SiCパワーデバイス|基礎編

活用のポイント:スナバコンデンサ

2018.02.27

この記事のポイント

・高速スイッチング性能を生かすため、電気配線の寄生インダクタンスを極力抑える必要がある。

・電力用端子の直近にコンデンサを接続し、配線インダクタンスを低減する。

今回は、フルSiCモジュール活用のポイントとして、スナバコンデンサについて説明します。大電流を高速でスイッチングする回路では、スナバコンデンサの付加が必要になります。

スナバコンデンサとは

スナバコンデンサとは、電気配線の寄生インダクタンスを低減する目的で、大電流スイッチングノードに接続するコンデンサです。寄生インダクタンスは、スイッチオフ時(電流の遮断)に大きなサージを発生させ、部品の定格を超える場合は、最悪破壊に至る恐れがあります。

配線インダクタンスを効果的に低減するには、回路図の赤丸で示したラインの素子端子の直近にコンデンサを接続する必要があります。

スナバコンデンサの取り付け場所。素子端子の直近に接続する必要がある

スナバ用コンデンサの例

スナバ用コンデンサは、電気的定格が接続場所の条件をカバーする他に、コンデンサの構造や部材による特性の違いも合わせて評価し用いる必要になります。例として、今回評価に使ったコンデンサを示します。

スナバ用コンデンサの例。フィルムコンデンサ:双信電機 LC78P801D127K-AA、日本ケミコン FHACD1C2V125JTLJZ0。セラミックコンデンサ:村田製作所 EVSM1D72J2-145MH14

スナバコンデンサの取り付け例

この例では、ライン間の大容量コンデンサを基本に、小容量のコンデンサをSiC MOSFETの端子の直近に取り付けています。

スナバコンデンサの取り付け例

スナバコンデンサの効果

上記の3条件において、SiC MOSFETがオフし電流を遮断する際にドレイン-ソース間に発生するサージ波形を示します。SiC MOSFETの端子の直近にコンデンサを追加した場合には、サージ抑制効果があり、コンデンサの種類によっても効果が異なっています。

SiC MOSFETオフ時のサージ波形とスナバコンデンサの抑制効果

次に、セラミックコンデンサの例(上記赤色)について、条件を変えて抑制効果を比較した波形を示します。

スナバコンデンサ:セラミックコンデンサの容量を接続の仕方に対する抑制効果の違い

オフ直後の23MHz程のリンギングt1は、コンデンサの並列数が少ないほど速く減衰しています(青A)。これは、並列数に対してコンデンサのESRが反比例する、つまり並列数が少ないほうがESRが大きいことが理由と考えられます。

セラミックコンデンサの容量が小さいと、約2MHzのリンギングt2が生じています(緑B、青A)。これは、ループが大きい経路=インダクタンスが大きい経路に蓄積された電荷によるものと考えられます。

結果として、セラミックコンデンサの場合は、並列数が少なく総容量が大きいほうが、サージの抑制効果が高いと言えます。

最後に、大容量コンデンサの効果について確認します。以下は、2直列5並列のセラミックコンデンサを付けた状態で、大容量コンデンサがある場合とない場合のサージの比較です。

スナバコンデンサ:大容量コンデンサの効果

大容量コンデンサがある場合の赤の波形が示すように、大容量コンデンサは長周期のリンギング抑制に効果があることがわかります。

今回の例では、スナバとして大容量コンデンサとSiC MOSFETの端子の間近にセラミックコンデンサを接続することでより高い抑制効果が得られることがわかりました。ただし、コンデンサの取り付け位置や、コンデンサの直列/並列の組み合わせなど、わずかな条件の違いがサージ波形に影響を及ぼすので、実機において効果を検証する必要があります。

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活用のポイント:スナバコンデンサ

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