DC-DCコンバータ|設計編

降圧型DC-DCコンバータの基本回路・動作原理・周辺部品の選定方法

2023.11.01

降圧型DC-DCコンバータの設計について理解を深めるため、本記事では、特に重要なインダクタと入出力コンデンサの選定に焦点を当てています。これらのコンポーネントの適切な選択は、コンバータの性能を大きく左右します。まず初めに、回路動作の基本原理と電流経路を理解することが求められます。また、インダクタと出力電流の関係についても詳細に解説します。

出力コンデンサの選定では、定格電圧、リップル定格電流、そして等価直列抵抗(ESR)が大きな影響を及ぼします。これらの要素は、回路の平滑化と安定化だけでなく、出力リップル電圧にも直結します。さらに、コンデンサの選定では、定格電圧、リップル定格電流、リップル発熱特性のほか、セラミックコンデンサを用いる場合は特に温度特性とDCバイアス特性も考慮に入れる必要があります。これらの要素を踏まえて、出力コンデンサは高い電圧と大きなリップル電流を許容するよう選定します。

設計の過程で、各部品が何を担うのか原理を理解することが重要です。それぞれの部品が全体の動作にどのように関与するかを把握し、各パラメータと性能との関係を理解することが、適切な選定を導きます。そして、最終的な選定は設計マニュアルに則り計算を行い、さらに実測により最適化を進めます。このように、理論と実測を組み合わせることで、最適な降圧型DC-DCコンバータの周辺回路設計を実現します。本記事では、これらのポイントについて、具体的な手順とともに原理について詳細に説明します。

降圧型DC-DCコンバータとは

降圧型DC-DCコンバータは、DC(直流)からDC(直流)に変換しますが、入力電圧よりも低い電圧を出力(降圧)する電子回路です。例えば、高い入力電圧からでも、降圧型DC-DCコンバータを使用することで低い電圧を得ることが可能です。

また、入力電圧よりも高い電圧を出力(昇圧)する昇圧型DC-DCコンバータも存在します。電圧が低いバッテリー電源からでも、昇圧型DC-DCコンバータを使用することで高い電圧を得ることが可能です。

昇圧型DC-DCコンバータについては「昇圧型DC-DCコンバータの動作原理」をご参照ください。

DC-DCコンバータは、入力電圧から高い電圧も低い電圧も取り出せる重要な電子回路です。

さまざまな電子機器が開発される中で、扱う直流電圧も多様化しており、必要な電源も変わっています。そのため、電圧を意図した強さに変更できるDC-DCコンバータは多くの機器で利用されています。

ICなどの半導体デバイスは、5Vや3.3Vなど低い電圧で動作するものが多いため、電源は電子回路よりも大きな電圧を出せるものを選び、電圧を下げる(降圧)形で利用されるのが一般的です。

24V→12Vに電圧を変換する? DC-DCコンバータの仕組み

24Vの大型トラックで、12Vの車載機を使用するためにはDC-DCコンバータが必要です。これは異なる電圧を変換する装置であり、パワーICという範疇に含まれます。パワーICは、製品が必要とする電力量に電源を調整し、供給します。

DC-DCコンバータについてより詳しく知りたい方は「24V→12Vに電圧を変換する? DC-DCコンバーターの仕組みを知ろう」をご確認ください。

上記ページでは電源ICの種類から使用例、それぞれの特性と適した使用状況について説明しています。

動作原理:降圧型コンバータの基本回路

降圧型DC-DCコンバータのインダクタとコンデンサの選定は、コンバータの性能や特性に大きな影響を与えます。これらの重要部品の選定方法を理解するためには、降圧型DC-DCコンバータの基本動作と電流経路の理解が必要となります。そこで、初めに、降圧型DC-DCコンバータの基本動作と電流経路の解説を行います。

降圧コンバータの基本回路とその動作、そして電流の流れを示す回路図を下記に示します。

降圧コンバータの基本回路とその動作、電流の流れを示す回路図

 Fig. 1は降圧コンバータのスイッチング素子Q1がONしている状態を示しています。この状態では、電流は入力VINからコイルLを通り、出力平滑コンデンサCOを充電し、出力電流IOが供給されます。同時に、コイルLに流れる電流は磁界を生み出し、電気エネルギーが磁気エネルギーに変換されて蓄積されます。

一方、Fig. 2は降圧コンバータのスイッチング素子Q1がOFFしている状態を示しています。Q1がOFFになるとダイオードD1がONになり、コイルLに蓄積されたエネルギーが出力側に放出されます。

ここで示した基本回路図は、ダイオード整流(非同期整流)型の降圧回路を表しています。同期整流型の場合では、D1をスイッチング素子(トランジスタ)に置き換え、Q1と反対にオンオフする動作となりますが、基本的な概念は同じです。

