絶縁型フライバックコンバータ回路設計:EMI対策および出力ノイズ対策

2015.02.27

この記事のポイント

・スイッチング電源は潜在的にEMI源であり、伝導ノイズおよび放射ノイズの両方について対策をとる必要がある。

・EMCの観点からは、主にエミッション(ノイズ放出)の対策となる。

・対策の基本はノイズフィルタの設置となるが、基板レイアウトや基本部品にも関係する。

この項では、回路上でのノイズ対策について説明します。スイッチング電源の設計においては、ノイズの評価と対策は必須です。

念のため、最初にノイズに関連する言葉などを少しおさらいします。

・EMI(Electro Magnetic Interference):電磁妨害(電磁干渉、電磁障害)

 電波や高周波の電磁波がノイズとして電子機器などに影響を与えること、または影響を与える電磁波。
 -伝導ノイズ:ケーブルや基板配線を経由して伝わるノイズ
  > ディファレンシャル(ノーマルモード)モードノイズ:電源ライン間で発生し電流と同じ方向に流れるノイズ
  > コモンモードノイズ:金属ケースなどを経由し浮遊容量などを通り信号源に戻ってくるノイズ
 -放射ノイズ:空中に放出されるノイズ

・EMS(Electro Magnetic Susceptibility):電磁感受性

 電磁波による妨害、干渉(EMI:伝導ノイズおよび放射ノイズ)を受けても障害を起こさない能力、耐性。

・EMC(Electro Magnetic Compatibility):電磁両立性(電磁適合性)

 EMI+EMS。エミッション(Emission:放出)対策とイミュニティ(Immunity:耐性)の両立、その対策。

EMIとして、経路の観点から伝導ノイズと放射ノイズがあり、伝導ノイズには伝わり方からディファレンシャルノイズとコモンモードノイズの分類があります。おおざっぱではありますが、最低限知っておくべきところかと思います。

EMI対策

このスイッチング電源回路のEMIが、他の回路に影響を及ぼすような場合はEMI対策を施すことになります。大きな電流がスイッチするノードやラインには、基本的にインピーダンスの整合やバイパス/フィルタの役目をするコンデンサや抵抗/コンデンサ回路を追加します。

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1) C12、R17:出力整流ダイオードにRCスナバを追加
入力スナバと同じように、オン/オフ時に発生するスパイクを低減します。入力スナバについてはこちらを参照願います。C12は、500V 1000pF、R17は10Ω 1W程度を選択します。  

2) C10:一次側と二次側間にY-コンデンサ追加
Y-コンデンサ(Y-キャパシタ)と呼ばれるコンデンサを、一次側と二次側のグランド間に追加します。これは、絶縁トランスの巻線間容量を介して一次側のスイッチングノイズが二次側に発生させるコモンモードノイズを低減するための代表的な手法の一つです。Y-コンデンサの電圧定格は、トランスの絶縁耐圧と同等である必要があります。容量は2200pF程度を選択します。

3) C11:MOSFET Q1のドレイン-ソース間にコンデンサ追加
高速スイッチングに起因するオフ時のサージを低減するために、MOSFETのドレイン-ソース間にコンデンサ追加する方法があります。これもスナバの一つです。ただし、損失が増加するので温度上昇に注意する必要があります。ここでは、1kV耐圧の10~100pFのコンデンサを使用します。

上記の部品定数はスタートライン的な参考値です。ノイズの影響を確認して、調整する必要があります。

出力ノイズ対策

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言うまでもなく、スイッチング電源の出力電圧にはスイッチング周波数に依存したリップルがあり、その他にも高調波やインダクタンスや容量に起因したノイズが存在します。これらのノイズが問題になる場合には、出力にLCフィルタを追加するのが効果的です。

インダクタLは10μH、C10は10μF~100μF程度をスタートラインとして、ノイズを観察して調整を行います。

以上、これらが主要なノイズ対策となります。いずれにしても、ノイズを測定したり、機器に対するノイズの影響を確認する必要があります。きちんとしたノイズの測定は測定環境や装置が必要になります。こういった定量的な測定ができない場合は、機器としてのS/Nなど、性能面から影響の有無程度は把握できる場合があります。

ここで提示した対策は、電源回路構成上のノイズ対策です。ノイズの発生は基板レイアウト、部品配置、部品性能などにも関係します。場合によっては、LCフィルタは簡単なL型からπ型やT型に拡張したり、回路基板にシールドを設けたりすることが必要になるかもしれません。

また、機器の仕様によっては、例えば国際無線障害特別委員会(CISPR)規格などのノイズ規格に適合しなければなりません。規格準拠が必要な場合には、設計当初からそれを念頭に置くことが非常に重要になります。

 

この項をもちまして、「絶縁型フライバックコンバータ回路設計」と題した回路設計の説明は最後になります。続いては「基板レイアウト例」に入ります。

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