AC-DC コンバータ|設計編
主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
2018.01.16
この記事のポイント
・ICの電源VCCは、二次側出力を利用したVCC巻線で生成する。
・起動時には二次側出力は発生していないので、別途、起動用電圧供給用の回路を設ける。
・VCC OVPの誤動作を避けるため、VCC巻線のサージ電圧を制限する抵抗が必要。
今回は、この設計に使用する電源ICのVCCピンに関連する部品定数を決めて行きます。VCCピンは電源IC BD7682FJの電源ピンです。
BD7682FJの内部制御回路はVCCピンに印加される電圧で動作します。当然の認識かと思いますが、300V~900Vというこの電源回路の入力電圧では直接動作できないばかりか、おそらく一瞬で破壊に至ります。従って、このICの電源用に、低いDC電圧を生成する必要があります。VCCの動作電圧範囲は15.0V~27.5Vで、すでに「トランスT1の設計 その2」で説明したように、トランスのVCC巻線Nd(補助巻線や第三巻線とも呼ぶ)の算出に際して、VCC=24Vを前提にNdを算出しました。
右の回路図は該当部分の抜粋です。ここでは、「VCC用電圧生成(橙枠)」および「VCC巻線サージ電圧制限(橙枠)と、「VCC起動(青枠)」に関連する回路部分の部品定数を決定します。
VCC電圧生成用整流ダイオードD18、および平滑用コンデンサC5
回路図の橙色枠内のダイオードD18とコンデンサC5により、VCC巻線Nd(回路図の巻線5-6番)に発生するスイッチ電圧をDC電圧に整流、そして平滑します。この回路は単純にダイオード整流タイプのDC-DCコンバータと同じです。(枠内に含まれるインダクタL4は、実際には使用しませんので無視してください。また、抵抗Rvcc1はサージ制限抵抗ですので後ほど説明します)
D18の耐圧は、D18に印加される逆電圧Vdrを算出して決めます。
VCC(max)は31.5Vとします。VCCピンはVCC OVP(過電圧保護)機能を持っており、その最大値が31.5Vであることから、VCC電圧がこの電圧まで上昇してもD18の耐圧を超えないようにします。Vfは1Vとします。VIN(max)は900Vです。Ndは「トランスT1の設計 その2」で求めた結果から8ターン、同じくNpは64ターンです。
これらを代入すると、
マージンを考慮した値、145V/0.7≒200Vから、200Vの耐圧を持つダイオードを選択します。D18は、その目的から高速スイッチングに適したタイプが必要です。今回は、ローム製のファストリカバリダイオードRF05VAM2Sを使います。
コンデンサC5は22μFのアルミ電解コンデンサが適当で、耐圧はVcc(max)から35Vとします。
VCC巻線用サージ電圧制限抵抗Rvcc1
トランスの漏れインダクタンス(Lleak)により、MOSFETがオンからオフになった瞬間に大きなサージ電圧(スパイクノイズ)が発生します。このサージ電圧がVCC巻線に誘起され、VCC電圧が上昇してVCCピンのVCC OVPが作動する可能性があります。このサージ電圧を低減するために、5~22Ω程度の制限抵抗Rvcc1を挿入します。実際には、VCC電圧の上昇を製品に組み込んだ状態で確認して抵抗値を調整してください。
VCC起動用抵抗R11、R12、R13、R14、コンデンサC6、ダイオードD19
VCC巻線によるVCC電圧は、二次側の出力が基になっています(Ns:Nd)。従って、原理的に回路がスイッチング動作を開始しないとVCC電圧は発生しないため、起動時には別途ICにVCC電圧を与える必要があります。起動用抵抗(Rstart)R11、R12、R13、R14は起動用コンデンサ(Cstart)C6をともなって、ICを起動させます。また、このCRを利用して起動時間の調整も兼ねます。他に、待機時消費電力にも影響を与えます。
起動用抵抗Rstartは、以下の式が示す最小および最大の条件から求めます。VIN_startはVIN_minからマージンを取って180Vとします。VCC UVLO(max)はデータシートから20V、待機時回路電流IOFF、つまり起動前のVCC電流はデータシートでは最大30μAですが、マージンを取って40μAとします。VCC OVP(max)はデータシートから31.5V、保護回路作動時のVCC電流Ion1は、最小値の300μAとします。
Rstart<VIN_start-VCC UVLO(max)/IOFF=(180V-20V)/40μA=4000kΩ
Rstart>VIN_max-VCC OVP(max)/Ion1=(900V-31.5V)/300μA=2895kΩ
2895kΩ<Rstart<4000kΩ
この結果から、Rstartは2940kΩ(R11、R12各1MΩおよびR13、R14各470kΩ)とします。
起動用コンデンサ(Cstart)C6は、VCCを安定させる役目もあるので2.2μF以上を推奨します。今回は前述の起動時間の関係も含めて4.7μFとします。グラフは、Cstartに対するVINと起動時間の関係を示しています。
起動抵抗Rstartとの関係については、Rstartの値を小さく設定すると起動時間が短くなり、待機時電力は大きくなります。逆にRstartの値を大きくすると起動時間が長くなり、待機時電力は小さくなります。
VINが投入されるとC6が充電され、VCCピンの電圧が起動電圧に達するとICは動作を開始します。その後に出力電圧が一定電圧以上になるとVCC生成回路が動作しVCC電圧を供給します。ダイオードD19は、起動時の平滑用コンデンサC5への充電を回避します。D19は、逆電流IRが低いスイッチングダイオード1SS355VM(ローム製)を使います。こちらの回路図も参考にしてください(この回路では、Rvcc1は22Ωとなっています)。
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