伝達関数

アンプのイマジナリーショート

2015.12.22

この記事のポイント

・実際のゲイン/位相特性と導出された伝達関数が示す特性には相違点が存在する。

・アンプの伝達関数を導出する時は、イマジナリーショートを適用できる領域とできない領域が存在することを理解する。

前項では、エラーアンプと個々の電圧アンプ、電流アンプの伝達関数を導出しました。この項では、アンプの伝達関数を求める手法としてよく用いられるイマジナリーショートについて検討します。

アンプのイマジナリーショート

図4

オペアンプを学び、諸特性を検討する際に必須なのは、理想オペアンプとイマジナリーショート(バーチャルショート、仮想接地とも呼ぶ)の考え方です。同様に、アンプの伝達関数を求める際にもイマジナリショートを用いる方法が一般的です。

伝達関数の導出は、図4のVaをVrefとイマジナリーショートとして考えることで、小信号では接地として扱い(ΔVa = 0)式を求めます。

図4に対して、この手法を用いて導出した伝達関数式を式2-9 に示します。

この式から得られるゲイン(Gain)と位相(Phase)のボード線図(実線)と、実際の測定によって得られるボード線図(破線)を図5に示します。

図5

図5から、式が示す特性と実測との相違が読み取れます。

 ・ 低周波でゲイン(Gain)が発散(∞)、位相(Phase)が90°回っている ・ 高周波でゲイン(Gain)が一定、位相(Phase)が180°保持される

これらは、「イマジナリーショートが適用出来る領域には条件がある」ことを意味しています。
理想的なイマジナリーショートが成立するには、次の条件が必要です。

・ アンプのDC ゲイン (A) = ∞  
 ・ アンプの帯域 (BW) = ∞

図6

しかしながら、これらの条件は実際に成立しません。実際には、図6のように DC ゲインと帯域は、共にトランジスタのgmや出力インピーダンスといった回路特性によって制限されています。

結果として、以下のようになります。

・ アンプのDC ゲイン (A) = ∞ → A:有限値 ・ アンプの帯域 (BW) = ∞ →fWB:有限値

これは低周波側ではDCゲインが有限になり、高周波側では帯域が制限されることでゲインが減少することを表しています。この現象が、伝達関数にどのような影響を与えるのかを検証してみましょう。

イマジナリーショートを想定して導出した先ほどの式 2-9 と、前項でキルヒホッフ則より導出した式 2-6 は、C1=0 とすれば同様の式になります。しかし、式 2-6 は導出する上で式 2-5 が前提条件となっています。これがイマジナリーショートが成立する条件になります。

図7

そこで、式 2-5 に関して先に示した特性による理想条件からの変化の影響を検証してみます。

低周波側(ω = 0)、A = 有限の時式 2-5 は、

Zb → ∞、RsA → 有限値

となって成立しません。

高周波側(ω = ∞)、A≒0の時は、

Zb → R3、RsA → 0

となって、こちらも成立しません。
したがって、実際の回路では伝達関数は、周波数領域に対して図7のように変化していきます。

最後に、イマジナリーショートの適用について図8にまとめました。アンプの伝達関数を導出する時は、イマジナリーショートを適用できる領域とできない領域が存在すること理解し、各々の領域に対して適切な導出方法をとる必要があります。

図8