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スイッチングノイズ-EMC

EMCの基礎

スペクトラムの基礎

前回は、EMCの基礎として、「EMCとは」と題し、EMC関連の用語の意味を解説しました。今回は、「スペクトラムの基礎」を説明します。

基礎的な話をするにあたって、最初に「スペクトラムとは何か?」と言う点に簡単に触れておきます。「ブリタニカ国際大百科事典 電子辞書対応小項目版」によると「電磁波をその成分の正弦波に分解して波長の順に並べたもの」、そして、この意味を拡張して「複雑な組成をもつものを単純な成分に分解し、それを特徴づけるある量の大小に従って成分を並べたものを言う(一部省略)」とあります。比較的表現が端的なものを引用しましたが、あらためて確認してみると、なるほどと思うところです。

ここで説明するスペクトラムは、電気信号のスペクトラムです。具体的には、通称スペアナと呼ばれるスペクトラムアナライザによる、横軸を周波数、縦軸を電力または電圧とするデータを使って説明します。

スペクトラムの基礎

最初に下記の模式図で説明します。ここでは「スイッチング電源のEMC」がテーマですので、電気信号はスイッチング信号を前提にします。最初に下記の模式図で説明します。スイッチング信号をイメージしたパルス波形に、tw(パルス幅)とts(立ち上がり/立ち下がり時間)を示してあります。

中央のグラフは、フーリエ変換による理論上のパルス波形のスペクトラムです。周波数が高くなるにつれて振幅が減衰し、減衰の傾きがtwおよびtsによって変わる、よく見かけるスペクトラムです。

右のグラフは、パルスのtsを遅くしたときのスペクトラムの変化を示しています。傾きが-40dB/decに変化する1/πtsの周波数は低くなるのは当然ですが、結果的に以後の振幅が減少することになります。端的に言えば、「tsを遅くすると、スペクトラムの振幅が減衰する」ことになります。

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ここからは、実際のスペアナのデータを使い、周波数など他のパラメータの変化に対するスペクトラムの変化を見ていきます。ここでポイントとなるのは、「信号波形の変化に対してスペクトラムがどういった傾向で変化するのか」ということです。これは、実際のスイッチング電源回路のスイッチングに関するスペクトラムから、EMCへの対応を解析し対策するために必要な知識です。

波形変化とスペクトラムの変化

最初に示すグラフは、比較の基にするデフォルト条件でのデータです。波形のグラフに記載してありますが、条件は、振幅10V、周波数400kHz、Duty(デューティサイクル)50%、tr/tf(立ち上がり時間/立ち下がり時間)10nsです。

中央のグラフは、n次高調波と振幅(V)を示しています。1倍の周波数=基本波、つまり400kHzの成分が最大で、奇数倍の周波数にスペクトラムが現れています。

20170711_graf_15

高調波は奇数次だけなのは、Dutyが50%=1:1のスペクトラムの特徴です。各成分の大きさは基本波成分の1/次数で、例えば3次成分は1/3、n次の高調波成分は1/nになります。

右のグラフは振幅をdBµVとした対数グラフです。ちなみにdBμVは、1µVの電圧を基準とする電圧比によるデシベル値です。

①周波数を2MHzに変更したスペクトラムです。周波数-振幅(dBµV)のグラフで明らかなように、周波数が高くなると全体的に振幅が増加したのがわかります。

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②trとtfの両方を100nsに遅くしたスペクトラムです。これは模式図で説明した通り、-40dB/decの減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰します。

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③Dutyを50%から20%にしたときのスペクトラムです。Dutyが1:1ではないので、偶数次高調波が発生しますが、基本的にピークには変動はありません。パルス幅twが狭くなったことで、基本波のスペクトラムの振幅は減衰します。

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④tr(立ち上がり時間)だけを遅くした場合です。trに関する成分が、trが遅くなったことでより低い周波数から減衰しています。

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それぞれの結果を書き出しました。まとめると、周波数が低く、立ち上がり/立ち下がりが遅いと、スペクトラムは減衰することになります。EMCの観点からは、単純にはスペクトラムの振幅が低い方が有利になります。

  • ①周波数を高くする
  • ②立ち上がり/下りを遅くする
  • ③Duty変更
  • ④立ち上がりのみ遅くする
  • ⇒ 全体的にスペクトラムの振幅が増加
  • ⇒ -40dB/decの減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰
  • ⇒ 偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。
      基本波のスペクトラムは減衰
  • ⇒ trの成分がより低い周波数から減衰

ところで、ここでは英語のSpectrumの日本語表記として「スペクトラム」を使いました。本題ではないのですが、一応確認の意味です。英和辞書や理化学系の辞書でSpectrumを引くと、基本的に「スペクトル」と表記されています。これは、単純にSpectrumの日本語訳は「スペクトル」ということなのかと思います。時々、「スペクトラム」と「スペクトル」は何か違うのか?という質問がありますが、結果から言うと同じです。

あくまでも感覚的な話ですが、電気通信系の計測においては「スペクトラム」が使われている印象があります。しかし、光学や物理の世界では基本的に「スペクトル」のようです。電気通信系の周波数解析装置として「スペクトラムアナライザ」がよく使われるので、その名称が影響しているのかもしれません。

ところが、分光分野の解析装置にも「Spectrumアナライザ」があり、これを「スペクトルアナライザ」と呼ぶのかと思いきや、計測器メーカーなどが示している呼称は「光スペクトラムアナライザ」が一般的なようです。不思議なことに、「スペクトラムアナライザ」を「スペクトルアナライザ」とは呼ばないようです。

ちなみに、JISではどうなっているのか調べてみたところ、例えばJIS C 6122には、「電気スペクトラムアナライザ」と「光スペクトラムアナライザ」が装置名として示されていました。ただし、Spectrumそのもののことは、調べた範囲では「スペクトル」と表記されていました。

次回は「ディファレンシャルモードとコモンモードノイズ」を予定しています。

Key Points:

・周波数を高くすると、全体的にスペクトラムの振幅が増加する。

・立ち上がり/下がりを遅くすると、-40dB/decの減衰に入る周波数が低くなり、スペクトラムの振幅は減衰する。

・Dutyを変更すると、偶数次高調波が発生するがスペクトラムのピークには影響しない。基本波のスペクトラムは減衰する。

・立ち上がりのみ遅くすると、trの成分がより低い周波数から減衰する。