伝達関数

補償ランプのスロープがダウンスロープの1/2以上必要な理由

2016.04.12

この記事のポイント

・電流(ピーク電流)モードのDC-DCコンバータでは、サブハーモニック発振の対策として、「スロープ補償」が利用される。

・補償ランプのスロープは電流波形のダウンスロープの1/2より大きい必要があることを式で確認する。

前項では、サブハーモニック(低調波)発振の理論解を求めました。実際の電流(ピーク電流)モードのDC-DCコンバータでは、サブハーモニック発振の対策として、「スロープ補償」と呼ばれる手法が採用されています。スロープ補償は、エラーアンプによって生成される電流スレッショルドに右下がりのランプ波電圧を加えることで、安定化を図る方法であることはよく知られていると思います。また、「補償ランプのスロープは電流波形のダウンスロープの1/2より大きい必要がある」ということも同様によく知られていることだと思います。

ここでは、なぜスロープ補償のスロープが電流波形のダウンスロープの1/2以上必要なのかを、式で求めたいと思います。

電流モード降圧コンバータのコイル(インダクタ)電流波形が、図 10 のようになることは前項で説明した通りです。

dc_0412_06

図10に対して、補償を考慮した場合の PWM 入力の波形を図 12 に示します。

カレントセンスゲインはRS、リップル電流によるスロープの傾きをSn 、スロープ補償による傾きをSe、ダウンスロープの傾きをSpとします。 ton後のPWM 入力のピーク電圧(Vc)は、式3-23で表すことができます。

dc_0412_01

前項で、式3-20を求めたときと同様に計算を行うと、式3-24が求まります。

dc_0412_02

前項と同様に、{In+1 – In}は等比数列なので、サブハーモニック発振を起こさない条件は、この等比数列がn → ∞で、0に収束することとなります。つまり、以下の式3-25が条件になります。

dc_0412_03

そして、式3-25から、式3-26が求められます。

dc_0412_04

式3-26において、Seの最も厳しい条件はSn = 0 のときです。この条件でのSe、つまりスロープ補償による傾きは、式3-27で表されます。

dc_0412_05

式3-27が示す通り、スロープ補償による傾きSeは、ダウンスロープの傾きSpの1/2以上となります。

今回の補償ランプの話で、「電圧モードの伝達関数」、「電流モードの伝達関数」、「Fmの導出」、「サブハーモニック発振の理論解」と続けてきた「スロープの伝達関数」は終わりになります。