次の図では、上述のFig.1とFig.2を合わせたものと、主要ノードでの電圧または電流波形を示しています。

Fig.1とFig.2を合わせたものと、主要ノードでの電圧または電流波形

Q1のオンオフ動作とその際のドレイン電流ID、インダクタ電流IL、出力コンデンサ電流ICO、入力コンデンサ電流ICINの関係性を理解することで、各部品の機能と必要な特性を把握することが可能となります。この仕組みを理解しイメージすることで、各部品がどのような役割を果たし、どのような特性を持つべきかが明確になります。

降圧型DC-DCコンバータのインダクタの選定手順

降圧型DC-DCコンバータを設計するにあたって、インダクタの選択は重要です。その選択により性能や特性に大きな影響が及びます。
インダクタの選択手順やインダクタンスなどの算出方法は、基本的に利用する電源ICのデータシートをダウンロードして確認することができます。

最初に、インダクタを選定する際の手順を示します。

  • 1)必要なインダクタンスLを計算する
  • 2)インダクタに流れる最大電流を計算する(出力電流+1/2リップル電流)
  • 3)計算したL値(または近似)で、インダクタ飽和電流が計算した最大電流以上のインダクタを選ぶ
    ※短絡や過渡状態では計算の最大値以上の電流が流れる場合があるので、最大スイッチ電流を基に選択する考え方もある

基本的には計算に基づき、マージンを考慮して決めていきます。
マージンの取り方は、会社の設計ルールや、経験則に基づきます。

1)インダクタンスの計算

最初にインダクタンスを以下の式に則り計算します。

2)インダクタの最大電流の計算

次に以下の式に則り、インダクタの最大電流を計算します。

式と電流波形からわかるように、 ILPEAK はΔIL の1/2をIOUTに加えた値になります。

計算したインダクタンスとインダクタの最大電流から、近似のインダクタンスで、飽和電流が最大電流以上のインダクタを選択します。以下に、選定の例を示します。

インダクタの選定例

条件:VIN = 12V 、VOUT = 3.3V、IOUT = 2A、r = 0.3、f SW = 380kHz

スイッチングレギュレータ設計でのインダクタのインダクタンスの計算式

上記結果から、飽和電流が2.3A以上の10μHのインダクタが出発点となります。出発点というのは、この計算が絶対的なものではなく、短絡や過渡状態を考慮した場合などに変更が必要になる可能性があるからです。

インダクタンスを変化させたときのインダクタ電流

ここで、インダクタの動作の理解を深めるために、インダクタンスが変化した場合にインダクタ電流がどのように変化するかを説明します。以下の図は、同じ動作条件で、インダクタンスを、0.4μH、1μH、2.2μHにした場合のILPEAKを示しています。

スイッチングレギュレータ設計でのインダクタの最大電流の計算式と、平均出力電流との関係

式からも明らかなのですが、インダクタンス L が小さくすると、ILPEAK が増加し、直流重畳電流を多く取ることができるようになります。しかしながら、ILPEAK の増加により、より多くの直流重畳電流を許容する必要があります。インダクタンスを大きくすると、この逆になりますが、位相補償について検討する必要が出てきます。

降圧型DC-DCコンバータのコンデンサの選定

降圧型DC-DCコンバータに必須のコンデンサとして、出力コンデンサと入力コンデンサがあります。最初に出力コンデンサから説明します。インダクタの選定同様にコンデンサの選定も重要です。選定方法や推奨する種類などは、基本的にデータシートや関連のサポート資料に示されているので、合わせて確認してみてください。

入力コンデンサと出力コンデンサの役割

最初に、入力コンデンサと出力コンデンサの役割を理解するため、降圧型DC-DCコンバータの電流の流れを復習します。各コンデンサに流れる電流の性質の違いを理解することで、どのようなコンデンサを選ぶべきかが見えてきます。

降圧DC-DCコンバータ回路における入力コンデンサと出力コンデンサに流れる電流の経路と波形

「動作原理:降圧型コンバータの基本回路」でも同じ図を使いましたが、囲みの中の上のICOが出力コンデンサ、下のICINが入力コンデンサの電流波形です。入力コンデンサは、VINから充電され、トランジスタQ1がオンになるとスイッチ電流IDDとなる電流を放電します。比較的大きな電流が急激に繰り返し流れます。それに対し出力コンデンサは、出力電圧を中心に出力リップル電圧と連動した充放電を繰り返します。

出力コンデンサの選定

ここからは、出力コンデンサの話になります。出力コンデンサの選定における重要な要素は以下の3つになります。

  • 1)定格電圧
  • 2)リップル定格電流
  • 3)ESR(等価直列抵抗)

当然ではありますが、コンデンサに印加される電圧およびリップル電流は、コンデンサの最大定格以下にする必要があります。また、ESR はインダクタ電流に関連して出力リップル電圧を決定する重要な要素なので、十分な検討が必要です。

