SiCパワーデバイス|基礎編

SiC-SBDとは-特徴とSiダイオードとの比較

2016.05.31

この記事のポイント

・SiC-SBDの特徴は優れた高速性をもちながら高耐圧を実現していること。

・高耐圧Si-PNダイオードに比べ、逆回復時間などの高速性に優れるので損失低減と小型化が可能。

SiCパワーデバイスの概要に続いて、ここからは具体的なデバイスについて説明して行きます。まずはSiCショットキーバリアダイオードからです。

SiCショットキーバリアダイオードとSiショットキーバリアダイオード

SiCショットキーバリアダイオード(以下SBD)の構造から説明します。下の図のように、半導体であるSiCにショットキーバリアを得るために金属が接合(ショットキー接合)しています。構造に関しては、Siのショットキーバリアダイオードと基本的に同じで、ポイントとなる特徴は高速性であることも同様です。

それでは、SiC-SBDの特徴は何かというと、優れた高速性をもちながら高耐圧を実現していることです。Si-SBDの耐圧を上げるには、図のn-型層を厚くしてキャリア濃度を低くすればよいのですが、抵抗値が上がりVFも高くなるなど損失が大きく実用にならない特性になってしまいます。そのため、Si-SBDの耐圧は200Vが限界です。これに対し、SiCはシリコンの10倍の絶縁破壊電界をもっていることから、実用的な特性を維持しながら高耐圧にすることができます。

ロームでは、650Vと1200VのSiC-SBDが量産されており、1700V品が開発中です。

SiC_2-1_sicsky

SiCーSBDとSi-PN接合ダイオード

Siダイオードで、SBD以上の耐圧に対応するのはPN接合ダイオード(PNDと表記)になります。下の図は、Si-PNダイオード構造です。SBDでは電子のみが移動し電流が流れますが、PN接合ダイオードでは電子と正孔(ホール)によって電流が流れます。n-層に少数キャリアの正孔が蓄積することで抵抗値が下がります。これにより高耐圧と低抵抗を同時に実現していますが、ターンオフのスピードは遅くなります。

PN接合ダイオードで高速性を高めたのがFRD(ファストリカバリダイオード)ですが、それでもtrr(逆回復時間)特性などはSBDより劣ります。そのため、高耐圧Si PN接合ダイオードではtrrの損失が大きな検討事項であり、また、スイッチング電源で高速なスイッチング周波数に対応できないという課題があります。

SiC_2-1_sicsky

右上の図は、SiのSBD、PND、FRDとSiC-SBDの耐圧のカバレッジを示したものです。SiC-SBDは、PND/FRDの耐圧範囲のかなりをカバーしていることがわかります。SiC-SBDは高速性と高耐圧を両立しているので、PND/FRDに対してErr(リカバリ損失)を大幅に削減し、スイッチング周波数も高くできることから小型のトランスやコンデンサを使用でき、機器の小型化につながります。

以下は1200V耐圧のSiC-SBDのデータシートの一部です。次回は、主要特性について説明します。

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【資料ダウンロード】SiCパワーデバイスの基礎

SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。

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