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FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズFPGAの電源要求に応えるために

2015.07.14

-FPGAの電源要求は説明いただいたので、今度はこのDC-DCコンバータシリーズが「FPGA向け」という理由をお聞きしていきます。まず、シリーズにはどんなDC-DCコンバータICがあるのでしょうか?

現状では8機種あり、FPGAの電源の電圧と電流をカバーできるラインアップになっています。個別には説明が大変なのでラインアップ表をお持ちしました。


大きく分けて、パワートランジスタ内蔵タイプと、外付けのコントローラタイプがあり、すべて同期整流型の1chです。入力電圧は、システム電圧の5Vをもらうものと12Vバスからもらう場合も想定して、耐圧は7Vと15.2V、コントローラは28Vです。出力電流はパワートランジスタ内蔵タイプが1A~6A、コントローラは外付けMOSFETによって広い設定が可能です。出力電圧は1.8V~1V前後を想定しているので、最低出力電圧は0.8V、コントローラが0.75Vに対応します。汎用電源としても一般的なパワーグッド、ソフトスタート、各種保護機能を搭載しています。

-先ほどまとめていただいたFPGAの電源に関する要求事項は、1) 電源電圧が多数、2) 電源シーケンス、3) 低電圧大電流、4) 電圧精度がタイト(リップル負荷過渡による変動、基板配線抵抗による電圧降下なども含む)、5) 低ノイズ、でした。これらは、電源に対する課題ということでしたが、このDC-DCコンバータシリーズはどのように対応するのでしょうか?

まず、1) 電源電圧が多数には、各電源に1個のDC-DCコンバータを対応させることで最適な条件設定ができます。2) 電源シーケンスについては、ソフトスタートや外部制御で対応できます。大きなポイントとなるのは、3) 低電圧大電流と4) 電圧精度への対応です。5) 低ノイズもこれに関連します。

-いただいた説明と表を見ると、最低電圧は0.8V/0.75Vと低く、出力電流は1Aから6A、コントローラではそれ以上が可能だとわかりますが、近年の汎用DC-DCコンバータは同じような仕様だと思います。

ポイントとなるのは、4) 電圧精度になります。DC的な電圧精度は内部のリファレンス電圧精度で決まり、±1%(コントローラは±1.5%)を最大値として保証しており、これは最も高精度の部類に入ります。つまり、これが出力電圧精度のすべてだとすると、先ほど例にした1V±3%は楽にクリアできます。ただし、電圧精度として括弧書きにした、リップル、負荷過渡による変動、基板配線抵抗による電圧降下などを加味すると、これらの誤差が上乗せになります。

-では、その上乗せとなる分への対処があるのですね。

電圧精度に影響する要因のリップル負荷過渡への対処と、電圧降下に対する対処は別になります。まず、リップルと負荷過渡について説明します。リップル、は出力からのフィードバック電圧に対する応答を高速にして、リファレンス電圧に対しなるべく狭い範囲でスイッチングを制御できれば小さくすることができます。負荷過渡に関しても、急激に負荷が変動した場合、できるだけ速く応答して変動した電圧を設定値に戻すことができれば、出力変動は小さく短時間で収まります。このために、このDC-DCコンバータシリーズは電流モード、ヒステリシスモード、H3Reg™モードという、いずれも高速な制御モードを採用しています。

-電流モードとヒステリシスモードは基本的な制御方法として知られていると思いますが、H3Regはどのようなモードなのですか?

H3Regはローム独自の高速過渡応答制御です。下記のブロック図はBD95601MUV-LBのH3Reg制御ループを示しています。H3Regは固定オンタイム制御の進化版と位置付ける制御方法で、電圧コンパレータにより基準電圧(リファレンス)とフィードバック電圧を高速に比較して、出力スイッチを高速に切り替えます。これは、スイッチング周波数に依存せずに高速な応答を実現します。

通常動作時の波形は以下のようになります。

FBフィードバック電圧(比較のために分圧された出力電圧)がREF基準電圧(リファレンス)より低くなると、コンパレータにより即座にHG(ハイサイド出力パワートランジスタ)がオンし、右の式で決まる時間の間出力に電流を供給することでVoutを上昇させオフします。続いてLG(ローサイド出力パワートランジスタ)は、FB=REFになるまでオンしVoutは下降します。

負荷電流(Io)が過渡的に増加した場合には出力電圧は大きく低下して、上記の式のton時間が過ぎても設定電圧まで上昇しきれない場合があります。これを検出すると左の波形のように、H3Regはton時間を延長してVoutの復帰を促進する、つまり過渡応答を速めます。その後Voutが復帰すれば、通常動作に戻ります。

他にも細かいことがあるのですが、このH3Regに代表される高速過渡応答制御が、FPGAの低電圧大電流でタイトな出力電圧精度をいう電源要求に対する重要なポイントになります。

-電圧精度に関するもう一つの課題である、基板配線による電圧降下にはどのような対処がありますか?

こちらはFPGAの電源端子の電圧をフィードバックするリモートセンスという方法と、DC-DCコンバータの出力を可能な限りFPGAの電源端子の側に実装するPOL(Point of Load)というアプローチがります。

-このDC-DCコンバータシリーズは、基本的な性能はもちろんですが、高速過渡応答性能が優れていることで、FPGAの電源要求に対応できるものであることがわかりました。ただし、実際の設計においてこのICの性能を十分に発揮させるための部品選定や基板レイアウトといったノウハウが必要になるかと思います。

非常に重要なポイントです。このインタビューではICの機能や性能面の重要なポイントに絞って話をしてきました。ただ、実際には電源回路としてFPGAの要求に対処していくことになり、それには構成部品の選択やレイアウトなどまだまだ留意しなければならないことがあります。それに対してロームでは、まずこのDC-DCコンバータシリーズを使ったリファレンスデザインを提供するとともに、個別の設計サポートを行っています。以下は、リファレンスデザインの例になります。

-こういった見本やサポートがあると、設計者は心強いと思います。

FPGAはその名の通りプログラマブルデバイスであり、個々に構成と動作が異なり、電源要求も異なります。そういった意味でも設計サポートは必須だと考えています。

-最後に付け加えることがあればお願いします。

実は、電源に付き物の効率の話が出てきませんでした。決して、FPGAは高効率を必要としないわけではなく、比較的大きな電力を必要とするデバイスなので、電源には最大効率が期待されています。このDC-DCコンバータシリーズは、基本的に同期整流式により90%前後の最大効率を実現し、軽負荷時はDeep-SLLM™ (Simple Light Load Mode)に代表される軽負荷時の効率維持モードを持っており、効率面でもFPGAの要求を満たすことのできる仕様になっています。

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降圧型DC-DCコンバータの基板レイアウトの基礎と事例を示したハンドブックです。スイッチング方式のDC-DCコンバータの安定性も大きな影響を及ぼす基板レイアウトの考え方や注意点を説明しています。

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