ノイズ

スイッチングノイズとは?スイッチング電源で発生するノイズと対策

2023.12.01

スイッチングノイズは、急な電流のON/OFF切り替えが引き起こす高周波のリンギングであり、特にスイッチング電源や高速動作する半導体デバイスでよく見られます。このノイズは基板配線の最適化によるノイズの低減が必要となりますが、漏出する放射ノイズには特別な対策が求められます。さらに、平行する配線間でクロストークが生じ、誘導ノイズが発生します。この記事ではDC-DCコンバータを例に挙げてスイッチングノイズが発生する原理と、電子回路を設計する上でスイッチングノイズから生じるEMCなどの影響と、それらに対する効果的な解決策について詳しく解説します。

スイッチングノイズとは?

スイッチングノイズは、電子回路や電源IC(集積回路)が動作する過程で発生する不必要な電流の変動が引き起こす高周波のリンギングです。DC-DCコンバータやAC-DCコンバータなどの高速で動作する半導体デバイスで見られます。スイッチングノイズは、回路の安定性を低下させる可能性があり、EMC(電磁両立性)の内、EMI(電磁妨害)に関する問題を引き起こすこともあります。

スイッチングノイズの原因

スイッチングノイズの一般的な原因は、高速でオン・オフを切り替えるスイッチング電源などの半導体デバイスの動作によるものです。これにより、急激な電流や電圧の変化が発生し、リップルやノイズが生じる場合があります。

ノイズ対策(ノイズ除去と低減)

スイッチングノイズの低減や除去にはいくつかの対策があります。

  • 1. フィルタの使用:ローパスフィルタ又はハイパスフィルタを使用して、不必要な周波数成分を除去する。
  • 2. コンデンサの配置:回路の重要な箇所にコンデンサを配置して、電圧の変動を吸収する。
  • 3. 基板レイアウトにおけるノイズ対策:配線を極力短くし、レイアウトによってスイッチングノイズ(伝導ノイズ)を低減する。
  • 4. スナバ回路:スナバ回路を用いることで、リンギングを吸収することでスイッチングノイズ(放射ノイズ)を低減できます。
  • 5. ブートストラップ回路のノイズ対策:抵抗を挿入し、スイッチングノイズ(放射ノイズ)を低減することができます。

ノイズ対策の重要性

効果的なスイッチングノイズへの対策を施すことで、回路の動作が安定し、性能も向上します。特に、高精度な電子機器や産業用途での利用において、スイッチングノイズの対策は不可欠です。

このコンテンツの後には、DC-DCコンバータを例として、発生するコモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズに関する原因と対策、さらにはクロストークとは何か、スナバ回路などの放射ノイズの対策についても詳しく解説しています。この一連の情報を理解することで、より高度なノイズ対策が可能となります。

DC-DCコンバータでスイッチングノイズが発生する原理

スイッチングノイズは、電子回路や電源ICが動作する過程で発生する不必要な電流の変動が引き起こす高周波のリンギングが原因です。DC-DCコンバータを例としてスイッチングノイズについて解説していきます。
最初に、同期整流型降圧DC-DCコンバータの等価回路を使って、スイッチ電流の経路を確認します。

ハイサイドスイッチをSW1、ローサイドスイッチをSW2とします。SW1がON(SW2はOFF)では、入力コンデンサからSW1、そしてインダクタLを通って出力コンデンサへという電流経路になります。SW2がON(SW1はOFF)では、SW2からLを通り出力コンデンサへという経路になります。そして下の図は、これらの電流経路の差分で、スイッチがON/OFFするたびに赤色のラインの電流は激しく変化します。このループは電流変化が急峻なため、基板配線のインダクタンスによりループ内に高周波のリンギングが生じます。

電源回路を構成する外付け部品および実装基板の寄生成分とリンギングの関係を示します。

先の図で示した電流が急激に変化するループにおける寄生成分を赤色で示してあります。
配線には配線インダクタンスがあり、一般に1mmあたり1nHほどのインダクタンスが存在します。また、コンデンサには等価直列インダクタンスESLか存在し、MOSFETには各端子間に寄生容量が存在します。これらによって、スイッチノードには赤枠の図に示したような100MHzから300MHzのリンギングが発生します。発生する電流と電圧は、2つの式により求められます。

\(I = C \times \frac{dV}{dt}, \quad V = L \times \frac{dI}{dt}\)

このリンギングは、高周波のスイッチングノイズとしてさまざまな影響を与えます。当然ながら対策を施すのですが、実装基板の寄生成分は電源IC側では除去することができないので、基板配線レイアウトやデカップリングコンデンサによって対処します。基板レイアウトに関しては、DC-DCコンバータの「基板レイアウト」のセクションで詳細が展開されていますので参考にしてください。

ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ」「クロストーク」に関しては後ほど説明しています。
「コモンモードフィルタ」に関してはこちらで説明しています。

ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ:原因と対策

スイッチングノイズとなる電磁妨害(EMI)は主に「伝導ノイズ」と「放射ノイズ」の二つのカテゴリーに分けられます。
さらに、伝導ノイズは2つに分類することができます。1つは「ディファレンシャルモードノイズ」で、「ノーマルモードノイズ」とも言います。条件によって使いわけをしている場合がありますが、ここでは同じものとします。もう1つは「コモンモードノイズ」です。以下の図を使って説明します。ここでは電源ベースの話をしていますので、図は回路があるプリント基板(PCB)が筐体に入っており、外部から給電される例になっています。
特に、同じ条件下でもコモンモードノイズによる放射は、ディファレンシャルモードノイズよりも大幅に強いため、注意が必要です。

ディファレンシャル(ノーマル)モードノイズとコモンモードノイズ

ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ源が電源ラインに対して直列に入り電源電流と同じ方向にノイズ電流が流れ、電源ライン間に発生します。行きと戻りの向きが逆になることから、ディファレンシャルモード(Differential mode)と呼ばれています。

  • ・電源電流と同一の経路でノイズ電流が流れるモード
  • ・電源ライン間にノイズ電圧が発生

コモンモードノイズは、浮遊容量などを介して漏れたノイズ電流が、大地を経由して電源ラインに戻ってくるノイズです。電源の(+)側と(-)側で流れるノイズ電流の向きが同じことからコモンモード(Common mode)と呼ばれます。電源ライン間にはノイズ電圧は発生しません。

  • ・電源ライン間にはノイズ電圧が発生しない
  • ・電源ラインと基準GND間にノイズ電圧が発生
  • ・電源のプラス側、マイナス側で同方向にノイズ電流が流れる

前述したように、これらのスイッチングノイズは伝導ノイズです。しかしながら、電源ラインにノイズ電流が流れているわけなので、ノイズは放射されます。

ディファレンシャルモードノイズによる放射の電界強度Edは、左下の式で表すことができます。Idはディファレンシャルモードでのノイズ電流、rは観測点までの距離、fはノイズ周波数です。ディファレンシャルモードノイズは、ノイズ電流ループを作ってしまうので、ループ面積Sが重要なファクタになります。図と式が示すように、他の要素が一定だとすると、ループ面積が大きくなれば電界強度は高くなります。

コモンモードノイズによる放射の電界強度Ecは、右下の式で表すことができます。図と式が示すように、ケーブル長Lが重要なファクタになります。

ここで、それぞれのノイズによる放射の特徴を確認するために、実際の数値を入れて電界強度を計算して*1みたいと思います。条件は全く同じです。電界強度の観測点を青色のドットで示してあります。
*1:式の出典-詳解 EMC工学 実践ノイズ低減技法 著者 ヘンリーWオットー 東京電機大学出版局

ディファレンシャルモードノイズの電界強度計算

周波数100MHzのディファレンシャルモードノイズ電流1μAがループ面積20cm2に流れていたとする。
距離1m地点(90度)での電界強度の値は、

\(E_d = 1.316 \times 10^{-14} \times \frac{Id \cdot f^2 \cdot S}{r}\)
\( = 1.316 \times 10^{-14} \times \frac{1\mu A \cdot (100MHz)^2 \cdot (0.2 \times 0.01)}{1}\)
\( = 0.26 \, \mu \text{V/m}\)

コモンモードノイズの電界強度計算

周波数100MHzのコモンモードノイズ電流1μAが20cmのケーブルに流れていたとする。
距離1m地点(90度)での電界強度の値は、

\(E_d = 1.257 \times 10^{-6} \times \frac{IC \cdot f^2 \cdot L}{r}\)
\( = 1.257 \times 10^{-6} \times \frac{1\mu A \cdot 100MHz \cdot 0.2}{1}\)
\( = 25.1 \, \mu \text{V/m}\)

この計算結果で重要なのは、同じノイズ電流値でもコモンモードノイズによる放射が遥に大きい(この例では約100倍)点です。いずれにしても、これらの伝導ノイズおよび放射ノイズ、つまりEMIが許容範囲を超えるようであれば、ノイズ対策をする必要があります。特に、放射ノイズ対策を考えた場合は、コモンモードノイズに対する対策が重要になることを覚えておいてください。

対策に関しては、今後、順を追って説明してきますが、もっとも原則的なノイズ対策としては、ディファレンシャルモードノイズはループ面積Sを減らす、例えばケーブルは撚り線にする、コモンモードノイズはケーブルを極力短くするといったことになります。しかしながら、配置や部材の制限が必ず出てくるので、フィルタを追加するといった方法を検討する必要があります。

この項では、まずはノイズの種類と性質を理解しておいてください。

EMCとは?

