DC-DCコンバータ|基礎編

リニアレギュレータの重要スペック

2014.05.27

ここで取り上げているリニアレギュレータはIC(Integrated Circuit/集積回路)ですので、他のIC、例えばオペアンプなどと同様に、特性や性能を示すスペックがあります。スペックはSpecificationの略で、仕様、規格、基準といったような意味合いです。リニアレギュレータのデータシートには、スペック(規格)表があり、その中には出力電圧値とその精度などが示されています。これらをパラメータと呼んでいます。データシートにはパラメータの他に、最大定格、動作保証条件、特性グラフといった非常に重要な情報が記載されています。図-9に基本的なデータシート、スペックの確認ポイントとスペック表の例を示します。

絶対最大定格は、一瞬たりとも超えてはいけない値と定義されています。中には短絡時間など時間の概念をもった項目がある場合がありますが、基本的には如何なる時間も超えてはならず、もちろんその値に±5%のような許容差はありません。時々、「超えたらどうなるのか?」とか「どのくらいのマージンをもっているのか?」といった質問を受けることがあります。興味としてはありなのかもしれませんが、絶対最大定格の主旨を考えると論じる意味はなく、使用上での最大値が最大定格を超えないようにする、もしくはそれを許容できる最大定格のものを使うことを検討すべきです。

スペック値を保証する条件、例えば印加電圧や温度など確認は重要です。実使用条件とスペックの規定条件は必ずしも一致しません。代表的な例としてTa=25℃という条件があれば、その保証値はあくまでTa=25℃での値です。ところが、実使用においてTa=25℃一定の条件など、恒温槽の中以外ではありえません。したがって、スペック値を見るときは、一点における値なのか、ある範囲、例えば動作保証温度における値なのかを必ず確認して、実使用条件および設計機器の動作条件に近い条件での値を確認する必要があります。これには、付随する特性グラフが役立つことが多いです。

最後に、スペック値には最小値(Min)、最大値(Max)、代表値(Typ)の何れか、またはすべての記載があります。この中で保証されるのはあくまで最小値と最大値です。代表値は特性分布や統計的手法から、「おおよそはこのくらいの値」という意味合いの値です。さて、基本的にはスペック値をもとに設計をするわけですが、一体どの値を使って設計すればよいのでしょうか。おおよそは代表値でということになるのでしょうが、原則論を言えば最悪条件になる値にてということになります。ここは設計者のノウハウ、経験によるところです。

ここでは、リニアレギュレータのスペックの中から、最低限理解して検討する必要があるスペック、以下の7項目について説明します。もちろん、他のスペックは無視して良いわけではありません。リニアレギュレータに限りませんが、データシートをよく読むことは、設計者にとって非常に重要です。

1) 入力電圧範囲
2) 出力電圧範囲
3) 出力精度(VREF精度)
4) 出力電流
5) ドロップアウト電圧
6) 過渡応答特性
7) リップル除去比
リニアレギュレータのデータシート、スペックの確認ポイント

図 9:データシート、スペックの確認ポイント

この記事のポイント

・絶対最大定格は厳守すべき重要項目。

・設計においては全動作温度範囲で保証された値が有用。

・Typical値は保証値でない。

・データシートをよく読むことは、電源ICに限らず非常に重要。

入力電圧範囲

入力電圧範囲は、2つの値を確認します。最大定格に示されている範囲は、「入力可能」という意味で、ここまでは印加しても良い、という範囲なので、この範囲で動作するという意味ではありません。定常ではない電圧を想定し、それがこの範囲にあることを確認します。

リニアレギュレータの重要スペック:入力電圧範囲および出力範囲の関係を示す図

図 10:入出力の関係

最大定格とは別に、動作入力範囲とか推奨入力範囲という項目がありますので、それを目安にします。

図10は、入力範囲、出力範囲、そしてドロップアウト電圧の関係を示しています。有効な入力範囲は、「出力電圧+ドロップアウト電圧以上から最大入力電圧まで」となります。リニアレギュレータは降圧しかできないので、「出力電圧+ドロップアウト電圧」以下の電圧を入力しても動作できません。この電圧以下が入力されるとどうなるかはICの回路構成によって違うのですが、多くは「入力電圧-ドロップアウト電圧」くらいの電圧が現れます。しかし、安定化しているかどうかは保証の限りではありません。さらに入力が低下すると、あるところで突然0Vぐらいに落ちてしまうのが一般的かと思います。バッテリ駆動などで、バッテリもぎりぎりまで、給電される回路も動く限りといった用途では、この領域を利用することもあるようです。

