DC-DCコンバータ|基礎編

保護機能/シーケンス機能

2014.05.27

この記事のポイント

・各機能はICに搭載されているが、ICによってあるものとないものがある。

・保護機能は、入力側、出力側、IC自身のどの保護なのか、どんな動作なのかを理解すること。

・シーケンスなどは、簡単なものはIC内蔵、複雑なものは別個のICが用意されている。

DC-DCコンバータは、回路に電力を供給するのはもちろんですが、安全の確保も重要です。近年のDC-DCコンバータ用のICは、必要と思われるほとんどの保護機能を搭載しています。保護機能によっては、しきい値などをユーザが調整でき、様々な条件に対応します。また、CPUやFPGAなどの複数の電源を必要とするデバイスには、電源投入の順序やタイミングの規定があり、電源回路側はそれに対応する必要があります。そのために、シーケンス機能を備えた電源ICが用意されています。ICに搭載されている保護機能やシーケンス機能を外付け回路で実現することも可能ですが、電源よりはるかに複雑な回路設計と多くの追加部品が必要になり現実的ではありません。ここでは、代表的な保護機能とシーケンス機能の概要を紹介します。

保護機能:サーマルシャットダウン

サーマルシャットダウンは、ICのジャンクション温度が最大定格、つまりTj maxの前後で回路動作をシャットダウンする仕組みです。動作するジャンクション温度はICによって違いますが、おおよそTj maxの前後に設定されています。シャットダウン後の動作モードは、自動復帰型とラッチ型の2種類があります。

スイッチングレギュレータの保護機能:サーマルシャットダウン(Tharmal Shut Down)

図 51

自動復帰型は、温度が上昇し設定されているしきい値に至るとシャットダウンし、温度が設定値まで下がってくるとICの動作は自動的に復帰します。ラッチ型は、温度が下がってもICの動作はシャットダウンしたままになります。ICを再び動作させるためには、ICの電源を入れ直す必要があります。

この2種類のシャットダウン後の動作モードは、使用するアプリケーションの安全設計の考え方で選択します。ちなみに、ロームのICはTjmaxが150℃なので、それプラス25℃の175℃でサーマルシャットダウンをするものが多いです。重要な確認事項ですが、サーマルシャットダウン機能は、障害時にIC自身の発煙や発火を防止しするための機能です。給電する基板やセットを保護する機能ではありません。

保護機能:低電圧誤動作防止

低電圧誤動作防止機能は、英語の頭文字を取ってUVLOと呼ばれることが多いです。入力電圧がICの入力電圧範囲以下になると、ICの出力を停止して自身の出力トランジスタや負荷を保護します。入力電圧がICの動作電圧以下になると、回路が予期せぬ振る舞いを起こして、異常な出力を出す前に強制的に回路動作を停止します。UVLOは予期せぬ障害を防止する意味で、ほとんどの電源ICに搭載されています。

スイッチングレギュレータの保護機能:低電圧誤動作防止(UVLD, Under Voltage Lock Out)

図 52

保護機能:過電流保護

スイッチングレギュレータの保護機能:過電流保護(OCP, Over Current Protection)

図 53

過電流保護は、出力電流が制限値より多く流れたときに出力電流を制限して、ICや負荷の焼損を防ぐ機能です。コイルの電流をモニタして制限値を超えたことを検知すると、上側スイッチのON時間を短くして出力電圧を下げることにより電流を制限します。過電流状態が継続すると、ICは電流を制限し続けるのですが、制限値の電流、つまり過電流は負荷に流れ続けることを覚えておいてください。電流値が正常に戻ると、ICの動作も正常に戻ります。

保護機能:短絡保護

スイッチングレギュレータの保護機能:短絡保護(SCP, Short Circuit Protection)

図 54

短絡保護は、過電流保護とペアで使われることが多いので、あえて分けずに過電流保護の機能として書かれているICもあります。前述の過電流がさらに多くなると保護回路は出力電圧をさらに下げます。ある時間以上規定の電圧以下になっていると、保護回路はスイッチング動作を停止し出力はゼロになります。この保護機能にも自動復帰型とラッチ型があり、自動復帰型は数百ミリsec後に再びスイッチングを開始して電圧が出力されます。この時点で過電流の原因が排除され過電流が流れなければ正常動作になりますが、再び過電流状態に入ると出力がON/OFFを繰り返します。ラッチ型は、出力がゼロのまま保持されて、ICの電源を入れ直すまで復帰しません。これもサーマルシャットダウンと同じで、使用するアプリケーションの安全設計に対する考え方で選択することになります。

