SiCパワーデバイス|基礎編

SiC-SBDとは-Si-PNDとの順方向電圧比較

2016.08.30

この記事のポイント

・SiC-SBDのVFは高温になると上昇するが、Si-PND(FRD)のVFは低下する。

・高温でのSiC-SBDのVF上昇はIFSMを低下させるが、VFが低下するSi-PND(FRD)のように熱暴走しない。

・第2世代SiC-SBDはVFを低減し、現状で最も損失低減に寄与するパワーダイオードと言える。

前回は、SiC-SBDとSi-PNDの逆回復特性の比較を行いました。続いて、ダイオードの最も基本となる特性である、順方向電圧VFの特性の違いについて説明します。

SiC-SBDとSi-PNDの順方向電圧特性の違い

ダイオードの順方向電圧VFは、限りなくゼロに近く温度に対して安定なのが理想ですが、もちろんゼロではなく温度によっても変動します。SiC-SBDのVF特性を理解してもらうために、Si-PNDのFRD(ファストリカバリダイオード)と比較します。

SiC_2-3_vfcompa

これらは、SiC-SBDとSi-FRDの順方向電流IFに対するVF特性のグラフです。25℃から200℃、8段階の温度条件で測定したデータです。

SiC-SBDは、温度が上昇するとIFが流れ始めるVFは若干低下しますが、抵抗が上昇するため傾きが緩やかになり、通常の使用領域のIFではVFは上昇します。

Si-FRDは、温度が上昇するとVFは単純に低下します。グラフのトレースが示す通り、どの温度でも傾きがほぼ同じで、そのままVFが低下するのがわかります。

これらの特性はそれぞれの物性や構造によるものですが、それぞれに一長一短があります。先ほど理想ダイオードの話をしました。そうすると、Si-FRDのVFが高温で低下するのは、導通損失が減り良いことのように思えますが、VFの低下にともないIFが増加し、若干の損失低下があっても発熱の増加が勝り、さらにVFが低下してIFが増えるといった熱暴走状態に陥る可能性があります。

これに対しSiC-SBDは、高温になるにつれVFが高くなるので熱暴走しません。しかしながら、VFが上昇するためIFSM(瞬時大電流耐量)がSi-FRDより低いといったデメリットがあります。

SiC-SBDのVF特性改善

優れた素性をもつSiC-SBDの特性を向上させ、さらに使いやすくするためにVFを低減した次世代品が開発されています。ロームでは2世代目となるシリーズです。ロームの第一世代品および類似の他社製品のVFがIF=10Aの時1.5Vであるのに対し、第2世代品のVFは1.35Vに低減されています。参考値になりますが、25℃と125℃時のIF vs VFのグラフを示します。

SiC_2-3_vf25
SiC_2-3_vf125

赤いトレースが、ロームの第2世代SiC-SBDのVF特性です。

trrとVFの損失に関する考察

今回はSiC-SBDとSi-FRDのVF特性の違いについて説明しましたが、前回のtrr特性も含めて損失について考えてみたいと思います。

SiC-SBDの説明のために、trrとVFについてSi-PND(FRD)との比較を示したのには理由があります。左下の図は、この章の最初に、SiダイオードとSiCダイオードがカバーする耐圧について説明した時に使ったものです。ポイントは、Si-PND/FRDとSiC-SBDのカバレッジがほぼ同じで、同じアプリケーションに使うことができることです。SiC-SBDは新しいデバイスなので別の言い方をすれば、現状Si-PND/FRDがカバーしている領域は基本的にSiC-SBDで置き換えることが可能であると言うことができます。

特に高速性が重要なアプリケーションなど、Si-FRDとSiC-SBDが競合する場合の最適なダイオードの選択には、両方の特性を理解している必要があります。そして、検討事項の中で「損失の低減」は、最重要課題であるのは言うまでもありません。

前回のtrrはスイッチング損失に該当し、今回のVFは導通損失になります。Si-FRDとSiC-SBDに関して、この両方の損失を右下のグラフにプロットしました。

SiC_2-3_cover
SiC_2-3_vftrr-1

trrが速くVFが低いほど、トータルの損失は小さくなります。Si-FRDはtrrが高速になるとVFは高くなってしまいます。それに対して第2世代SiC-SBDは、従来のSiC-SBDの高速なtrrを維持したまま、VFを1.5Vから1.35Vに低減しています。

現状においては、パワー系Si-FRDとSiC-SBDの中で、第2世代SiC-SBDが最も損失を低減できる可能性があります。

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SiC-SBDとは-Si-PNDとの順方向電圧比較

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