エンジニアに直接聞く
MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ課題を解決するために開発されたIC
2015.09.17
-さて、既存のAC-DCコンバータの課題である、効率の改善と小型化を解決する目的で開発したというBM2Pxxxシリーズですが、どんなICなのか教えてください。
BM2Pxxxシリーズは、基本的に25Wまでの絶縁型フライバックAC-DCコンバータを構築できるICで、非絶縁型にも対応します。右の図は、IC内部のブロック図と周辺回路例です。制御は電流モードのPWMになります。大きな特長としては、出力パワートランジスタを内蔵し、電源回路として必要なほとんどの保護機能を集積したことです。詳細を説明しやすいように、特長とメリットをまとめものを用意したので、それを見ながら話をさせてください。少々細かいですが、BM2Pxxxシリーズの特長をほぼ網羅しています。
BM2Pxxxシリーズの特長とメリット
・ローム独自の650VスーパージャンクションMOSFET内蔵 | → | 高効率と小型化 |
---|---|---|
・電流モードPWM制御、サイクルごとの過電流リミッタ機能 | → | 負荷過渡応答の高速化 |
・スイッチング周波数 65kHz | → | スイッチング損失と周辺部品サイズの好バランス |
・低動作電流 500~950μA(typ. 機種により異なる) | → | 低消費電力 |
・バースト動作電流 400μA(typ. 共通) | → | 軽負荷時、待機時の効率低下防止 |
・軽負荷時バースト動作 | → | 軽負荷時、待機時の効率低下防止 |
・650V起動回路内蔵 | → | 軽負荷時、待機時電力低減、高速起動 |
・VCC端子低電圧保護および過電圧保護 | → | 出力電圧の過電圧保護、他の外付け部品オープン保護 |
・SOURCE端子オープン保護およびショート保護 | → | 内蔵MOSFETの破壊防止。ショート保護はローム独自 |
・ブラウンアウト(BR)機能 | → | AC電圧低下保護 |
・二次側過電流保護回路 | → | 過負荷保護 |
・ソフトスタート | → | 高効率と小型化 |
・DIP7パッケージに加え小型表面実装SOP8パッケージを用意 | → | 小型化、小電力のものはさらに小型に |
・全24機種のラインアップ | → | 設計への柔軟対応 |
これらの機能や特長は、1) 高効率であること、2 ) 低消費電力であること、3) 待機時電力が小さいこと、4) 小型化に寄与すること、を目的として盛り込んだものです。
-この4つは、話に上がったAC-DCコンバータの課題に直結していると思うので、順にキーポイントを説明してください。
1つ目の高効率ですが、内蔵した出力トランジスタがローム独自のスーパージャンクションMOSFET(以下SJ MOSFET)であることがキーポイントです。効率面では汎用MOSFETに比べてオン抵抗が大幅に低いことと、高速スイッチングが可能なことで、導通損失とスイッチング損失の両方を大きく改善しています。スイッチング周波数はスイッチング損失に関係します。高速にすると小型の周辺部品を使えるようになりますが、効率が悪化しますので両方のバランスを取った設定にしています。
実は、SJ MOSFETの採用は小型化にも関係するコア的なポイントなので、別途詳しく説明させてください。
-2つ目の低消費電力については。
これは、3つ目の待機時電力も含めて説明します。BM2Pxxxシリーズの動作時の自己消費電流は、機種によってことなりますが500μA~950μA(typ)で、出力トランジスタ内蔵型のAC-DCコンバータ用ICとしては、かなり低く抑えられています。
-機種は24機種と聞きましたが、この動作電流の違いは何に関係しますか?
これは自己消費分なので、もちろん効率に関係してきます。バースト時、これは軽負荷時や待機時の動作モードのことですが、この時の動作電流は機種に関係なく400μA(typ)です。負荷電流が大きいときの効率は出力トランジスタの損失の影響が大きいのですが、待機時も含む軽負荷時は、この自己消費分が効率に対して支配的になります。
言い換えると、低消費電力とは、負荷の全域に渡り高効率、つまり低損失動作ができるかどうか、そして、その中でも待機時、軽負荷時には通常の動作電流のままだと明らかに効率が低下するので、軽負荷時の動作電流を下げる手立てが必要になります。
-具体的にはどの機能になりますか?
軽負荷時バースト動作という項目がありますが、これになります。簡単に言うと、バースト動作は、軽負荷時に動作を停止して、負荷電流が必要になった時だけ動作します。このようにして動作電流を削減しています。
-では、最後の小型化です。
小型化には2つの面から対応しています。1つはIC自体を小さくすること、もう1つは周辺部品を含めて回路全体の面積を小さくするアプローチです。
-ICパッケージは、DIP7が25Wをカバーするのは相応か、それでも小さ目の印象ですが、さらに小さく表面実装のSOP8が用意されていますよね。
そうなんです。SOP8がカバーするのは8Wまでなのですが、他社製品はこの出力電力でもDIP7かDIP8パッケージです。理由はいくつかあると思いますが、8Wをカバーできる出力トランジスタと制御、保護回路を含んだチップがSOP8パッケージに収まり切れない可能性があります。BM2Pxxxシリーズは、ローム独自のSJ MOSFETを搭載しています。サイズあたりのオン抵抗が小さいことから、同じで電力に対応するならチップサイズを小さくできます。この優位性を利用して、SOP8パッケージのラインアップを用意することができました。
-実際のところ、SOP8だとどのくらい小型になるのですか?
ICが必要とする実装面積では半分近くの47%を削減することができます。
-もう一つの、周辺部品に関するアプローチは?
これは、ICへの集積を高めることで外付け部品数を減らすことと、制御面の特にスイッチング周波数を上げることで小さな外付け部品を使うことができるようにしています。
まず、出力トランジスタを内蔵していますので、その分の部品が1つ減ります。あとは、電源として必要になるほとんどの保護機能を搭載しているため、保護のための回路や部品がほとんどいりません。もし、BM2Pxxxシリーズが備えている全部の保護機能を外付けの回路で構成すると、抵抗、コンデンサはもちろん、オペアンプやコンパレータなど、かなりの部品数と面積が必要で、機能によっては実現できないものも出てくるでしょう。何よりも、それを設計する手間と時間を考えると大変なことです。
スイッチング周波数に関しては、スイッチング損失が小さく高速スイッチングが可能なSJ MOSFETを採用したことにより、効率を維持しながら、比較的速いスイッチング周波数を設定できました。これによって、トランスや出力コンデンサは多少なりとも小さなものを使うことができます。
-わかりました。そうなるとSJ MOSFETを内蔵したことが、課題解決に大きく寄与しているといえますね。
その通りです。もちろんそれだけではなく、全体として、高電圧を扱うこと以外は、最新のDC-DCコンバータと同様の低消費電力化や保護回路搭載、そして高速過渡応答性能を備えている点も、AC-DCコンバータとして大きな進歩です。
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