Siパワーデバイス|基礎編

実使用温度でディレーティングしたSOA内であることの確認

2017.09.27

この記事のポイント

・SOAグラフはTa=25℃のデータなので、実際にトランジスタを使用する温度に合わせてSOAをディレーティングする必要がある。

・ディレーティングのレートは、許容損失のディレーティングレートを利用する。

この章では、実動作において選択したトランジスタが適切であるか否かの判断のための方法と手順を説明しています。

今回は、右のフローチャートの④使用雰囲気温度でディレーティングしたSOA内であることの確認、について説明します。

実際の電流/電圧波形の測定
絶対最大定格内であることの確認
SOA(安全動作領域)内であることの確認
④使用雰囲気温度でディレーティングした
   SOA内であることの確認

⑤連続パルス(スイッチング動作)
⑥平均消費電力が定格電力内であることの確認
⑦チップ温度の確認

170525_si_01

④使用雰囲気温度でディレーティングしたSOA内であることの確認

前回はSOAが何であるか、そしてグラフなどの使い方などについて説明し、さらに留意点についても説明しました。今回は、その留意点の中の一つである、「SOAのグラフは雰囲気(周囲、Ta)温度25℃におけるデータである」ことに関連して、実使用温度でのSOAを算出し、適正なトランジスタの使用条件を確認します。タイトルにおいて、すでに「ディレーティング」という言葉が使われているのは、実際の動作雰囲気温度はほとんどの場合25℃より高く、結果的に25℃のSOAをディレーティングすることになるからです。

SOAのディレーティングとは

ディレーティングの意味はわかると思います。それは、SOAに関しても同様で、25℃の条件下で与えられたデータを、実際にトランジスタを使用するより高い温度では、電流や電圧をさらに低減してSOAとする必要があります。以下は、バイポーラトランジスタとMOSFETのSOAのディレーティングイメージです。

20170926_graf_01

SOAのディレーティングは、基本的に許容電力、つまり熱、そして最終的にはTjmaxで考えていきます。一般的な例ですが、上記のグラフでは、バイポーラトランジスタの場合は熱制限領域では0.8%/℃、二次降伏領域では0.5%/℃のディレーティングとなり、MOSFETではオン抵抗増加による最大電流のディレーティングと熱制限領域の0.8%/℃のディレーティングが示されています。

もう少し具体的に説明します。以下は、ここで例として使っているMOSFET R6020ENZのSOAグラフと、許容電力損失のディレーティングを示したグラフで、データシートから抜粋したものです。

20170926_graf_02

ここでは、実際のトランジスタのTjを75℃とします。先ほどまでは、雰囲気温度、つまりTaで話をしていましたが、トランジスタの許容損失で考察する関係上、最終的にはTjで論じる必要があります。

少し、温度の関係を整理しておきます。前回説明した留意点に、「データはシングルパルスによるのも」という条件がありました。連続的な使用の場合は少々面倒な条件なのですが、逆にシングルパルスの条件が付くことによって、Ta≒Tjとすることができます。これは一般的な解釈で、短時間のパルスであることからトランジスタのチップ温度の上昇はほとんどないという考えです。トランジスタも含めた半導体デバイスのパラメータ試験では、発熱をともなう場合はパルス試験によってTa≒Tjとしているケースが多々あります。従って、このSOAのデータはTa≒Tj≒25℃と考えます。

一方、トランジスタに関しては、損失電力と、パッケージ熱抵抗θjaおよびTa、もしくはθjcおよびTcからTjを求める必要があります。この熱計算は一般的なものなので、ここでは割愛します。

上記左の許容電力損失のディレーティングカーブから、Tj=25℃に対してTj=75℃では60%にディレーティングする必要なことがわかります。あとはこのレートを利用して、計算例にあるようにディレーティングすればよいことになります。必要であれば、そのレート、(100%-60%)÷|25℃-75℃|=0.8%/℃という係数を求めておけばすぐに計算できますし、グラフの青線のようにSOAのディレーティング曲線を引いてもよいかと思います。

最終的には、実際のトランジスタの使用条件が、ディレーティングしたSOA内にあるかどうかを確認して、使用条件が適正であるかどうかを判断します。

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