保護機能:過電圧保護

過電圧保護は、電源ラインが何らかの原因で短絡して大電流が流れた後、それが復帰した時に出力電圧が一瞬オーバーシュートする可能性があり、特にCPU系のICは動作電圧と絶対最大定格のマージンが小さいので、オーバーシュートの過電圧でICを壊す可能性があります。過電圧保護は、出力電圧をモニタして規定値以上の電圧を検知すると、上側スイッチをOFFにして電力の供給を停止します。ただし、電力の供給を停止しただけでは、インダクタに蓄積されている電荷が放出されて電圧が上がり 続けるので、下側スイッチをONにしてインダクタの電荷をGNDへ逃がし、出力が上昇するのを防ぎます。

スイッチングレギュレータの保護機能:過電圧保護(OVP, Over Voltage Protection)

図 55

シーケンス機能:シャットダウン

シャットダウン機能は、ICの制御部の動作をON/OFFします。回路に電力が必要ない場合、またPOL(Point Of Load:基板上の一部の回路やデバイスのみの電源)では負荷の要求に連動してシャットダウンすることで、消費電力や待機電力の削減に寄与します。

スイッチングレギュレータのシーケンス機能:ソフトスタートありとなしの波形

図 56

シーケンス機能:ソフトスタート

ソフトスタートは、起動時の突入電流を防ぐため、出力電圧の立ち上がりに時定数をもたせてゆっくり上昇させる機能です。突入電流があると、ICの過電流保護が働いて電源が立ち上がらない(ラッチオフ状態)トラブルが発生することがあるので注意してください。ソフトスタートの時定数は、IC内部で固定されているタイプと、調整ピンを備え外付けコンデンサで設定できるタイプがあります。

シーケンス機能:パワーグッド出力

パワーグッドは、出力が設定した電圧値に到達した時点でフラグを出す機能です。CPUに電源が問題なく立ち上がったことを通知したり、イネーブル機能と組み合わせることで複数電源による立ち上げシーケンスを組めます。図57は、パワーグッドとイネーブルを使った、電源1から電源3までを順番に電源が立ち上げるシーケンス構築の例です。

スイッチングレギュレータのシーケンス機能:パワーグッド出力を利用した電源立ち上げシーケンス構築例

図 57

スイッチングレギュレータのシーケンス機能:パワーグッド出力を利用した電源立ち上げシーケンス波形

図 58

シーケンス機能:トラッキング

トラッキングは、複数電源の起動の順序とタイミングを設定できる機能です。複数の電源出力が要求された順番に立ち上がることで、回路やデバイスの安全が確保されます。トラッキングには、同時トラッキング、比例トラッキング、オフセットトラッキングの3種類があります。

スイッチングレギュレータのシーケンス機能:トラッキング。トラッキングには、同時トラッキング、比例トラッキング、オフセットトラッキングの3種類がある。

図 59

同時トラッキングは、全ての電源が同時にONになって、同じ傾きで立ち上がり、低い電圧の電源から順に設定電圧に到達します。これは、FPGAなどで電圧が低いコア電源を立ち上げてから、周辺のI/O電源を立ち上げなければならないアプリケーションで有用です。

比例トラッキング(レシオメトリック)は、それぞれ異なる傾きで立ち上げます。これは、それぞれの電源ラインのデカップリングコンデンサに大きな突入電流が流れない様に、傾きを調整する方法です。

オフセットトラッキングは、それぞれの電源間のオフセット電圧(電圧差)を一定に維持しながら立ち上げます。これは、電源電圧間の差に規定があるデバイスに有効な方法です。

これらの制御を行うためには、一般的にはシーケンサICや、トラッキングコントローラICを使用します。電源ICにトラッキング機能が内蔵されたものもあり、マスターとなる電源の出力電圧を利用してスレーブを制御することができます。

スイッチングレギュレータのシーケンス:シーケンスICやトラッキングコントローラICを使った制御例

図60:シーケンサICを使った制御例

スイッチングレギュレータのトラッキング:電源ICに内蔵されたトラッキング機能を利用した例

図61:内蔵のトラッキング機能を利用する例

【資料ダウンロード】スイッチングレギュレータの基礎

DC-DCコンバータという括りで、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータの基礎についての内容になっています。

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