基板レイアウト例
2015.03.16
この記事のポイント
・スイッチング電源設計では基板レイアウトが電源性能やEMCに大きく影響する。
・基本的に大電流が流れるラインは太く短く、ループは小さくする。
・制御信号ラインは、ノイズの多いラインと別に引いて、トランスの直下にも引かない。
回路図面が完成したら、実装基板のレイアウトに入ります。この項では、基板レイアウトの例を示しながら、レイアウトの原則やポイントを説明します。
基板レイアウトのポイント
スイッチング電源はスイッチのオン/オフにより電圧を制御しますが純然たるアナログ回路です。極端な言い方をすれば、自身で高周波ノイズを発しながらも、帰還ループを持つためノイズに敏感です。つまり、スイッチング電源回路の経路には、大電流がオン/オフしノイズを発する経路と、ノイズに敏感な制御信号経路があることを考慮する必要があります。基板配線レイアウトでは、大電流経路はなるべくノイズを出さないように、制御信号経路はなるべくノイズの影響を受けないようにします。もちろん、ノイズは放射ノイズとしてEMCにも影響しますので、極力ノイズを出さないレイアウトにするのが重要です。
良いレイアウトをするには、かなりの経験を要します。レイアウトが適切でないために、電源が正常に動作しないばかりか、システム全体のS/Nを悪化させたり、最悪は構成部品や電源ICを破壊してしまうこともあります。経験がものを言う作業ですが、多くの場合、電源ICのデータシートや追補資料で、基本的な基板配線レイアウトの例が提供されています。場合によっては、ガーバーファイルなど、そのまま利用できるデータが提供されていることも少なくありません。
それらは経験豊富なエンジニアが作成したベストなものですので、大いに利用すべきです。
以下に、基板レイアウトの一例と注意点を示します。
上図は、一部簡略化した回路図面に大電流経路と制御信号経路を示してあります。
- 赤色ラインは大電流経路で、リンギングや損失の発生要因となるため、できるだけ太く短くする
- また、赤色ラインのループはできるだけ小さくなるようにする
- 二次側の橙色ラインも赤色ライン同様に、太く短く、小さいループにする
- 茶色ラインはVCC端子に流れる電流の経路で、スイッチング時に電流が流れるため、この経路は別個の配線にする
- トランスの直下は磁束の影響を受けるため、ICの制御信号ラインを引かない
- 赤色ライン、茶色ライン、青色ライン、緑色ラインのGNDは一点接地が望ましい
- 緑色ラインは二次側のサージを一次側に逃がす経路となり、瞬間的に大きな電流が流れるため、赤色ラインや青色ラインと別に配線する
- 青色ラインはIC制御信号用のGNDラインなので大電流は流れないが、ノイズの影響を受けやすくなるため、赤色ライン、緑色ライン、茶色ラインと別に配線する
下図は、これらの注意事項を考慮した基板レイアウトの例になります。上図の赤色、橙色、茶色ループを示してあります。
下の写真は実装後のイメージです。上記の回路とは若干異なるのですが、同じ電源ICを使い、部品構成もほぼ同じです。図面に対して現物のイメージができると思います。
実際の設計においては、利用できる基板の縦横の寸法など物理的、機械的な理由により理想とするレイアウトができないことがあります。しかしながら、前述のとおり、電源としての性能だけではなく、システム全体に悪影響を及ぼす可能性があります。また、試作基板とはいえ、大幅な修正はやり直しと同じなので、可能な限り最初から最善を尽くすことが、後々の時間と費用を抑えることにつながります。
電源設計は、大方のシステム仕様が決まって、プロジェクト終盤になって始めることも少なくないのですが、うまく調整をして手離れの良いしっかりとした設計をしたいものです。
【資料ダウンロード】PWM方式フライバックコンバータ設計手法
AC-DC コンバータ
- AC-DC変換の基本-AC(交流)・DC(直流)とは、AC-DC変換が必要な理由
- 平滑後の DC-DC 変換(安定化)方式
- AC-DC 変換回路設計の設計手順(概要)
- AC-DC 変換回路設計の課題と検討事項
- AC-DCの基礎 ーまとめー
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータの設計手法概要
- 絶縁型フライバックコンバータの基本とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:スイッチングAC-DC変換とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの特徴とは
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータの基本:不連続モードと連続モードとは
- 設計手順
- 電源仕様の決定
- 設計に使うICの選択
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(数値算出)
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その1
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-出力整流器とCout
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICのVCC関連
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-ICの設定、その他
- 絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策
- 基板レイアウト例
- AC-DC PWM方式フライバックコンバータ設計手法 ーまとめー
- AC-DC 非絶縁型バックコンバータの設計事例概要
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計
- 設計手順
- 設計に使うIC
- 電源仕様と置き換え回路
- 同期整流回路部:同期整流用MOSFETの選定
- 同期整流回路部:電源ICの選択
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-MAX_TON端子のC1とR3、およびVCC端子
- 同期整流回路部:周辺回路部品の選定-DRAIN端子のD1、R1、R2
- シャントレギュレータ回路部:周辺回路部品の選定
- トラブルシューティング①:二次側MOSFETがすぐにOFFしてしまう場合
- トラブルシューティング ②:軽負荷時に二次側MOSFETが共振動作によりONしてしまう場合
- トラブルシューティング ③:サージの影響を受けVDS2が二次側MOSFETのVDS耐圧以上になる場合
- ダイオード整流と同期整流の効率比較
- 実装基板レイアウトに関する注意点
- AC-DCコンバータの効率を向上する二次側同期整流回路の設計 ーまとめー
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例
- 設計に使う電源IC:SiC-MOSFET用に最適化
- 設計事例回路
- トランスT1の設計 その1
- トランスT1の設計 その2
- 主要部品選定:MOSFET Q1
- 主要部品選定:入力コンデンサおよびバランス抵抗
- 主要部品選定:過負荷保護ポイントの切り替え設定抵抗
- 主要部品選定:電源ICのVCC関連部品
- 主要部品選定:電源ICのBO(ブラウンアウト)ピン関連部品
- 主要部品選定:スナバ回路関連部品
- 主要部品選定:MOSFETゲートドライブ調整回路
- 主要部品選定:出力整流ダイオード
- 主要部品選定:出力コンデンサ、出力設定および制御部品
- 主要部品選定:電流検出抵抗および各検出用端子関連部品
- 主要部品選定:EMIおよび出力ノイズ対策部品
- 基板レイアウト例
- 事例回路と部品リスト
- 評価結果:効率とスイッチング波形
- SiC-MOSFETを使った絶縁型擬似共振コンバータの設計事例 ーまとめー
- 絶縁型フライバックコンバータの性能評価とチェックポイントとは
- 絶縁型電源 (AC-DC,DC-DC)
- 【絶縁型フライバックコンバータの性能評価とチェックポイント】絶縁型フライバックコンバータの性能評価
- 【PMW方式フライバックコンバータ設計手法】 AC-DCコンバータの設計手順&例題の要求仕様と例題に使うICの選択
- 【AC-DC変換の基礎】平滑後のDC-DC変換安定化方式
- AC-DCコンバータのよくあるご質問