エンジニアに直接聞く
車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
2018.10.15
-車載とセカンダリ電源、そして概要に続いて、BD9Sシリーズの特長を教えてください。
端的に言うと、高効率、小さい、外付け部品が少ない、設計が簡単、ということになります。もちろん車載対応もです。これだけだと、ありがちなうたい文句なので、もう少し説明させてください。
最初にお話ししたいのは、外付け部品が驚くくらい少ないことです。電圧設定抵抗、パワートランジスタ、位相補償回路をICに内蔵したことにより、外付け部品はたった3個で済みます。必要なのは入力コンデンサ、インダクタ、出力コンデンサです。それも、2.25MHzという高速なスイッチングによって、入出力のコンデンサは10μF~47μFと小容量で小型のものが使えます。
インダクタも1.5μHと、こちらも非常に小さいもので済みます。「小さい」という特長に話は及びますが、ICのパッケージも非常に小さくて、従来品に比べ体積を約80%削減したHTSOP-J8パッケージを採用しました。
サイズは6.0mm×4.9mmの高さが最大で1.0mmです。これに外付け部品を加えた実装面積は約225mm2です。例えば15mm×15mmといった面積に収まってしまいます。
-確かに小さそうですが、何か比較例があるとわかりやすいのですが。
来の同等のDC-DCコンバータと比較すると、外付け部品は15個ぐらい必要だったのが3個で済みますので、これだけで劇的に部品数が少ないことがわかると思います。実装面積は400mm2くらい必要だったのは半分ほどになります。
それよりも、こちらの比較のほうが驚くのではないでしょうか。実はセカンダリの電源としてはLDO、つまり低損失のリニアレギュレータがまだまだ使われています。
一般的なLDOでは外付け部品は入出力のコンデンサの2個で、標準的な実装面積は225mm2くらいです。もう、お気づきかと思いますが、BD9SシリーズはLDOとほぼ同じ面積に収まってしまいます。LDOから置き換える際は、インダクタを1個追加するわけですが、実装面積は変わりません。
もう一つ重要なことがあります。このくらいのサイズで済むLDOの出力電流は、せいぜい1Aがいいところです。これは、発熱の問題があるからです。BD9Sシリーズは効率が高いので、同じサイズで3Aもの出力電流を供給できます。
-どのくらいの効率が期待できますか?
最初にBD9Sシリーズは、同期整流方式のDC-DC変換を採用しています。いまさら説明は不要かと思いますが、一般的に選択可能なDC-DC変換方式において最も高い効率を得られる方式です。
BD9Sシリーズの実際の効率は、グラフを使って説明します。これは、1.5V/3A出力のBD90535EFJ-Cの負荷電流に対する効率で、Light Load MODE(軽負荷モード)とPWM MODE(PWM固定モード)、入力電圧が3.3Vと5Vの条件別になっています。
この条件での最大効率は、グラフからLight Load MODE時は93%前後、PWM MODEは88%前後、いずれも負荷電流は450mAぐらいの時です。あえてLDOの効率を挙げると、1.5V出力ですので5V入力では30%、3.3V入力では45%です。
-Light Load MODEとPWM MODEでは、負荷が軽いときの効率がかなり違いますが?
制御の方法が違い、目的も違います。Light Load MODEは負荷電流に大きな変動、例えばフル負荷と待機状態があるような場合、全域に渡りベストな効率を提供します。ただし、そのために軽負荷時には間欠スイッチング動作をします。
-それは具体的にはどういうことですか?
負荷が大きなときは固定周波数のPWM動作をして、負荷が軽くなると間欠動作に切り替わります。
負荷電流をあまり必要にしないときは、休み休み動作して必要な分だけ電力を供給する動作をします。これは、低負荷時でも高効率を維持し、特に待機時間の長いアプリケーションでは効果的です。
しかしながら、低負荷時にはスイッチング周波数が任意になり、発するスイッチングノイズの周波数が不定になり、ノイズに敏感なアプリケーションではS/Nに悪影響を与える一要因になります。
-PWM固定動作があるのは、それに関係しますか?
その通りです。PWM固定動作を選択すると、負荷が軽くなっても間欠動作しない、つまり休みを取らずに同じ間隔で動作し続けます。そのため、軽負荷時には休んでもいいのに動き続けますので効率は悪くなりますが、発生するスイッチングノイズは同じ周波数成分で、ノイズの処理が比較的楽になります。
つまり、アプリケーションの要求がとにかく効率ならばLight Load MODEを、ノイズ低減が重要なら多少効率を多少犠牲にしてもPWM MODEにするといった使い分けになります。
-そうすると、BD9Sシリーズは、実装面積はLDOとほぼ同じで、部品点数もインダクタが1個増えるだけ、そして効率も明らかに高く、それゆえより大きな電力供給ができるといった大きなメリットがあることがわかりました。
とはいっても、スイッチングレギュレータは設計が面倒と言われていますが?
