SiCパワーデバイス|基礎編
シリコンカーバイドとは
2016.04.07
この記事のポイント
・SiCの物性はパワーデバイスに適している。
・Si半導体に比べ、損失低減や高温度環境下での動作特性に優れる。
シリコンカーバイド、SiCは、比較的新しい半導体材料です。最初に少しその物性や特徴を確認したいと思います。
SiCの物性と特徴
SiCは、シリコン(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料です。結合力が非常に強く、熱的、科学的、機械的に安定しています。SiCには様々なポリタイプ(結晶多系)が存在し、それぞれ物性値が異なります。パワーデバイス向けには4H-SiCが最適とされています。以下の表にSi他、近年耳にする半導体材料との比較を示します。
3インチ4H-SiCウェハ
表の黄色ハイライト部分がSiとSiCの比較です。青色は特にパワーデバイスに利用する場合に重要となるパラメータです。数値が示す通りSiCは、これらのパラメータが優れています。また、他の新材料と異なり、Siと同様にデバイス製造に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることも特徴です。これらのことから、Siの限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されています。
- SiとCが1対1の割合で結合したⅣ-Ⅳ族化合物半導体
- SiとCの原子対を単位層とする最密充填構造
- 様々なポリタイプが存在しパワーデバイスには4H-SiCが最適
- 結合力が極めて強い ⇒ 熱的、化学的、機械的に安定
- 熱的安定性 :常圧で液層は存在せず、2000℃で昇華
- 機械的安定性:モース硬度(9.3)はダイヤモンド(10)に匹敵
- 化学的安定性 :ほとんどの酸、アルカリに不活性
SiCパワーデバイスの特徴
SiCは絶縁破壊電界強度がSiと比べ約10倍高いことから、600V~数千V の高耐圧を実現できます。また、Si デバイスより不純物濃度を高くすることができ、かつ膜厚のドリフト層を薄くすることができます。高耐圧パワーデバイスの抵抗成分のほとんどはドリフト層の抵抗であり、ドリフト層の厚さに比例して抵抗値は高くなります。SiC ではドリフト層を薄くできることから、単位面積当たりのオン抵抗が非常に低い高耐圧デバイスを作ることができます。理論上は、同じ耐圧であれば、Siと比較して面積あたりのドリフト層抵抗を1/300に低減できます。
Si パワーデバイスでは、高耐圧化に伴うオン抵抗の増大を改善するために、主にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの少数キャリアデバイス(バイポーラデバイス)が用いられてきました。しかしながら、スイッチング損失が大きいことから発熱の問題があり、高周波駆動には限界がありました。SiCでは、ショットキーバリアダイオードやMOSFETといった高速な多数キャリアデバイスを高耐圧にすることができるので、Siではトレードオフであった「高耐圧」、「低オン抵抗」、「高速」を同時に実現できます。
また、バンドギャップがSiの約3倍広いので、Siより高い温度での動作が可能です。現在はパッケージの耐熱性の制約から150℃~175℃保証としていますが、パッケージ技術が進展すれば200℃以上の保証が可能になります。
ポイントをかいつまんで説明してきました。物性やプロセスのベースがない方には少し難しい話だったかもしれませんが、これらが理解できなくてもSiCパワーデバイスを使うことができますので安心してください。
【資料ダウンロード】SiCパワーデバイスの基礎
SiCの物性やメリット、SiCショットキーバリアダイオードとSiC MOSFETのSiデバイスとの比較を交え特徴や使い方の違いなどを解説しており、さまざまなメリットを持つフルSiCモジュールの解説も含まれています。