SiCパワーデバイス|基礎編
活用のポイント:ゲートドライブ その2
2018.01.16
この記事のポイント
・「ゲート誤オン」の抑制方法として、①オフ時のVgsを負電圧にする、②外付けCGSを追加、③ミラークランプMOSFETの追加がある。
・フルSiCパワーモジュールのゲートドライブを最適化することで、さらに低損失でクリーンな動作が可能になる。
前回は、フルSiCモジュールのゲートドライブの検討事項として、「ゲート誤オン」について説明しました。今回はその2として、ゲート誤オンの対処方法を説明します。
「ゲート誤オン」の抑制方法
ゲートの誤オン対策として、3つの方法を示します。
①は、Vgsを0Vではなく負電圧に下げることで、Vgsに持ち上がりが起きてもしきい値に達しないようにマージンを持たせる方法です。この方法では、負のゲートドライブ電圧が必要になるため、ゲートドライバーの電源は、+18V/-3Vのような非対称な両電源を使います。この場合、負電圧はVgsの最大定格を超えないように設定する必要があります。
②は、外付けでゲート-ソース間にコンデンサを追加してインピーダンスを下げて、ゲート電位の持ち上がりを抑制する方法です。検討事項としては、CGSは損失要因でもあるので、適正な容量にする必要があります。
③は、ミラークランプ用のMOSFETをゲート-ソース間に追加する方法です。SiC-MOSFETがオフ時にこのMOSFETをオンにすることで、Vgsをほぼ0Vに強制しゲート電位の持ち上がりを排除します。
評価回路による確認
ゲート電圧持ち上がりの抑制効果を、評価回路を使って確認します。以下は、ゲートドライブ回路の例で、ゲートドライブLは負電圧ドライブになっています。CN1とCN4の+18V、CN3とCN6の-3Vがドライバーの電源です。CGSとミラークランプMOSFETを付加してあり、ゲート抵抗も含めて調整できるようにしてあります。このゲートドライバーを、フルSiCパワーモジュールのゲートとソースに接続して、ゲート電圧の持ち上がりを確認します。
②の外付けにCGSを追加した場合の効果から確認して行きます。最初は外付けCGSなしのデータを示します。ローサイドのゲート抵抗Rgを小さくするとVgsの持ち上がりが大きくなるのは、前回説明したとおりです。
次は、外付けCGSとして2.2nFを追加した場合のデータです。2.2nFの曲線が示すとおり、ゲート電圧の持ち上がりは抑制されます。
そして、CGSを5.6nFに増加した場合のデータを示します。容量を増やしても、抑制効果に特に向上は認められません。
結果として、CGSを追加することはVgsの持ち上がりの低減に効果を発揮しますが、単純にコンデンサの容量を大きくすると効果が高くなるわけではないことがわかります。前述のようにCGSは損失要因でもあるので、コンデンサの容量は適正な値にする必要があります。
続いて、③のミラークランプMOSFETの効果を示します。ドットは上出のCGS追加のデータで、ミラークランプのデータは中抜きのドットになります。非常に効果が高いことが認められます。右のグラフは、サージ電圧に関してはどの条件もほぼ同じことを示しています。
最後に実際の波形を示します。緑と青が対策前の波形で、赤と橙が対策後の波形です。条件は表にあるとおりで、対策後はミラークランプMOSFETを追加、Rgは3.9Ωから2.2Ωに、CGSは5.6nFを追加しています。
Id、Vdのどちらも、対策後はリンギングが小さくなっています。Vgsに関しては、Vgs(L)では5.9Vピークの持ち上がりが観察されましたが、対策後には1.1Vに抑制されています。Vgs(H)でも7.7Vをピークとするリンギングが3.5Vに低減され、より速く収束しているのがわかると思います。
このように、フルSiCパワーモジュールのゲートドライブを最適化することで、さらに低損失でクリーンな動作が可能になります。
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SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。