DC-DCコンバータ|評価編

重要特性-ICの規格

2014.09.30

この記事のポイント

・スイッチングレギュレータの設計は電源ICの使い方に準じるので、ICの規格を理解、検討することが重要となる。

・電源としての仕様とICの規格の関係を理解する。

スイッチングレギュレータの基本として、スイッチングレギュレータの重要特性について確認します。本項では「ICの規格」の観点から、次項では「電源」としての観点で説明します。

現状のスイッチングレギュレータの設計は、使う電源用ICに大きく依存すると言っても過言ではありません。したがって、電源ICの規格と意味するところを理解することは重要です。

スイッチングレギュレータ用ICのデータシートの規格表を見ると、数多くのパラメータが記載されており、規格値が示されています。ここでは、その中から基本的な重要項目として、入力電圧範囲、出力電圧範囲、出力電流、スイッチング周波数、動作温度範囲があります。

入力電圧範囲

入力電圧範囲はICが動作できる入力電圧の範囲です。ICの仕様によっては、最大5Vや40Vなど種類があるので、使う回路の入力電源の仕様に合うものを選択する必要があります。また、最大電圧だけではなく動作可能な最小電圧も規定されているICもおおくあります。降圧電源の場合、設定した出力電圧よりいくらか高い電圧が動作可能な最低電圧になります。それ以下になると、ICの動作が止まったり、異常な動きをする場合もあります。これを防ぐために、UVLO(Under Voltage Lock Out)と呼ばれる保護機能をもつICがあります。
定常的な入力電圧の他にサージなど過渡電圧の印加の可能性はよく検討する必要があります。ICによっては、定常電圧と過渡電圧の規定が別のものがあります。
最大定格の入力電圧との違いは、最大定格はあくまでの印加可能な電圧であり、動作については問いません。
高電圧から低電圧に変換する場合、降圧比の制限を受けることがあり、必ずしも全範囲で使用可能とは限りません。

出力電圧範囲

出力として設定可能な電圧範囲です。出力電圧固定タイプの場合はその限りではありません。降圧コンバータでは、最小出力電圧は一般には内部リファレンス電圧より低い電圧に設定できません。最大出力電圧は入力電圧からいくらかの損失電圧を差し引いた値になります。
出力電圧値としては、ICのリファレンス電圧の精度、出力電圧設定用の抵抗器の精度が影響します。

出力電流

出力可能な電流値です。最小値だけが保証されている場合と最大値も保証されている場合があります。電流値は出力段スイッチングトランジスタの能力と熱に依存します。一般には、大電流が必要な場合には出力段スイッチングトランジスタは外付けのほうが有利です。
出力に必要な電力に合わせて余裕をもつ(ディレーティング)が必要です。ぎりぎりだと熱により破壊に至る場合があります。また、過渡的な負荷電流が流れる場合には、十分に出力電圧が安定している、もしくは必要時間内に安定することを確認する必要があります。
規格値の表示として、出力電流(連続電流)とスイッチング電流という表現があります。出力電流(連続電流)の場合は、その電流を連続的に供給可能です。スイッチング電流の場合はあくまでもスイッチできる電流なので、連続的に供給できる電流ではなく、連続的に供給できる電流はスイッチング電流から何割かを差し引いた値になります。

スイッチング周波数

スイッチングする周波数で、PWMの場合は設定した周波数で固定になります。PFMは条件により周波数が変動します。通常は周波数が高くなると、出力コンデンサとインダクタは小さな値のものを使うことができるようになり、サイズも小さくなりますが、効率は低下します。効率とサイズのトレードオフが必要です。
スイッチングレギュレータには、スイッチングする以上高調波、スイッチングノイズがつきものです。フィルタにより低減することは可能ですが、ラジオやオーディオ回路などノイズに敏感な回路ではS/Nが低下する可能性があります。

動作温度範囲

動作可能な温度範囲で、周囲温度Taまたは接合部温度Tjで規定されます。使用する機器の使用環境や動作保証を考慮して選択する必要があります。
Taでの保証の場合は、必ずしもそのTa全範囲で使えるわけではありません。発熱がありますので、Tj maxを超えないように周囲温度と主に負荷電流を検討する必要があります。熱の問題は、信頼性低下や事故につながるので重要です。

以下の表に要点をまとめました。

スイッチングレギュレータICの規格と意味 ポイント
入力電圧範囲
動作が可能な入力電圧範囲。最大電圧だけではなく、動作可能な最小電圧も規定されている場合がある。
  • 入力電源の条件をカバーし、余裕があること
  • 入力電源の変動(バッテリ入力など)や過渡電圧も考慮
  • 降圧比も検討
出力電圧範囲
出力として設定可能な電圧範囲。
  • 設定電圧に対して余裕をもつ(損失分を考慮)
  • 通常は内部リファレンス電圧より低い電圧は設定できない
出力電流
出力できる電流。出力段スイッチングトランジスタの能力と熱に依存する。
  • 余裕をもつ(ディレーティング)
  • 過渡電流も考慮
  • 連続的な出力電流とスイッチング電流は違う
スイッチング周波数
スイッチングする周波数。PWMの場合は設定した周波数で固定。PFMは条件により周波数が変動する。
  • 効率とサイズのトレードオフ
  • スイッチングノイズ、高調波が使用回路に与える影響を考慮
動作温度範囲
動作可能な温度範囲。周囲温度または接合部温度で規定。
  • アプリケーションの要求を考慮(民生、車載など)
  • 熱に関する考察が重要
  • Ta+自己発熱がTj maxを超えてはいけない。

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このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。

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