Siパワーデバイス|基礎編

MOSFETとは-寄生容量とその温度特性

2016.08.30

この記事のポイント

・MOSFETには寄生容量が存在し、寄生容量はスイッチング特性に影響を与える重要なパラメータ。

・寄生容量は温度に対してほとんど変化しないので、スイッチング特性は温度変化の影響をほとんど受けない。

前回のSiトランジスタの分類と特徴、基本特性に続いて、今日パワースイッチとして広く利用されているSi-MOSFETの特性について追加の説明をしたいと思います。

MOSFETの寄生容量

MOSFETには構造上、下の図のような寄生の静電容量が存在します。下図はN-ch MOSFETの例ですが、P-chでも考え方は同じです。ここでの話題である大電力を扱うパワーMOSFETでは、使用周波数やスイッチング速度を制限するパラメータとしてとらえる必要があります。

MOSFETのゲートと、ドレインおよびソースは、ゲート酸化膜により絶縁されています。また、ドレイン-ソース間には、サブストレート(ボディ/基板)を介してPN接合が形成されており、寄生(ボディ)ダイオードが存在します。

下図のゲート-ソース間容量Cgsおよびゲート-ドレイン間容量Cgdは、ゲート酸化膜の静電容量により決まります。また、ドレイン-ソース間容量Cdsは、寄生ダイオードの接合容量です。

si_2-2_capf

これらの寄生容量に関連して、一般的にMOSFETのデータシートに示されているパラメータは、表にあるCiss、Coss、Crssの3つになります。静特性と動特性を分けて記載しているデータシートでは、動特性に分類されます。これらは、スイッチング特性に影響を与える重要なパラメータです。

Cissは入力容量で、ゲート-ソース間容量Cgsとゲート-ドレイン間容量Cgdを合算した容量で、入力側から見たMOSFET全体の容量になります。MOSFETを動作させるには、この容量をドライブ(チャージ)する必要があるので、入力デバイスのドライブ能力、もしくは損失を検討する際のパラメータです。Cissをドライブ(チャージ)するために必要な電荷量がQgです。

Cossは出力容量で、ドレイン-ソース間容量Cdsとゲート-ドレイン間容量Cgsを合算した容量で、出力側の全容量になります。Cossが大きいと、ゲートをオフにしても出力にCossに起因した電流が流れ、出力が完全にオフになるまで時間を要することになります。

Crssはゲート-ドレイン間容量Cgdそのもので、帰還容量または逆伝達容量と呼ばれます。Crssが大きいと、ゲートをオンにしてもドレイン電流の立ち上がりが遅く、オフの場合は立ち下がりが遅くなります。つまり、スイッチング速度に大きく影響するパラメータです。Crssをドライブ(チャージ)するために必要な電荷量がQgdです。

また、これらの容量は、ドレイン-ソース間電圧VDSに対する依存性をもっています。グラフが示すように、VDSを大きくすると容量値は小さくなる傾向があります。

MOSFET寄生容量の温度特性

Ciss、Coss、Crssは、温度に対してほとんど変化はありません。したがって、スイッチング特性は温度変化の影響をほとんど受けないと言えます。実測例を以下に示します。

si_2-2_cap-temp

今回は、MOSFETの動特性の一つである寄生容量について説明しました。次は、スイッチングに関する話を予定しています。

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Si半導体を用いたパワーデバイスには非常に多くの種類がありますが、このハンドブックでは、主に電源用途のダイオードとトランジスタを中心に基礎的なポイントを解説します。また、回路設計時のトランジスタ選択の手順と決定方法、各特性や特徴を利用したアプリケーション事例を紹介します。

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