確かに従来のスイッチングレギュレータは外付け部品が多いことからも定数計算など少々設計が面倒なのは事実です。
ただし、BD9Sシリーズは部品がたった3個です。そして、推奨部品と基板レイアウトを提供していますので、乱暴にいえばその通りにすれば終わりです。本当にLDOと同じ感覚で設計が済み設計は簡単です。
-他に何かキーポイントはありますか?
車載ということに関して、付け加えたいことがあります。車載ということでAEC-Q100対応や動作温度、管理体制、そしてセカンダリ電源の有効性について説明しましたが、信頼性という意味で付け加えたいことがあります。
機器の信頼性は、部品の故障率やMTBFの加算になります。簡単に言えば、部品の信頼性が同じとすれば部品が少ないほど信頼性は高くなります。実装面積、コスト、設計の簡単さを前面に挙げて話してきましたが、自動車という非常に信頼性が重要視されるアプリケーションに対して、性能を向上させながら部品点数を減らすことが信頼性の向上に寄与することを付け加えさせていただきたいと思います。
技術資料ダウンロードのご案内
ローム主催セミナーの講義資料やDC-DCコンバータのセレクションガイドなど、ダウンロード資料をご用意いたしました。
エンジニアに直接聞く
-
アプリケーションの電源設計のヒントを、エンジニア同士で語り合う
-
GaN HEMTの課題を解決し普及を促進。電力変換アプリケーションでの損失低減と小型化に貢献
- ロームグループのIoTへの取り組み:ロームグループがもつIoT関連技術を集結 センサはIoTキーアイテムの一つ
- 無線に取り組む機器設計者のための基礎知識:無線通信の種類と分類を考えてみる
- 工場のIoT化を促進するマシンヘルス:工場の設備、機器の健康状態を管理して故障を未然に防ぐ
- センサ評価キットがIoT機器のTime-to-Marketを加速:センサ評価用ツールの需要が高まる
- いち早く具体化が進むIndustrial IoT:産業IoTの動きが活発に 既存の装置や設備のIoT化が鍵
- IoT無線通信の新分野として期待されるLPWA無線:LPWA無線とは
- IoTにはLPWAが1つの解になる:IoTに必要な無線通信の条件を考える
- 13.56MHz(NFC)ワイヤレス給電のアドバンテージとは:モバイル機器のワイヤレス充電にはさらなる小型ソリューションが必要
- 産業用途グレード降圧DC-DCコンバータ:産業用途では長期供給保証と小口販売は普通の要求
- 全43機種、車載向け汎用LDOレギュレータ:43機種という豊富なバリエーションには理由がある
- FPGAの厳しい電源要求を満たすFPGA向け降圧DC-DCコンバータシリーズ:FPGAの電源要求とは
- MOSFETを内蔵した高効率AC-DCコンバータIC BM2Pxxxシリーズ:既存のAC-DCコンバータの課題は効率とサイズ
- 業界トップクラスの80V高耐圧と高効率を実現したDC-DCコンバータ:高耐圧DC-DCコンバータ市場に参入する
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : コンデンサ編:積層セラミックコンデンサは大容量化が進む
- スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは : インダクタ編:インダクタの仕様と等価回路を読み取る
- フォトカプラ不要の絶縁型フライバックDC-DCコンバータ:フォトカプラのメンテナンスから解放 小型で設計が簡単
- 48Vから3.3Vに直接降圧可能なDC-DCコンバータIC:48Vから3.3Vに直接降圧はできない?
- 第三世代SiCショットキーバリアダイオード:SCS3シリーズ Part 1 : SiCショットキーバリアダイオードの進化は続く
- 環境負荷低減に向けた電源技術動向:AC-DCコンバータの効率改善が必須の状況に
- 力率改善と高効率を両立したAC-DCコンバータ制御技術:力率改善回路を搭載すると電源の効率が下がる?
- 車載用セカンダリ電源として開発された同期整流降圧DC-DCコンバータ:LDOと同等の部品数と実装面積で、効率と供給電力を大幅にアップ
- 4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
- 小型化、高効率化、EMCに続く重要課題 : 熱設計:技術トレンドの変化によって、熱設計には逆風が吹いている
- DC-DCコンバータの周波数特性を設計段階で最適化:出力の安定性と応答性のチェックには周波数特性を評価する
- 業界トップクラスの低ノイズと低損失を両立した600V耐圧IGBT IPM:IGBT IPMを使うメリットと課題