この記事のポイント

・図10の関係をしっかり理解して、入出力条件を設定すること。

出力電圧範囲

リニアレギュレータの重要スペック:入力電圧範囲の意味と確認ポイント

図 11

出力電圧範囲は、可変タイプのためのスペックで、5V出力のような固定タイプのものにはありません。出力電圧範囲とは、可変タイプにおいて出力電圧として設定できる電圧範囲になります。

出力電圧範囲としては、基本的に可変タイプが設定できる最低電圧はVREFになります。VREFは1-1)項の動作原理で説明した、エラーアンプ入力に接続されている比較用の基準電圧のことです。動作回路から、比較する電圧(VREF)より低い電圧を安定化することができないがわかると思います。

VREFはICの一部分なので基本的には外部から変更することはできません。CMOS系のリニアレギュレータでは0.8V前後、バイポーラ系では1.2V前後のVREF が使われることが一般的かと思います。ここで、気を付けなければならないのは、例えば 1V 出力が必要なのに、1.2VのVREFのものを選んではいけないということです。

リニアレギュレータの重要スペック:出力電圧範囲の意味と確認ポイント

図 12

出力電圧範囲に話をもどしますと、最低電圧はVREFfで、最大は最大入力電圧(VIN MAX)-ドロップアウト電圧になります(図10参照)。

入出力条件は、上記の関係に基づき計算で求めることができるのでが、損失電力によって制限されることがあります。TjMAXを超えないように熱計算をして、VIN、VOUT、IOUT、Taの条件によってトレードオフが必要になる場合があります。

この記事のポイント

・通常VREFより低い電圧を出力として設定できない。

・設定条件によっては、熱損失を許容できない場合があるので、熱計算によって確認が必要。

出力精度(VREF精度)

リニアレギュレータの重要スペック:出力精度(VREF精度)の意味と確認ポイント

図 13

出力精度は、固定出力タイプの出力電圧の許容誤差になります。昔は±5%が標準的なものでしたが、最近は±1%といった高精度のものも数多くあります。
出力精度は、温度や出力電流と密接な関係があります。現実的期には25℃のみで使用することはないので、全温度範囲のスペックを参照します。

可変タイプに関しては、VREFの精度が該当します。これがIC自体の精度になります。可変タイプの出力電圧は、外付けの抵抗で設定されます。したがって、可変タイプの出力精度は、VREFの精度に出力設定抵抗の誤差を加味したものになります。

この記事のポイント

・可変タイプの出力電圧精度はVREF精度に出力設定抵抗の誤差を加味したものになる。

・汎用電圧であれば、固定タイプを使う方がよい。出力精度の保証が得られ、抵抗2本が不要。

出力電流

出力電流のスペックは、最低限出力できる電流を保証する項目で、基本的に最小値が規定されているものが多いと思います。データシートによっては、出力電流リミット(Output Current Limit)と言う表現になっている場合があります。この英語のLimitの意味の取り方なのですが、「制限」ではなく「限界」の意味であり、最小値が保証されていれば、それは「最小限の電流値の保証」という意味ですので、実際にはそれ以上の電流がれます。示されている値で電流制限がかかるものと勘違いをして負荷を壊してしまった、という例がありますので注意が必要です。また、ICによっては、最小値と最大値が規定されているものがあります。この場合の最大値は、電流が制限されるという意味になりますが、その制限値に頼るのであれば念のためメーカに確認した方が良いでしょう。

リニアレギュレータの重要スペック:出力電流の意味と確認ポイント

図 14

さて、保証された出力電流を常に利用できるかという話ですが、答えは「条件による」になります。入出力条件、周囲温度条件との兼ね合いで決まってきます。リニアレギュレータにとって熱計算は常に必要で、重要な管理項目のひとつであることをここでも述べておきます。

