DC-DCコンバータ|評価編
電源ICのデータシートの読み方:表紙、ブロック図、絶対最大定格と推奨動作条件
2014.10.30
この記事のポイント
・電源設計のためには電源ICのデータシートを読み解くことが必要。
・ICメーカーによって掲載項目の順番や内容の違いはある。
・表紙を一通り読むことで、多くの場合はそのICの概要と特長が理解できる。
・絶対最大定格と推奨動作条件の意図することを正確に理解する。
スイッチングレギュレータの特性と評価方法を理解する上で、電源ICのデータシートを読み解くことは非常に重要です。昨今の一般的な電源設計は、電源ICに対する依存度が高く、実質的に電源ICを中心に設計を行うことになります。つまり、電源ICのデータシートを読まないと設計はできないということになります。
この章では、データシートの代表的な項目を説明しますが、項目が多いのでいくつかに分けて説明しています。この項では、データシートの表紙、ICの機能を図示しているブロック図、そして絶対最大定格と推奨動作条件について説明します。
・データシートの表紙
データシートの表紙には、その電源ICの概要、特長、用途などの他に、最初に知っておくべきことなどが書かれています。もちろん、メーカーによって書いてある項目や順序などが多少違いますが、基本的にカバーされている項目はほぼ同じです。ただし、内容に関する詳しさや、最初に知っておいてもらいたい項目などにはメーカーの姿勢や特徴が見え隠れします。
したがって、データシートの表紙はけっこう大事なページです。以下のデータシートの表紙を例にとると、まずは「タイトル」からどんな電源ICなのかおおよそわかります。そして、「概要」によりもう少し具体的説明がなされ、さらに「特長」が箇条書きになっており、搭載されている機能や代表的なスペックが示されています。また、このデータシートでは「重要特性」という項目があり、電源ICとしてまずは確認しておきたいスペックが書き出されており、詳細な規格値表に進まなくても最低限必要な基本項目の値を知ることができるようになっています。パッケージ情報も、実装スペースなどをイメージするのに必要です。そして、用途の例と基本アプリケーション回路が示されており、設計する機器での使用が考慮されているかどうか、回路からは必要な外付け部品と部品点数がわかり、部品サイズもイメージすることができます。最後に、最下部にシリコンモノリシックICであることと、耐放射線設計ではないことが示されています。こういった情報をスタート時点で得ておくと、後々問題になることが少なくて済みます。
2.7V~5.5V入力 3A MOSFET内蔵 1ch 同期整流降圧 DC-DCコンバータ – BD9A300MUV
データシートの表紙は、概要を素早く把握することができますが、いくつか気を付けなければならないことがあります。
まず、記載されている特性値が最大値や最小値といった保証値であるのか、標準値(Typ)であるのかが明記されていない場合は、規格値表で確認する必要がります。表紙に書かれていた値で設計を始めたところ、その項目は標準値があるだけで保証値がないため設計に支障をきたしたというような話は時々耳にします。
最終的には、詳細は規格値表や機能説明の項で確認することを怠らないでください。
・ブロック図
データシートの中には、そのICの内部構成を図示したブロック図が掲載されていることが多いです。ブロック図は内部にどのような機能ブロックがあり、どのような流れで出力されるのかなどを概略的に知ることができます。また、ブロック図に並んで各機能ブロックの動作説明や、端子の機能説明が伴うのが一般的です。これらは動作を理解するのに重要な情報です。以下に例を示します。
・絶対最大定格と推奨動作条件
データシートには、絶対最大定格と推奨動作条件が示されている場合があります。以下に絶対最大定格の定義と推奨動作条件の意図を示します。
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◆絶対最大定格の定義(JIS C 7032より)
瞬間たりとも超過してはならない限界値で,また2項目以上規格値が定められているとき、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値
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◆推奨動作範囲
正常動作を保証するための規定であり、使用上この条件を確実に守る必要がある。規格値を保証する条件とは異なる。
絶対最大定格は、入力電圧を例にとって言えば、「入れてもかまわない電圧であるが、動作するかは別」ということになります。また、定格ですので、この値に許容差や実力値といった概念はありません。また、超えると壊れる可能性があるのですが、壊れる値を提示しているわけでもありません。要するに無条件で超えてはいけない値なのです。
推奨動作範囲は、「推奨」と言いながら「確実に守る必要がある」としてるので、理解に苦しむ方も多いと思います。諸説あるかと思いますが、英語圏のメーカーのデータシートでは、Recommended operating conditionとして同様の主旨の条件や値が示されてることから、これが「推奨動作範囲(条件)」と訳され使用されたと推測されます。確かにrecommendには「推奨する」という意味がありますが、「勧告する、言及する」といった強い意味もあります。この場合、recommendは後者の意味で、意味を汲むのであれば、「正常動作保証範囲」とか「動作保証条件」のように訳すべきだったのではないでしょうか。いずれにしても、意図された動作や性能を得るためには、その条件下で使うことになります。以下に例を示します。電源電圧の定格と比較してみてください。
【資料ダウンロード】スイッチングレギュレータの特性と評価方法
このハンドブックは、スイッチングレギュレータの基本を確認し、スイッチングレギュレータ用ICのデータシートを読み解くことも併せて、設計の最適化に必要なスイッチングレギュレータの特性の理解と評価の方法を解説しています。
DC-DCコンバータ
- 基礎編
- 設計編
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評価編
- スイッチングレギュレータの特性と評価方法の概要
- 電源ICのデータシートの読み方:表紙、ブロック図、絶対最大定格と推奨動作条件
- スイッチングレギュレータの評価:出力電圧
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損失の検討
- 定義と発熱
- 同期整流降圧コンバータの損失
- 同期整流降圧コンバータの導通損失
- 同期整流降圧コンバータのスイッチング損失
- 同期整流降圧コンバータの制御IC消費電力損失
- 同期整流降圧コンバータのデッドタイム損失
- 同期整流降圧コンバータのゲートチャージ損失
- インダクタのDCRによる導通損失
- 電源ICの電力損失計算例
- 損失の簡易的計算方法
- パッケージ選定時の熱計算例 1
- パッケージ選定時の熱計算例 2
- 損失要因
- スイッチング周波数を高めて小型化を検討するときの注意
- 高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その2
- 損失の検討 ーまとめー
- 応用編
- 製品紹介
- FAQ