DC-DCコンバータ|評価編

高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意

2018.09.11

この記事のポイント

・入力電圧を高くする場合、スイッチング損失の増加が支配的になる。

・スイッチング損失が増えるので、MOSFETの電圧定格、許容損失を見直す必要がある。

・さらに、trとtfがより速いもの、オン抵抗とQgの低いMOSFETを検討する。

・電源仕様においてスイッチング周波数を下げることができるなら下げる。fSWを半分にすると損失は半分に減る。

・スイッチングトランジスタ内蔵タイプのICの場合は、ICの自体を見直すことになる。

前回は、スイッチング周波数を高めてアプリケーションの小型化を図る場合の注意事項を考察しました。今回は、入力電圧が高くなるケースにおいて、損失が増加する部分と、注意点および対応策を説明します。

高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意

DC-DCコンバータの入力電源は、産業機器の12Vバスなどはほぼ一定電圧ですが、自動車のバッテリ電圧などは、公称12Vに対して過渡変動も踏まえてかなりの範囲の電圧を想定した設計を行う必要があります。

今回は、今まで検討してきた条件である入力電圧12Vが最大60Vにまでなることを想定して効率を検討します。

損失要因」の項で式の中で、入力電圧が高くなることで効率に影響を及ぼすのは「スイッチング損失」です。

<入力電圧 VIN が高くなると大きくなる損失要因>

・スイッチング損失
    同期整流降圧DC-DCコンバータのスイッチング損失の計算式

この式が示す通り、スイッチング損失はVINが高くなると増加し、乗算ですので大きな影響が出ることがわかります。

table

VINが12Vと60Vの場合の損失を、実際に計算してみます。

PSWH(12VIN)=0.5×12V×2A×(20 nsec+20 nsec)×1MHz=0.48W
PSWH(60VIN)=0.5×60V×2A×(20 nsec+20 nsec)×1MHz=2.4W

VINが5倍になりますので、計算上はスイッチング損失も単純に5倍になります。以下に、入力電圧に対する全体損失の変化を示します。基本的に、スイッチング損失の増加が支配的です。

同期整流降圧DC-DCコンバータの入力電圧と全体損失

考察および対応策

入力電圧範囲を12V~60Vに拡張するには、当初の12VIN用に選択したMOSFETは電圧定格(耐圧)の定格を始め、いくつかの仕様を見直すことになります。以下に、見直しするポイントと注意点をまとめました。

  • スイッチングトランジスタ(MOSFET)外付けのコントローラICを使うケースでは、MOSFETの電圧定格(VD)を見直す。
  • スイッチング損失が増えるので、MOSFETの許容損失も見直す。
  • MOSFETの変更にともない、trとtfがより速いもの、さらにオン抵抗とQgの低いものを検討する。
  • 電源仕様においてスイッチング周波数を下げることができるなら下げる。fSWを半分の500kHzにすると損失は半分に減る。
  • スイッチングトランジスタ内蔵タイプのICの場合は、ICの自体を見直すことになる。

ここまでは、損失面だけを考えてきましたが、より高い入力電圧をカバーする場合にもう1つ検討事項があります。本題ではありませんが、現実面では重要ですので記します。

最大60VINを5VOUTに降圧するわけですが、電源ICの制御パラメータの1つである最小オン時間によって降圧比が制限されるため、降圧比と最小オン時間の検討が必須です。60:5の降圧ですので、スイッチング周波数が1MHzの場合単純計算では、周期1μsの1/12、つまり83.3nsのオン時間を制御できる電源ICが必要です。しかしながら、現実的は最小オン時間が83.3ns以下の電源ICは多くはありません。ロームの例では、BD9V100MUFという電源ICが対応できますが、多くの場合、最小オンタイムをクリアできずスイッチング周波数を下げることを強いられます。スイッチング周波数を下げると、損失だけではなく関連するすべての部品定数などを見直す必要があります。ただし車載機器では基本的に2MHz以上のスイッチング周波数が求められますので、スイッチング周波数を下げるという逃げ口はありません。

このように、高電圧アプリケーションを検討する際には、降圧比と損失増加の2方面から検討する必要があります。

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