SiCパワーデバイス|基礎編
SiC-MOSFETとは-SiC-MOSFETの信頼性
2017.09.26
この記事のポイント
・ロームのSiC-MOSFETは既に流通しているSi-MOSFETと同等の信頼性を有している。
今回は、SiC-MOSFETの信頼性について説明します。ここでの情報やデータは、あくまでもロームのSiC-MOSFETに関するものです。また、SiCパワーデバイスはMOSFETにかかわらず、日進月歩で開発が進んでいますので、不明点や現状を確認したい場合は、こちらからお問い合わせ願います。
ローム製SiC-MOSFETの信頼性
ゲート酸化膜
ロームでは、SiC上に形成されるゲート酸化膜に関し、プロセスの開発やデバイス構造の最適化により、Si-MOSFETと同等の信頼性を達成しています。
CCS TDDB(Constant Current Stress Time Dependent Dielectric Breakdown:定電流経時絶縁破壊)試験の結果、ゲート酸化膜の信頼性の指標となるQBD(Charge to Breakdown)は15~20C/cm2でありSi-MOSFETと同等です。
また、結晶欠陥に関連するゲート酸化膜の信頼性確認を目的としたHTGB(High Temperature Gate Bias:高温ゲートバイアス)試験(+22V、150℃)においても、デバイスで故障や特性変動なく1000時間通過を確認しています。
しきい値安定性(ゲート正バイアス)
SiC上に形成されるゲート酸化膜界面にはトラップが皆無ではないため、ゲートに直流の正バイアスが長時間印加されると、トラップに電子が捕獲されることによりしきい値が上昇します。
HTGB試験による確認では、しきい値シフトはVgs=+22V、150℃の条件で1000時間後に0.2~0.3Vと非常に小さいことが確認されています。トラップのほとんどはストレス印加初期の数十時間で埋まりきるため、その後の変動はほとんどなく安定しています。
しきい値安定性(ゲート負バイアス)
逆に、ゲートに直流の負バイアスが長時間印加されると、今度は正孔がトラップされしきい値が低下します。HTGB試験の結果では、負バイアスでのしきい値変化の度合いは正バイアスよりも大きく、Vgsが-10V以上ではしきい値は0.5V以上低下します。
第二世代MOSFET(SCT2[xxx[]シリーズ、SCH2xxx]シリーズ)では、ゲート負バイアスの保証電圧を-6Vとしています。-6Vよりも大きな負バイアスでは、さらにしきい値が低下する可能性があるので注意してください。交流(正負)バイアスの場合は、トラップへの充電と放電が繰り返されるため、シフトの影響は少ないと考えられます。
ボディダイオードの通電劣化
SiC-MOSFETには、ボディダイオードの通電劣化と呼ばれる故障モードが存在すると言われています。これは、MOSFETのボディダイオードに順方向電流を流し続けると、電子-正孔対の再結合エネルギーによって積層欠陥と呼ばれる欠陥が拡張し、電流経路に影響を及ぼしオン抵抗やボディダイオードのVfが上昇するモードです。
積層欠陥は発熱を増加させ、場合によっては耐圧劣化も引き起こします。従って、ボディダイオードへの転流が起こるアプリケーション(インバータ、DC-DCコンバータなど)に使用した場合、問題を起こす可能性がありました。(※この問題はSBDやMOSFETの第一象限動作では発生しない)
ロームは積層欠陥が拡張しない独自のプロセスを開発することで、ボディダイオード通電に対する信頼性を確保することに成功しています。1200V 80Ωの第2世代SiC MOSFET製品において、ボディダイオードへ直流8Aの通電試験を1000時間実施した結果を示します。オン抵抗、リーク電流他、すべての特性に変動がないことを確認しています。
短絡耐量
SiC-MOSFETは、Si-MOSFETに比べチップ面積が小さく電流密度が高いため、熱破壊を引き起こす短絡に対する耐量は、Si-MOSFETより低い傾向にあります。TO247パッケージの1200VクラスのMOSFETでは、Vdd=700V、Vgs=18Vにおける短絡耐久時間は約8~10μsです。Vgsが低くなると飽和電流が小さくなるので、耐久時間は長くなります。また、Vddが低くなる場合も発熱が小さくなるので耐久時間は長くなります。
SiC-MOSFETのターンオフに要する時間は極めて短いため、Vgsの遮断速度が高速な場合、急激なdI/dtにより大きなサージ電圧が発生する場合があります。ゲート電圧を徐々に下げるソフトターンオフの機能などを利用し、過電圧がかからない条件で遮断するようにしてください。
dV/dt破壊
Si-MOSFETには、高いdV/dtにより容量Cdsを通じて過渡電流が流れ、寄生バイポーラトランジスタが動作することで破壊するモードが存在します。ロームのSiC-MOSFETは寄生バイポーラトランジスタの電流増幅率hFEが低いため電流増幅が起こらないと考えられ、現在までの調査では50kV/μs程度の動作においても、この破壊モードは確認されていません。ボディダイオードのリカバリ時のdV/dtに関しては、SiC-MOSFETのリカバリ電流は非常に小さく、リカバリ時のdI/dtが小さいことからdV/dtも大きくならず、この破壊モードは起こりにくいと考えられます。
宇宙線起因中性子耐量
高地応用では、宇宙線起因で地上にまれに降り注ぐ中性子や重イオンなどによる、半導体デバイスのシングルイベント効果が問題になる場合があります。SiC-MOSFET(n=15)への白色中性子照射試験(エネルギー:1~400MeV、大阪大学核物理研究センター:RCNPにて実施)の結果、Vds=1200V(定格耐圧の100%)において1.45×109 neutrons/cm2/sの中性子照射でシングルイベント効果による故障は発生しませんでした。海抜0mでの故障率は0.92FIT、高度4000mでも23.3FITで、同クラスのSi-IGBTやSi-MOSFETより3~4桁低い故障率です。耐圧実力値が高くマージンが十分あることで、高地での使用や多数個使用のセットにおいて宇宙線起因中性子に対して故障のリスクを低減することができます。
静電気破壊耐量
SiC-MOSFETは、Si-MOSFETに対してチップサイズを小さくできることが特長ですが、その反面、静電気破壊(ESD)耐量が低くなっています。従って、取り扱いには十分な静電気対策が必要です。
静電気対策例
・イオナイザによる人体、デバイス、作業環境の静電気除去(推奨)
・リストバンド、アースによる人体、作業環境の静電気除去(デバイス帯電には効果がないので、これのみでは不十分)
各種信頼性試験結果
以下は、半導体評価のための試験方法として日本では広く採用されているJEITA(旧EIAJ) ED-4701に則った信頼性試験結果です。結果から、ロームのSiC-MOSFETは十分な信頼性を持っていることがわかります。
【資料ダウンロード】SiCパワーデバイスの基礎
SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。