重要チェックポイント:トランスの飽和
2015.09.16
この記事のポイント
・トランスは飽和させてはならない。
・一次側の電流波形をオシロスコープと電流プローブなどを利用して観察する。
・トランスが飽和している場合は、過大な電流が流れMOSFET等の破壊を引き起こすことがある。
下記の箇条書きした、仕様以外に確認しておくべき「重要チェックポイント」について、「MOSFETのドレイン電圧と電流、および出力整流ダイオードの耐圧」を前項で説明しました。今回は「トランスの飽和」について説明します。
- MOSFETのドレイン電圧と電流、および出力整流ダイオードの耐圧
- トランスの飽和
- Vcc電圧
- 出力過渡応答と出力電圧立上り波形
- 温度測定と損失の測定
- 電解コンデンサ
トランスの飽和
ここで説明するトランスT1の飽和は、フライバック動作を司る一次巻線と二次巻線に関するものです。T1には、電源ICの電源VCCを生成する第三巻線(端子4、5)が付属していますが、これに関しては、別途VCCの生成が設計通りに行われていることをチェックします。
最初に、トランスの飽和についておさらいしておきます。トランスに使用される磁性材料(鉄、フェライトなど)には、飽和磁束密度という特性があります。トランスの一次巻線に流れる電流を増やしていくと磁界強度が大きくなりますが、磁束密度は無限に大きくなるわけではなく、電流の増加に対して磁束密度がほとんど増加しなくなる限界があります。この状態を飽和磁化といい、このときの磁束密度が飽和磁束密度です。
この限界を超えて飽和磁化状態になることを、トランスの飽和といいます。これは、インダクタでも同じです。トランスの飽和は、磁束密度が増えないだけではなく、厄介なことにインダクタンスが急激に減少します。
インダクタンスが減少すると、直流に対する抵抗分はトランスの巻線の抵抗分だけになってしまいます。つまり、トランスが飽和すると大電流が流れてしまいます。これが、電源設計においてトランスの飽和が問題になる理由です。これは、インダクタについても同様です。
右の波形データは、トランスの一次側をスイッチする内蔵MOSFETのIdsで、緑のラインが正常、つまりトランスは飽和していない状態です。それに対し赤の破線は、トランスが飽和した場合の典型的な波形を示しています。
上述のように、トランスが飽和状態になると大電流が流れてしまうので、Idsに電流スパイクとも言える急激な電流増加が生じます。この電流が過大であれば、MOSFETが破壊に至ることがあります。
トランス設計の際は、一次側の最大電流Ippkが計算され適切なトランス設計が行われているはずですが、波形データのようなIds電流波形が観察された場合には、トランス設計を見直す必要があります。トランス設計に関しては、こちらを参照してください。
以下に、トランスの飽和のチェックポイントと条件設定をまとめました。
<トランスの飽和のチェックポイント>
- ドレイン電流Idsの電流波形をオシロスコープと電流プローブなどを利用して観察する
- トランスが飽和している場合は、Idsの上昇の傾きが変化して、急激にIdsが上昇する
- この電流上昇は、MOSFET等の破壊を引き起こすことがある
- トランスの飽和が確認された場合、Ippkなど関連する実際の状態を確認する
- 場合によってはトランスの設計を見直す必要がある
<チェック時の条件設定>
- 入力電圧:最小値、最大値(電源起動時、定常時)
- 負荷電流:最大値
- 環境温度:温度条件の上限および下限温度
【資料ダウンロード】絶縁型フライバックコンバータ性能評価とチェックポイント
AC-DC コンバータ
- AC-DC変換の基本-AC(交流)・DC(直流)とは、AC-DC変換が必要な理由
- 平滑後の DC-DC 変換(安定化)方式
- AC-DC 変換回路設計の設計手順(概要)
- AC-DC 変換回路設計の課題と検討事項
- AC-DCの基礎 ーまとめー
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
- 絶縁型フライバックコンバータの性能評価とチェックポイントとは
- 絶縁型電源 (AC-DC,DC-DC)
- 【絶縁型フライバックコンバータの性能評価とチェックポイント】絶縁型フライバックコンバータの性能評価
- 【PMW方式フライバックコンバータ設計手法】 AC-DCコンバータの設計手順&例題の要求仕様と例題に使うICの選択
- 【AC-DC変換の基礎】平滑後のDC-DC変換安定化方式
- AC-DCコンバータのよくあるご質問