類似のスペックとして、短絡電流が示されていることがあります。短絡電流は出力端子が地絡、つまりGNDにショートした場合に流れる最大電流です。この電流がわかれば、最悪条件での対処を決めるのに役立ちます。

ほとんどのリニアレギュレータは、出力が短絡した時の保護機能をもっています。サーマルシャットダウンは代表的な保護機能で、チップ温度を検出して出力電流を切ります。この機能により、リニアレギュレータのチップは制限温度(150℃前後が多い)以上になることはないので、ほとんどの場合壊れることはありません。しかしながら、チップの温度が下がると自動復帰し(ラッチオフするものもある)、負荷の障害が取り除かれていなければまた電流を流し始め、負荷に断続的に出力可能な電流を流しますので、負荷までは保護されない場合があります。

この記事のポイント

・データシートの該当項目よく確認し、最大値なのか最小値なのかを必ず確認する。

・規定の出力電流を常に取れるわけではない。入出力条件とTjMAXにより制限を受ける。

・過電流時や短絡時の動作(最大電流、サーマルシャットダウン、ラッチオフなど)は具体的にどうなるか必ず確かめる。

ドロップアウト電圧

リニアレギュレータの重要スペック:ドロップアウト電圧と入出力の関係

図 10:入出力の関係

ドロップアウト電圧は、リニアレギュレータが安定化動作をするために必要な入力電圧と出力電圧の差です。損失電圧と表現されている場合もありますが、当然前述の定義における損失電圧ですので、例えば12V入力で5V出力の場合の損失電圧7Vとは違う意味になります。ドロップアウト(Dropout)という言葉ですが、入力電圧が出力電圧に近づいてくると安定化動作が維持できなくなり、出力は入力に比例するように降下しだします。この状態を英語ではDropoutと表現するようで、この状態に入る電圧、つまり、安定化動作に必要な入力電圧と出力電圧の差のことをDropout電圧と呼ぶようです(諸説あるかと思います)。

先に使った入出力電圧とドロップアウト電圧の関係を示す図10をもう一度示します。1-3) リニアレギュレータの回路構成と特徴の項で説明したように、ドロップアウト電圧はICの回路構成によってことなります。標準型に比べドロップアウト電圧が低いのがLDOです。単純な関係として、ドロップアウト電圧が低ければ低いほど、出力電圧に近い入力電圧で動作できます。これは、入力電圧が変動するバッテリ駆動のアプリケーションでは重要なスペックになってきます。逆に12Vから5Vを作るアプリケーションでは、ドロップアウト電圧は重要ではありません。ちなみに、ドロップアウト電圧が小さいと効率が良くなるのでしょうか?
これについては後ほど説明します。

リニアレギュレータの重要スペック:ドロップアウト電圧と出力電流の関係

図 16:ドロップアウト電圧と出力電流

リニアレギュレータの重要スペック:ドロップアウト電圧と温度の関係

図 17:ドロップアウト電圧

リニアレギュレータの重要スペック:ドロップアウト電圧の意味と確認ポイント

図 15

図16と17のグラフは、ドロップアウト電圧と出力電流、そして温度との関係をしています。見ての通りで、温度や出力電流に対してそれなりに変動するパラメータであるといえます。常温のスペックでぎりぎりに設計すると、高温で動かないということになりかねません。ドロップアウト電圧に限りませんが、特性グラフは非常に重要な情報を提供しています。

この記事のポイント

・図10の関係をよく理解すること。

・出力電流と温度による変動が大きいので、最小入力電圧時に動作しなくなる条件に陥らないようにする。

過渡応答特性

リニアレギュレータの重要スペック:負荷電流急増に対する過渡応答特性の例

図 19:負荷電流急増の例。出力電圧は一瞬降下するが、
リンギングを伴いながら回復していく

過渡応答特性は、負荷電流の変動により出力電圧が変動した場合、リニアレギュレータは出力電圧を設定された電圧値に戻そうとします。この出力電圧の変動から元に戻るまでの時間を過渡応答特性と呼んでいます。厳密には負荷過渡応答特性です。