「EMC(電磁両立性)」とはなにか?「EMI(電磁妨害)」や「EMS(電磁感受性)」との意味の違いや使い分けについては下記の記事で詳しく説明しています。
https://techweb.rohm.co.jp/know-how/nowisee/6347/

クロストークとは(平行する配線間で発生する誘導ノイズ)

クロストークとは、平行に配置された配線間で、信号やノイズが意図せずに伝わる現象を指します。この問題は、アナログ通信や音の世界では「漏話」とも呼ばれ、特にアナログ電話では非常に一般的な問題でした。また、この現象は「混線」や「混信」とも称されます。

この不必要な信号の伝播は、配線間に存在する浮遊(寄生)容量や相互インダクタンスによって引き起こされます。例えば、プリント基板(PCB)の薄膜配線などで特に顕著です。このような状況での信号伝播は、通常「誘導ノイズ」として考えられます。

この現象の根本的な原因は二つあります。一つは浮遊(寄生)容量による静電結合、もう一つは相互インダクタンスによる電磁結合です。この記事では、これらの原因メカニズムと、それに対処する具体的な方法、さらにはそれを理解するためのもっとも簡素化された等価回路について詳しく解説しています。

どちらも、ノイズ源の配線であるパターン1から、近接する配線のパターン2に発生するノイズ電圧Vnを表す式を示しました。Rは抵抗分、Cは容量、Mは相互インダクタンス、Vsはノイズ源電圧、Isはノイズ源電流です。

ここでは、平行する配線間においては、クロストークが発生することを理解してください。ちなみ、配線が直交する場合は、浮遊容量や相互インダクタンスはかなり小さくなります。

コンデンサによるスイッチングノイズの対策

スイッチングノイズについての基本的な理解が深まったところで、実際のノイズ対策について詳しく学んでいきましょう。特に、コンデンサはノイズ対策において非常に重要な要素です。

「コンデンサによるノイズ対策」のページでは、コンデンサのインピーダンス特性や、ESR、ESLといったパラメータがノイズにどのように影響するのかを解説しています。さらに、デカップリングコンデンサの効果的な使い方や、高周波ノイズに対する特別な注意点も紹介します。

興味を持たれた方は、是非「コンデンサによるノイズ対策」のページへと進んでください。スイッチング電源のノイズ対策を一歩進め、より高性能な電子回路設計に役立てる知識が満載です。

コンデンサによるノイズ対策へ

放射ノイズ(雑音電界強度)に対する対策

放射ノイズ(雑音電界強度)とは?

DC-DCコンバータは、スイッチングノイズのもうひとつ検討しなければならないとしてノイズ対策として放射ノイズ(雑音電界強度)があります。放射ノイズは、スイッチのオンとオフの波形の傾きとリンギングによって発生し、その周波数帯域はおおよそ 100MHz~300MHz です。

スイッチング電源の立ち上がりおよび立ち下がり時のリンギングは、主にMOSFET と入力コンデンサ間の配線インダクタンスに起因しており、入力コンデンサの配置と配線を最適化することにより、このノイズを低減することができます。

スナバ回路の追加によるスイッチングノイズ対策

DC-DCコンバータ回路の放射ノイズが、搭載機器が合格しなければならない規格を超えたときのノイズ対策として、スイッチング波形を緩やかにする方法とスナバ回路を追加する方法があります。

スナバ回路の追加は、スイッチングノイズを低減するためによく使われる手法です。スイッチングノードのノイズ低減の場合は、出力にスナバ回路を追加しますが、入力のノイズに関しては入力にスナバ回路を追加します。この例では、スイッチングノードとグランド間に 抵抗とコンデンサ を追加することで、スイッチングによるリンギングの高周波エネルギーを抵抗に消費させることでリンギングを吸収します。

ただし、スナバ回路の追加によって損失が生じます。効果を高めるためにコンデンサの容量を増やすと、抵抗はその電力を許容する必要あります。以下にスナバロスの式と計算例を示します。

スナバ抵抗:10Ω、スナバコンデンサ:1000pF、入力電圧12V、発振周波数 1MHz での抵抗の許容損失
スナバロス P = C × V2 × fSW
1000pF×122×1MHz=0.144W
*抵抗の定格電力は MCR18(3216):0.25W 以上必要

ブートストラップ回路のノイズ対策
スイッチングノイズのもう一つの対策として「スイッチング波形を緩やかにする方法」があります。

ハイサイドスイッチに Nch MOSFET を使う IC には、多くの場合BOOT 端子があります。BOOT 端子はスイッチングノードにつながっているため、ここに抵抗を挿入することで、ハイサイド MOSFET オン時の立ち上がりを緩やかにすることができ、スイッチングノイズを緩和することができます。

まとめ:スイッチングノイズ対策と基板レイアウトの重要性

このページでは、スイッチングノイズについての詳細とDC-DCコンバータにおけるスイッチングノイズ対策の要点を説明しました。重要なポイントは、「配線はできるだけ短くする」ことで、スイッチングノイズの低減に大いに寄与します。

もし設計した回路や選定した部品に問題がないにもかかわらず、期待した性能が得られない、最悪の場合動作しないという状況に遭遇したら、最初に基板レイアウトを確認することが重要です。このようなトラブルは少なくないので、注意が必要です。

再設計を最小限に抑えるためには、基板設計を含む設計全体の品質を高めることが不可欠です。スイッチングノイズについての重要なポイントをしっかりと考慮に入れてレイアウト設計を行うことが成功の鍵となります。

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