SiCパワーデバイス|基礎編
フルSiCパワーモジュールのスイッチング損失
2017.11.28
この記事のポイント
・フルSiCパワーモジュールはIGBTモジュールに対して、大幅にスイッチング損失を低減できる。
・特にスイッチング周波数が高くなるとその差は大きくなる。
・SiCパワーモジュールは、損失を大幅に低減しつつ高速スイッチングが可能。
フルSiCパワーモジュールは、既存のパワーモジュールとの比較においてSiC由来の優れた性能を持っています。今回は、従来のパワーモジュールの大きな課題とも言えるスイッチング損失について説明します。
フルSiCパワーモジュールのスイッチング損失
フルSiCパワーモジュールは、既存のIGBTモジュールと比較して、1)スイッチング損失を大幅に低減できる、2)スイッチング周波数が高いほど全体損失の低減が顕著になる、といった2つの大きなメリットがあります。
以下の図は、1200V/300AのフルSiCパワーモジュールBSM300D12P2E001と、同等のIGBTとの比較です。左の図はデータシートの規格値に基づく比較で、Eonはスイッチオン損失、Eoffはスイッチオフ損失、Errはリカバリ損失です。Eon、Eoffともに大幅に小さく、Errに至ってはIrrがほとんど流れないのでごくわずかです。結果として、合計でスイッチング損失を77%低減できています。これが上記の1つ目のメリットになります。
右側は、PWMインバータを想定した損失シミュレーションで、スイッチング周波数が5kHzと30kHz時のスイッチング損失と導通損失の合計を示しています。IGBTモジュールとの比較において、5kHzでは全体損失を約22%低減できています。橙色の部分がスイッチング損失を示しており、低減された損失のほとんどはスイッチング損失です。30kHzの条件では、まずIGBTのスイッチング損失が大幅に増加しています。これは、IGBTの高速スイッチングに対する課題であることはよく知られています。フルSiCパワーモジュールのスイッチング損失も増加していますが、その割合はIGBTモジュールの比ではありません。結果として、30kHzの条件では合計損失を約60%低減可能であることがわかります。これは前述のメリットの2つ目になります。
このようにスイッチング損失が小さいのは、フルSiCモジュールを構成しているSiC素子の特性によるところであるのは想像の通りです。SiC-MOSFETとSiCショットキバリアダイオードに関するセクションでは、Si系の同等品との比較を示した記事が多数ありますので参考にして下さい。
第三世代SiCトレンチMOSFET使用によりさらにスイッチング損失を低減
ロームは業界に先駆けてトレンチ構造のSiC-MOSFETを量産しています。SiCパワーモジュールはすでにこのトレンチ構造MOSFETを採用しており、従来のSiCパワーモジュールに対しても、さらにスイッチング損失を低減しています。
この図は、1200V/180AのIGBTモジュール、第二世代DMOS構造SiC-MOSFETを使ったフルSiCパワーモジュールBSM180D12P2C101、そして第三世代トレンチ構造MOSFETを使用したBSM180D12P3C007のスイッチング損失をデータシートの規格値ベースで比較した結果です。
IGBTに対して第二世代ではスイッチング損失を約60%低減、そして第三世代は第二世代から約42%の低減を実現しており、IGBTに対しては約77%のスイッチング損失低減を達成可能です。
このようにフルSiCパワーモジュールは、同等のIGBTモジュールに対して大幅にスイッチング損失を低減でき、スイッチング周波数が高くなるほど、IGBTモジュールとの損失差はさらに大きくなります。これは、IGBTモジュールが不得意としている高速スイッチング動作に対して、フルSiCパワーモジュールは損失も大幅に低減しつつ高速スイッチングを可能にすることを意味しています。
【資料ダウンロード】SiCパワーデバイスの基礎
SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。