レギュレータって安定化するのが仕事じゃないの?...といった疑問があるかもしれません。確かにレギュレータは安定化動作をしていますが、レギュレータに関わらずどんなものでも状態の変化を受けてからそれに対応するまでには何がしかの時間を必要とします。出力の負荷変動が非常に速い場合、リニアレギュレータの帰還(安定化)ループの応答が追い付かず、負荷電流が急激に増えた場合は出力電圧が下がり、急激に減った場合は上がるという現象が現れます(図19、20参照)。

 

リニアレギュレータの重要スペック:負荷電流急減に対する過渡応答特性の例

図 20:負荷電流急減の例。出力電圧は一瞬上

このようなことから、負荷電流が急激に変わるアプリケーションでは過渡応答特性は重要な特性です。負荷変動によって出力電圧が大きく変動した時にその回復が遅ければ、回路にリセットがかかったり、データにエラーが生じたりする不具合を起こすかもしれません。こういった不具合を最小限にするためには、過渡応答特性の良いリニアレギュレータを選ぶ必要があります。後に説明するスイッチングレギュレータも同じように過渡応答特性をもっていますが、リニアレギュレータの過渡応答特性は連続的にループ制御をしていることから比較的高速です。

リニアレギュレータの重要スペック:過渡応答特性の意味と確認ポイント

図 18

ところが、過渡応答特性は、ほとんどの場合スペックとして保証されていません。これは出力容量や配線インダクタンスの影響を受けるため、一概に規定値を決めることができないのが理由です。標準的な回路例の特性がグラフに示されていることがあるので、その場合はそれを参考値とします。上述のように、PCBレイアウトによっても特性は異なりますので、最終的には実機にて実測することをお勧めします。

この記事のポイント

・急激な負荷(出力)電流の変動があると出力電圧は変動し、回復するまでに時間(応答時間)を要する。

・ICや出力コンデンサの特性によって応答時間は異なる(改善できる可能性がある)。

・変動があまり大きいと、電源監視機能のしきい値を超えリセットがかかることも有り得る。

リップル除去比

リニアレギュレータの重要スペック:リップル除去比の意味と確認ポイント

図 23

リップル除去比は、入力のリップル電圧を出力でどのくらい除去できるかというスペックで、PSRRや入力電圧リップル除去などいくつか呼び名がありますが、意味するところは同じです。リップル除去比はdBで表すことが多く、例えば60dBということでであれば、入力のリップルが1/1000に除去されることになります。100mVのリップルだと0.1mVになります。

リップル除去比は、入力のリップルが大きい場合に重要になります。最近はスイッチングレギュレータが多くなり、ノイズを嫌うアプリケーションでも効率などの観点からスイッチングレギュレータを使うようになりました。しかし、S/Nを妥協できないアプリケーションでは、スイッチングレギュレータの出力に乗っているスイッチングノイズ(リップル)を除去するために、リニアレギュレータのリップル除去機能を利用することがあります。確かに有効な方法の一つですが、入力のリップル周波数とリップル除去比の周波数特性をよく検討するする必要があり ます。一般に、リップル除去性能は周波数が高くなると低下します。したがって、リップル周波数が高い場合には、あまり効果が得られないことがあります。

リニアレギュレータの重要スペック:一般的なリニアレギュレータのリップル除去比と周波数の関係

図 21

リニアレギュレータの重要スペック:周波数特性が改善されたリニアレギュレータのリップル除去比と周波数の関係

図 22

図21は、ごく一般的なリニアレギュレータのリップル除去特性で、周波数に対して除去比は低下して行き、80kHでは約8dB程度ですので1/2.5しか除去できません。これに対しスイッチングレギュレータのスイッチング周波数は、数百kHzから数メガと高くなってきており、例えば600kHzのスイッチングレギュレータのリップルが100mVあったとすると、40mVのリップルが残ります。最近では周波数特性が改良されたリニアレギュレータが出ており、図22の例では、600kHz時のリップル除去比は28dBありますので1/25に除去でき、リップルを4mVにすることができます。

この記事のポイント

・元々は整流-平滑後のリップルを低減する機能。

・スイッチングレギュレータの後に接続してスイッチングリップルを低減できるが、リップル周波数に注意。

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リニアレギュレータの基礎として、動作原理、分類、回路構成による特徴、長所・短所を理解するためのハンドブックです。加えて、リニアレギュレータの代表的な仕様(規格値)と、効率と熱計算に関しても解説しています。

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