出力コンデンサのリップル電流は、上図のICO が示すように三角波で、その実効値は次式で表すことができます。

降圧DC-DCコンバータ回路における出力コンデンサのリップル電流の計算式

出力リップル電圧は、上図のインダクタ電流ILのリップル分ΔILと、出力コンデンサの静電容量、ESR、ESL により発生した電圧の合成波形で、次式で表されます。

降圧DC-DCコンバータ回路における出力リップル電圧の計算式

これを波形で示すとこの様なイメージになります。

降圧DC-DCコンバータ回路における出力リップル電圧の成分波形

スイッチングにより発生するインダクタ電流のリップルΔILは、ESRに単純に比例したリップル電圧を発生させ、ESLによっては方形波的な電圧が発生し、それに静電容量分が合成され、一番下の波形が最終的な出力リップル電圧波形となります。

出力リップル電圧を表す式として以下が用いられます。コンデンサによるリップル電圧とESRによるリップルは、位相がずれているため単純な足し算にはなりませんが、リップル電圧のワースト値の概算によく用いられる式です。

降圧DC-DCコンバータ回路における出力リップル電圧の概算用計算式

この式から出力リップル電圧を小さくするには、ESRを下げ、出力コンデンサの容量を増やし、スイッチング周波数を高くし、ILは必要最低限にする、ということがわかります。

近年、出力コンデンサに積層セラミックコンデンサを使うケースが増えていると思います。セラミックコンデンサはESRとESLが非常に小さいので、観察されるリップル電圧はほとんどコンデンサの静電容量に起因したものになります。

入力コンデンサの選定

入力コンデンサの選定における重要な要素は以下の3つになります。

  • 1)定格電圧
  • 2)リップル定格電流およびリップル発熱特性
  • 3)セラミックコンデンサを使う場合:温度特性とDCバイアス特性

また、選択の前提として以下に留意してください。

  • ・定格電圧は最大入力電圧より高い必要がある。
  • ・定格リップル電流は、ICの入力に発生する最大入力リップル電流よりも大きい必要がある。
  • ・降圧コンバータでは、瞬間的な入力電流の最大値は出力電流と同じになる。

入力コンデンサに流れるリップル電流の実効値 ICINは以下の式で表されます。

この結果をもとに、コンデンサのリップル電流の絶対最大定格とリップル発熱特性のグラフから、対応できるコンデンサを選択します。

入力リップル電圧 ΔVINは次式で算出できます。

この式から、入力リップル電圧は、入力コンデンサの容量が大きくなれば小さくなることがわかります。

セラミックコンデンサを入力コンデンサとして選択することが可能です。セラミックコンデンサを使う場合には、一般に温度変化とDCバイアスによる容量の変化に注意が必要です。

温度特性に関しては、CLASS2(高誘電率系)タイプの、EAI記号X5R(-55~+85℃、静電容量変化率 ±15%)やX7R (-55~+125℃、静電容量変化率 ±15%)であれば、十分に安定な温度特性を得ることが可能です。

DCバイアスに関しては、もちろん影響の少ないものを選択しますが、同じ容量、耐圧でもパッケージサイズによって変動特性が異なります。下のグラフはその一例ですが、サイズが大きなものが変動が少ないことを示しています。いずれにしても、コンデンサメーカーから十分な情報を入手してください。

基本的には、これらの情報から入力コンデンサを選択することになりますが、試作評価時には、リップルも加味した入力電圧が耐圧を超えていないか、リップル電流によって許容できないような発熱をしていないかなど、チェックする必要があります。

降圧型DC-DCコンバータと昇圧型DC-DCコンバータの出力リップルの違い

降圧型DC-DCコンバータでは、出力リップル電圧はインダクタリップル電流の平滑で発生し、インダクタリップル電流は負荷電流に依存しないので出力リップル電圧は一定値となります。一方で、昇圧型DC-DCコンバータでは出力コンデンサでパルス状電流を平滑しているために平滑時の充放電電荷量が大きく、大容量の出力コンデンサが必要となります。

降圧型と昇圧型でのDC-DCコンバータの出力リップルの違については「降圧型DC-DCコンバータと昇圧型DC-DCコンバータの出力リップルの違い」でご確認いただけます。

DC-DCコンバータのインダクタとコンデンサの選定 まとめ

降圧型DC-DCコンバータの回路設計は、インダクタとコンデンサの適切な選定が必要になります。インダクタンス、最大電流、定格電圧、リップル定格電流、等価直列抵抗(ESR)などの計算と選択は、コンバータの性能と信頼性に大きな影響を及ぼします。

回路の周辺部品の選定に関しては、ほとんどの場合利用する電源ICのデータシートか、アプリケーションノートや設計マニュアルなどといった補足資料で説明されています。まずは、それらの説明や式をご確認ください。

ただ、残念ながらマニュアル通りに回路設計したからといって、最適な動作をしているとは限りません。その際には、評価後に定数を変更することになりますが、闇雲に変更すると収拾がつかなくなったり、問題はなくなったけどなぜ良くなったかがわからないなど、量産に移行していいのか確信が持てない結果になることがあります。

このようなことにならないためには、降圧型DC-DCコンバータの基本原理とそれに伴う電流の流れを理解することが重要です。また、インダクタンスや静電容量が変化すると、何がどの様に変化するのか知っておく必要があります。

これらの知識は、最終的な製品の性能を最大化し、問題の早期発見と解決を可能にします。

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