、ICとしての高耐圧化は高度な技術を要することです。
-それでは、どうしてロームは高耐圧DC-DCコンバータIC市場に参入するのですか?
産業機器、自動車、テレコムといった市場は、基幹産業といえる重要な産業であり、ロームの注力分野の一つでもあります。また近年は、自動車も含めたバッテリ電圧の多様化、バッテリスタックの利用など、高電圧からのDC-DC変換の需要が増えてきています。こういった状況なのですが、実はユーザーは現状の高耐圧DC-DCコンバータICに少なからず不満をもっていることがわかりました。
-どの様な不満なのでしょうか?
単純には、高耐圧のDC-DCコンバータICを供給するメーカーが少なく、また機種も少ないため選択肢が限られ、要求される性能や機能を満足することが困難なことがあるということです。
-具体例があれば教えてください。
テレコムアプリケーションの例をお話しましょう。一般にテレコム48Vと呼ばれている電圧は、大きな変動を前提としなければならない入力電圧で、原則的に36V~72V(48V -25%/+50%)を想定する必要があります。このテレコム48Vへの対応をうたった電源ICがないわけではないのですが、例えば60V耐圧系の拡張バージョン的な74V耐圧といった製品だったりします。これは、72Vというワーストケースは頻繁にはないという前提なのかもしませんが、マージンがほとんどないのは明らかです。現状において、このテレコム48VをきちんとカバーするDC-DCコンバータICはほとんどないはずです。
こういった状況に対して80V耐圧品があれば、テレコムアプリケーションにおいて安全な選択肢であり、ユーザーの不満にも対応できるのではないでしょうか。
-80V耐圧のDC-DCコンバータICは、DC-DCコンバータIC全体の中でどの様な位置付になりますか?
一般的なDC-DCコンバータICの耐圧区分と、代表的な入力電源との関係をイメージした図があります。入力電源の順は単に公称電圧ではなく、想定が必要なマージンも加味してあります。また、先にも述べた通り、高耐圧になるにつれて供給メーカーは少なくなり、製品数やバリエーションも少なくなります。いずれにしても、現状で80V耐圧というのはトップクラスの位置付けになります。
技術資料ダウンロードのご案内
ローム主催セミナーの講義資料やDC-DCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。
エンジニアに直接聞く
-
GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
- ロームグループのIoTへの取り組み:ロームグループがもつIoT関連技術を集結 センサはIoTキーアイテムの一つ
- 無線に取り組む機器設計者のための基礎知識:無線通信の種類と分類を考えてみる
- 工場のIoT化を促進するマシンヘルス:工場の設備、機器の健康状態を管理して故障を未然に防ぐ
- センサ評価キットがIoT機器のTime-to-Marketを加速:センサ評価用ツールの需要が高まる
- いち早く具体化が進むIndustrial IoT:産業IoTの動きが活発に 既存の装置や設備のIoT化が鍵
- IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
- IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える
- 13.56MHz(NFC)ワイヤレス給電のアドバンテージとは:モバイル機器のワイヤレス充電にはさらなる小型ソリューションが必要
- 産業用途グレード降圧DC-DCコンバータ:産業用途では長期供給保証と小口販売は普通の要求
- 全43機種、車載向け汎用LDOレギュレータ:43機種という豊富なバリエーションには理由がある
- FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズ:FPGAの電源要求とは
- MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
- 業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ:フォトカプラのメンテナンスから解放 小型で設計が簡単
- 48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
- 第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く
- 環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に
- 力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
- 車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
- 4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
- 小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計:技術トレンドの変化によって、熱設計には逆風が吹いている
- DC-DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化:出力の安定性と応答性のチェックには周波数特性を評価する
- 業界トップクラスの低ノイズと低損失を両立した600V耐圧IGBT IPM:IGBT IPMを使うメリットと課題