伝達関数

伝達関数とは

2022.09.22

この記事のポイント

・伝達関数とはブラックボックスを介して入力信号(vin)が出力信号に変換される場合の変換変数

・ゲインと位相は一般に伝達関数の重要な要素

・伝達関数は分解することができ、それらの積として記述できる

・キルヒホッフ則は伝達関数を導出するための重要な法則。

・インピーダンス表記が必要になるので、時間の逆数として角速度ωを使う。

・複素数が出てくるのは、電気回路で複素数は応答時間を表すため。

・ΔVinをコンデンサと抵抗でインピーダンス分割したΔVoutを表す伝達関数を考える例。

・コンデンサのインピーダンス記述「1/ jωC」を伝達関数からイメージする。

・ボード線図(周波数特性)は基本となるので、ゲインと位相の考え方と意味することをきちんと理解する。

伝達関数とは、「システムの入力と出力の関係を表し、入力を出力に変換する関数」のことです。これから考えていくことに当てはめれば、「ブラックボックスを介して入力信号(vin)が出力信号(vout)に変換される場合の変換変数」という言い方ができます。

伝達関数とは:ゲインと位相

一般に伝達関数の示す重要な要素として、ゲインと位相があります。ゲインは伝達経路の増幅率を表し、位相は伝達する時間のズレを表します。これらを、簡略化して図1にまとめました。

DC-DCコンバータをブラックボックスとした場合の伝達経路の増幅率と位相は伝達する時間のズレ

図 1

「ゲインと位相」と言えば、アナログ系の方は一番にオペアンプの特性が頭に浮かぶかと思います。正にその通りで、オペアンプをブラックボックスとして考えると、オペアンプのゲインと位相の特性は伝達関数で表現可能です。

DC-DC コンバータに関しては、過渡応答特性の評価においてゲインと位相の特性を測定することはよく知られています。DC-DCコンバータの場合も、DC-DCコンバータをブラックボックスとして、ゲインと位相を表す伝達関数を考えていきます。図1の破線で囲まれた回路は、DC-DCコンバータの場合のブラックボックスの中身の一例です。

伝達関数導出の基本的な考え方

図1をベースにして伝達関数を求めるうえで、伝達関数には便利な特徴があります。それは、伝達関数は分解することができ、それらの積として記述できることです。その具体例を図2に示します。

DC-DCコンバータの機能ブロックを伝達関数で分解して可視化する

図 2

図2は、図1のDC-DCコンバータのブラックボックスの中身で、赤色の線で囲んだ全体をG(S)として、ブロックごとに G1(S) 、G2(S) 、G3(S) 、G4(S) に分解すると、以下の式1-1のように記述することができます。

\begin{equation}
G_{(S)}=G_{1(S)} \cdot G_{2(S)} \cdot G_{3(S)} \cdot G_{4(S)}
\end{equation}

式 1-1

例えば、G1(S)はエラーアンプブロックの伝達関数で、入力Δvinに対して出力がΔvcであるとすると、Δvc / Δvinと表すことができ、各ブロックは以下のように表すことができます。

\begin{equation}
G_{1(S)}=\frac{\Delta v_C}{\Delta v_{\text {in }}}, G_{2(S)}=\frac{\Delta D}{\Delta v_C}, G_{3(S)}=\frac{\Delta v_{S W}}{\Delta D}, G_{4(S)}=\frac{\Delta v_{\text {out }}}{\Delta v_{S W}}
\end{equation}

これを式1-1に当てはめると

式 1-1

式 1-2

となり、式1-1は正しいことがわかります。

つまり、各ブロックの伝達関数を導出し、それらの積をとることで 全体としての伝達関数を求めることができます。

伝達関数をブロックごとに具体的に求めていく前に、伝達関数を導出する上で重要な2つの法則について確認をしておきます。

キルヒホッフ則とインピーダンス

1つは、キルヒホッフの電流則です。この法則は、「任意の接点では電流の和は0(ゼロ)になる」という法則です。この法則で注意しなくてはならないのは、電流の向きです。

もう1つは、キルヒホッフの電圧則です。こちらは、「任意の閉回路では電圧変動は0になる」という法則です。これら2つの法則を図示すると、図3のようになります。

キルヒホッフの電流則とキルヒホッフの電圧則の図示

図3

伝達関数を導出するために、上記の 2 つの法則を使用するのですが、1つ検討しなくてはならないことがあります。それはインピーダンス表記をどうするかということです。下の図4のように抵抗R、コンデンサC、コイルLをDC電源 V に接続すると、それぞれに挙動は異なります。抵抗Rの両端電圧は時間が経っても変化しません。コンデンサの電圧は徐々に上昇し、ある時間をもって電源の電圧に到達します。 コイルの電圧はすぐに電源の電圧に到達しますが、徐々に降下します。

DC電源 V に抵抗R、コンデンサC、コイルLを接続した際のそれぞれの時間経過に対する電圧変化の挙動

図4

図4の特性から、コンデンサとコイルも抵抗として考えたとき、抵抗値(インピーダンス)は時間(位相)の関数として考えることができます。このように時間変化する抵抗も含めて、これをインピーダンス表記と言います。入力電圧がステップ応答したときのコンデンサのインピーダンスは時間が経つにつれて大きくなると言えます。コイルはその逆です。電気回路の場合は、時間の逆数として角速度ωを使うので、図5のように書き表すことができます。

素子のインピーダンス

図5

複素数が出てくる理由を記しておきます。電気回路で複素数は位相を表し、応答時間に関係するパラメータです。今回の場合は電源の応答速度を表しています。コンデンサの場合は遅れて電源電圧Vに到達しますが、コイルはその逆になるので、図5のように表記することができます。

伝達関数の周波数特性

まず、図6を見てください。抵抗とコンデンサからなる簡単な閉回路です。まず、この回路の伝達関数を求めてみます。

回路図からもイメージしやすいように、図6を図7のように書き換えてみます。もちろん、回路としては同じです。こうすると、ΔVoutは、ΔVinをRとCでインピーダンス分割したものであることがすぐにわかると思います。

抵抗とコンデンサからなる簡単な閉回路

式にすると、ΔVout = ΔVin ×(C/(R+C))となりますが、インピーダンス表記にします。
上記の「キルヒホッフ則とインピーダンス」で説明したように、Rの記述はRですが、

次にボード線図を書いてみましょう。ボード線図とは、横軸に周波数(f)をとり、縦軸にはゲイン(Gain)と位相(Phase)をとるものですので、ゲインと位相を求める必要があります。まずはゲインから求めていきます。

続いて、位相を求めます。

上記をまとめると、以下の図10のようになります。これでゲイン(Gain)と位相(Phase)の 特性がイメージできると思います。

図10

図11

「キルヒホッフ則とインピーダンス」では、コンデンサのインピーダンスを「1/jωC」と記述すると述べましたが、これを伝達関数から理解につなげてみましょう。図11を見てください。

図11は、図6の回路のステップ応答特性です。コンデンサは電源変動した瞬間(f = ∞と等価)はコンデンサのインピーダンスはゼロとなり、ΔVout=0になります。ある時間を経て(f=0 と等価)ΔVinと等しくなります。

これを、図化する以下のようになります。これがコンデンサのステップ応答に対するインピーダンス「1/jωC」のイメージです。

コンデンサのステップ応答に対するインピーダンス「1/jωC」のイメージ

図12

最後に、図13にコイルも含めた各素子のインピーダンス記述と、ω=0およびω=∞時の等価的な扱いを、そして、図14にその周波数特性を示しておきます

コイル、キャパ、抵抗の周波数特性