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スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編実装に関する課題-音鳴き-
2016.03.10
-それでは、もう1つの実装に関する課題である「音鳴き」について教えてください。音鳴きは基板からジーとかキーンといった音が聞こえる現象のことだと思います。例えば、携帯機器用の廉価な充電器には、けっこうな音がするものがあると聞きます。
そうですね。機器や環境によっては鳴っていても気付かない、もしくは気にならない現象かもしれませんが、今、例にあがった携帯機器の充電器などは、就寝時の静かな環境で鳴っていると気になると思います。また、オーディオ機器などは、再生している音以外に別の音が聞こえるのは大きな問題になります。
-最初に、音鳴きのメカニズムについて説明していただけますか。
高誘電率系のセラミックコンデンサは、誘電体に電圧がかかると誘電体が変形する(歪む)という特性をもっています。これは、圧電効果の逆の現象で、逆圧電効果とも呼ばれています。また、このような特性をもつことを、圧電性または逆圧電性があるといった表現をすることがあります。印加されるのがDC電圧であれば、それに応じた歪みが生じるだけですが、振幅がある電圧だとMLCCが周期的に変形し基板を振動させます。その周波数が可聴帯の20Hz~20kHzであれば、音として聞こえてしまいます。
上の図は、今の話をもう少し具体的に示したものです。グラフは、印加電圧とMLCCの変形の関係を示すものですが、スイッチング電源で考えてみると、出力電圧はDCですがスイッチング周波数に起因したリップル電圧を含んでいます。出力リップルが、出力コンデンサとして使われたMLCCの振動を誘発することがあります。
基板においては、MLCCの両端にある電極がはんだ付けされているため、電極間の長さ方向の変形(図の青い両矢印)が、基板を面方向(黄緑の両矢印)に変形させ、繰り返すことで振動になります。この振動が基板を媒介に増幅され、聞こえるレベルの音圧になってしまうのが音鳴きです。もちろん、振動の周波数が可聴帯域であることが条件になります。
-音鳴きはある種古典的な現象だと思いますが、どのような対策があるのでしょうか。
音鳴きは、誘電体材料やコンデンサの形状の他に、基板の大きさや実装状態などにも関連しますので、実際にはコンデンサ自体の対策とレイアウトの両方を検討する必要がでてきます。いずれにしても、完全に音鳴きを止めるのはかなり難しいので、許容範囲に改善するというアプローチになります。ここでは、4つの対策を紹介します。
?材料による改善
逆圧電効果が低い、つまり変形の少ない誘電体材料を使ったMLCCが開発されています。基本的には右のグラフが示すように低誘電率材料のほうが歪みは低くなります。例えば、LD(Low Distortion)シリーズといった、音鳴きが軽減可能な製品群があります。
?ボード設計による改善
これは、基板側での改善になります。例えば、同じ電源ラインに対して、図のように同じMLCCを両面に実装します。2つのMLCCの振動が逆相になり互いに打ち消しあうので、振動は緩和されます。
?構造による改善:LW(長さ-幅)逆転構造
一般的にMLCCは、電極間の長さが幅より長くなっています。電極間の長さを短くすることで基板振動の原因となる電極間の変形を軽減することができます。図のように、幅が電極間より広いタイプのMLCCが用意されています。図中の「RGC」というのが、逆転構造タイプです。
?構造による改善:メタルフレームタイプ
曲げ応力に対する対策でお話ししたメタルフレームタイプのMLCCは、音鳴きの改善にも寄与します。構造からすぐにイメージできるかと思いますが、メタルフレームがMLCCの振動を吸収します。
-各対策の効果の程はどんな感じなのでしょうか?
この4つのなかでは、メタルフレームに高い効果が期待できます。試験データをご覧いただけると一目瞭然です。標準品とメタルフレームタイプでは、最大で音圧が30dBほど改善されているのがわかると思います。
-音鳴きの対策について、何か気を付けることなどはありますか?
音鳴きは、最初にお話ししたようにMLCCの材料や形状の他に基板や実装にも関連しますので、状況によっては様々な角度からの検討が必要になります。改善効果の大小だけではなく、音鳴き改善のために基板レイアウトや部品の変更が必要になる可能性があります。現実面ではこれらが制限事項になり、トレードオフが必要になる場合があります。
例えば、メタルフレームタイプは改善効果が高いのですが、部品の高さがあるので、高さ制限がある場合には使用できないかもしれません。逆に、効果が確認でき高さの問題をクリアできるのでLW逆転型を採用するとすれば、配線パターンやレイアウトを変更する必要があります。こういった制限事項と対策の関係をまとめた表がありますので、参考にしてください。
コンデンサメーカーは、こういったことも含めて総合的な音鳴き対策のサポートが可能ですので、メーカーに問い合わせるのも良策だと思います。
-ところで、音鳴きは積層セラミックコンデンサ自体の信頼性などに悪影響はないのでしょうか?例えば音が問題にならなければ、鳴りっぱなし使い続けてもいいものなのでしょうか?
MLCC自体には影響はないと考えられています。MLCC自体の振動はピコ~ナノメートルの非常に小さなものです。それに対し、圧電効果を利用する圧電ブザーやセラミック振動子などは、その何十倍もの振動を積極的に利用するもので、十分な信頼性を備えています。この点からもMLCCの逆圧電効果が、特に信頼性に影響を与えるものではないことが理解いただけると思います。
-最後に、つかぬことをお伺いします。「音鳴き」という語なんですが、業界では「おとなき」と発音する人が多いと思います。ただ、国語的な観点や語源からは「ねなき」が正しい読みかと思うのですが、どうなんでしょうか。些細なことですが、ちょっと気になっていたもので。
確かに「おとなき」と言っていますね。エンジニアは理系なので国語がおろそかだということではないと思いますが、私にもよくわかりません。
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