DC-DCコンバータ|評価編

負荷過渡応答の検討、測定方法

2015.03.30

この記事のポイント

・過渡負荷は回路によって様々であり、電源の応答もそれぞれなので、条件に合わせた調整が必要。

・主にICの過渡応答特性を調整する方法を取るが、負荷過渡を緩和することでも対応可能。

・ループ安定性が低いと発振など異常現象が発生するので、出力電圧波形の観察は不可欠。

「スイッチングレギュレータの評価」の3つ目として、「負荷過渡応答の検討、測定方法」について説明します。

負荷過渡応答とは

負荷過渡応答とは、急激な負荷変動に対する出力の応答特性、つまり、降下または上昇した出力電圧が設定値に戻るまでの時間や波形のことです。ロードレギュレーションとは異なり、文字通り過渡状態の特性になります。英語ではTransient response(トランジェント レスポンス)といいます。具体的な現象を下図を使って説明します。

スイッチングレギュレータの評価項目の1つである過渡応答特性の例

左のグラフの波形では、負荷電流(下の波形)が立ち上がり時間(tr)1μsecという高速でゼロから立ち上がっています。それに対して出力電圧(上の波形)は、一瞬電圧が降下してその後急速に上昇し元の定常時の電圧を少し超えまた降下して安定状態になっています。負荷電流が急激に降下する場合は、この逆の反応が起こっているのもわかると思います。

少し砕けた言い方で説明をすると、負荷立ち上がり時は急激に電流が必要になるので、出力は電流供給が間に合わず電圧が降下してしまいます。降下した電圧を設定値に戻すため出力は何サイクルか最大電流を供給しますが、少し供給過多になり若干電圧が上昇したため、今度は供給電流を下げて設定値に合わせ込むという動作を行っています。これは、ある意味正常な負荷過渡応答の話しとして理解してください。他の要因や異常がある場合は、この現象に加えて他の現象が含まれてきます。

理想的な負荷過渡応答とは、負荷電流の変動に対して少ないスイッチングサイクル(短い時間)で応答し、出力電圧の降下(上昇)を最低限にし、かつ最低限の時間で回復させ安定させる、つまりグラフの髭のような過渡電圧の発生が極力小さく短い時間になります。

中央のグラフは、負荷電流の立ち上がり/立ち下がり時間が10μsec、右は100μsecです。負荷電流変動が穏やかになれば、応答の追従が良くなり、出力電圧の変動が少なる例です。ただし、回路において負荷電流の過渡を調整するのは難しいのが実際です。

この様な電源の過渡応答特性ですが、オペアンプの周波数特性(位相余裕とクロスオーバ周波数)と基本的に同じように考えることができます。電源の制御ループの周波数特性が適正かつ安定であると、出力電圧の過渡変動を最小限に抑えることができます。

過渡応答特性の評価ポイント

電源の負荷過渡応答を評価する際のポイントをまとめました。

電源の負荷過渡応答を評価する際のポイント

  • 待機状態からウエイクアップなど、急激な負荷電流の変動に対する出力の安定性、応答速度をチェック。
  • 周波数応答特性の調整が必要な場合はITH端子にて調整。
  • 観察された波形から、位相余裕やクロスオーバ周波数を推測することが可能だが、周波数特性解析器(FRA)が便利。
  • 正常動作における応答なのか、インダクタの飽和、電流制限機能発動などの異常なのかも検討。
  • 必要な応答特性が得られない場合は、別の制御方式や周波数、外付け定数を検討すべき。

過渡応答特性の評価方法

スイッチングレギュレータの過渡応答特性評価のための回路と実際の評価ボード

具体的な評価の仕方を説明します。実験の場合は、評価する電源回路の出力に負荷電流を瞬時に切り替え可能な回路または装置を接続して、オシロスコープで出力電圧と出力電流を観察します。実機での確認ということであれば、例えばCPUなどがスタンバイ状態からフル稼働に遷移する状態を作り、同様に出力を観察します。

上記の評価ポイントにも記しましたが、観察波形から位相余裕やクロスオーバ周波数を推測できないことはありませんが、かなり面倒な作業になります。最近は周波数特性解析器(FRA)という測定器がかなり一般的になり、非常に簡単に電源回路の位相余裕や周波数特性を測ることができるので、FRAの利用は非常に有効です。

実際のところ、実験において瞬時に大電流をオンオフできる適当な負荷装置がない場合は、簡易的になりますが右のようなMOSFETをスイッチにした回路を使うことが可能です。もちろん、tr、tfは確認が必要です。

負荷過渡応答の実際と調整例

スイッチングレギュレータの過渡応答特性と調整するITHピン、および接続する抵抗とコンデンサ

スイッチングレギュレータICには応答特性を調整する端子を持つものがあり、ITHという呼称のものが多いようです。ICのデータシートに示されている応用回路では、その条件でほぼ妥当なITH端子に接続するコンデンサや抵抗の定数と構成が提示されています。基本的には、それをスタートラインとして、実際制作した回路が要求を満たすように調整することになります。まずは、コンデンサを固定して、抵抗値を変更していくのが良いかと思います。

以下は、今回、例として使用している「BD9A300MUV」において、ITH端子のコンデンサ容量は固定にして抵抗値を調整し、どのように負荷過渡応答特性が変化するかを、オシロスコープでの波形とFRAでの周波数特性解析グラフで示しています。

① R3=9.1kΩ、C6=2700pF (推奨定数でほぼ適正な応答と周波数特性)
スイッチングレギュレータの過渡応答特性の実際。R3=9.1kΩ、C6=2700pF時の過渡応答波形と周波数特性

② R3=3kΩ、C6=2700pF
16D_graf05

※R3の抵抗値を減らしたことで帯域が狭くなり、負荷応答が悪化している。
動作自体に問題はないが位相マージンを取り過ぎ。

③ R3=27kΩ、C6=2700pF
スイッチングレギュレータの過渡応答特性の実際。R3=27kΩ、C6=2700pF時の過渡応答波形と周波数特性

※R3抵抗を増やしたことで帯域が広がり、負荷応答が良くなっているが、
電圧変動時にリンギングが発生(波形拡大部)。
位相マージン少なく、バラつきによっては異常発振が発生する可能性がある。

④ R3=43kΩ、C6=2700pF
スイッチングレギュレータの過渡応答特性の実際。R3=43kΩ、C6=2700pF時の過渡応答波形と周波数特性

※さらにR3の抵抗値を増やすと、異常発振が発生する。

以上、ITH端子での応答特性の調整例です。基本的に出力電圧に発生する電圧過渡を皆無にすることはできないので、その応答が給電する回路動作対して問題ならないように調整することになります。

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このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。

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