Siパワーデバイス|基礎編
MOSFETとは-高速trr SJ-MOSFET : PrestoMOS ™
2017.02.28
この記事のポイント
・PrestoMOSはSJ-MOSFETの高耐圧、低オン抵抗、低ゲート総電荷量という特徴に加え、内部ダイオードの逆回復時間trrの高速化を実現したロームのSJ-MOSFET。
・内部ダイオードのtrrの高速化により、インバータやモータードライバ回路の高効率化と小型化を図ることが可能。
前回は、ロームのSJ-MOSFETのラインアップから、標準ANシリーズ、低ノイズENシリーズ、高速KNシリーズを例としてSJ-MOSFETの特徴について説明しました。今回は、SJ-MOSFETのtrrをさらに高速化したPrestoMOS™の2つのシリーズを例に、trrの高速化によるメリットを説明します。
高速trr SJ-MOSFET: PrestoMOS FNシリーズ
※現在新規設計に非推奨
PrestoMOSは、SJ-MOSFETの高耐圧で低オン抵抗および低ゲート総電荷量という特徴に加え、内部ダイオードの逆回復時間trrのさらなる高速化を実現したロームのSJ-MOSFETです。PrestoMOSのFNシリーズは、標準タイプのANシリーズと比較して、trrを約1/5に高速化しています。同時に、逆回復電流Irrも約1/3に低減しています。これらの特性向上によって、第一にはスイッチング損失の低減が可能です。ちなみに、PrestoMOSのPrestoとは、「急速に」を意味する音楽用語の速度標語に由来します。
trrの高速化を図ったFNシリーズを開発したのは、インバータ回路やモータードライバー回路の損失低減と、外付けダイオードを不要にすることで部品数の削減と回路規模の小型化を推進するためです。一般にこれらの回路は、MOSFETまたはIGBTとダイオードを組み合わせて構成します。ダイオードを組み合わせる理由は、MOSFETやIGBTの内部ダイオードtrrの間に発生する転流損失を抑えるためで、通常、2個の外付けファストリカバリーダイオード(以下FRD)が必要です。
電流経路の観点からは、これらの外付けFRDは必要ありませんが、MOSFETの内部ダイオードはtrrがあまり速くないため、その間の逆電流Irrが大きな損失になってしまいます。このIrrをブロックするためと、インバータ回路などの回生電流の高速経路を確保するために2つのFRDが必要になっています。
このように、FRDを必要とすることで部品数がかさむのはもちろん、MOSFETオン時のドレイン電流(Id)経路においてはFRDの付加が損失の追加にもなっています。
PrestoMOSは、内部ダイオードのtrrの高速化を図ったことで、これら2つのFRDを使わなくても最小限の損失で回路動作を実現できます。これによって、2個のFRDが不要になり、損失も低減され、小型化と高効率化が可能になります。
以下の図は、一般的なパワーコンディショナ(インバータ)回路とモータードライバー回路のパワー段の図式と損失比較のデータです。
パワーコンディショナ回路では、PrestoMOSを使用した場合と従来のMOSFETとFRDの組み合わせの損失を比較しています。FRDよりVFが低い分、回生損失が低減されています。
モータードライバー回路の例では、IGBTとの比較において、IDが低い領域においてVCE(MOSFETではVDS)が低いことからその領域での損失が小さくなります。家電を対象とした場合、MOSFETが優位な領域での使用が支配的となるので、消費電力の削減が期待できます。
オン抵抗とゲート容量をさらに低減したPrestoMOS MNシリーズ
trrの高速化を図ったFNシリーズのオン抵抗とゲート総電荷量をさらに低減したのが、MNシリーズです。下のグラフが示すように、A・Ronで32%、Ron・Qgは59%の低減を図っています。これは、インバータ回路などのさらなる効率改善を目標として開発されたシリーズになります。
最後に、これら2つのシリーズに関する技術情報へのリンクを示します。より理解を深めるためには、データシートの規格値や特性グラフを確認することは重要です。
【高速trr 低Ron SJ-MOSFET PrestoMOS:MNシリーズ】
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Si半導体を用いたパワーデバイスには非常に多くの種類がありますが、このハンドブックでは、主に電源用途のダイオードとトランジスタを中心に基礎的なポイントを解説します。また、回路設計時のトランジスタ選択の手順と決定方法、各特性や特徴を利用したアプリケーション事例を紹介します。