絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-CINとスナバ
2014.12.15
この記事のポイント
・入力コンデンサCINは、入力電源の瞬断やスイッチングで引き込まれる入力電流を補うために重要。
・スナバ回路は、入力に発生するサージからスイッチングトランジスタを保護するために基本的に必要。
この項では、入力に配置する入力コンデンサC1とスナバ回路について説明します。
ここでの入力とは、AC電圧をダイオードブリッジが整流したDC高電圧のことです。下の回路図のように、入力コンデンサC1とスナバ回路R4 、C3 、D3 はトランスT1の一次電圧ライン、つまりダイオードブリッジの整流電圧に接続されています。
「絶縁型フライバックコンバータ回路設計」の項にある全体回路図をクリックすると別ウィンドウで開きますので、回路全体についてはそちらを参照願います。
入力コンデンサ C1
入力コンデンサCINとして、C1 450V/100μFが接続されています。このコンデンサの役目は主に2つありますが、基本的には入力電圧が瞬間的に低下したり遮断するのを補うために接続されます。
役割の1つ目は、AC入力が瞬断した場合です。まったく入力電圧がなくなりますが、C1に充電された電荷により短時間ですが電力供給が可能です。2つ目は、スイッチングトランジスタであるMOSFETは、非常に高速に大きな電流をオンオフします。これに入力の応答が追従できない場合や入力インピーダンスが高い場合は入力電圧が短時間降下してしまうので、C1により補います。いずれも入力電圧が必要な電圧以下になると、当然のことながら出力電圧には異常が発生し、給電される回路の動作に問題が発生します。完全ではありませんが、C1はこのような問題を軽減します。
入力コンデンサ C1の静電容量は、以下の表に示す値を目安に決めます。Poutは、この設計の仕様から求め、表に基づき計算すると:
Pout=12V×3A=36W
C1=2×36W=72μF ⇒ 100μFとする。
入力電圧(VAC) | CIN(μF) |
---|---|
85-264 | 2×Pout(W) |
180-264 | 1×Pout(W) |
この表の係数は、全波整流時の目安です。条件の違いや、瞬断時の入力保持時間の仕様に合わせて、容量を調整する必要があります。
C1の耐圧は、入力AC電圧のピーク値を目安にします。264VACの場合:
264V×√2=264×1.41=372V ⇒ 400V以上とする。
よってC1は、100μF、450Vが選択されています。コンデンサの種類としては、電解コンデンサが使われることがほとんどです。
スナバ回路 R4 、C3 、D3
回路図の入力ラインとMOSFETにつながる、抵抗R4、コンデンサC3 、ダイオードD3で構成されているのがスナバ回路です。
フライバック方式では、トランスのコアにギャップを設けるため漏れ磁束が増加し、リークインダクタンスが生じます。このリークインダクタンスにもスイッチング電流が流れエネルギーが蓄積されますが、他の巻線と結合していないため電力移行がされず、サージ電圧が発生しMOSFETのドレイン-ソース間に加わります。発生するサージ電圧がMOSFETの耐圧を超えると、MOSFETが破壊する可能性があります。これを防止するためにスナバ回路を挿入してサージ電圧を抑制します。スナバ回路の詳細については、「絶縁型フライバックコンバータの基本:フライバックコンバータの動作とスナバ」の項を参照願います。
スナバ回路は、1)クランプ電圧およびクランプリップル電圧、2)R4 、3)C3、4)D3の順で決めていきます。
1)クランプ電圧(Vclamp)、クランプリップル電圧(Vripple)の決定
クランプ電圧は文字通り、発生するサージをクランプする電圧です。MOSFETの耐圧からマージンを考慮して決定します。MOSFETは800V耐圧品を選定しました。マージンは20%とします。クランプリップル電圧(Vripple)は経験則から50V程度を見込みます。
Vclamp=800V×0.8=640V
Vripple=50V
2)R4の決定
R4 は以下の式に基づき決定します。
リークインダクタンスLleakを一次インダクタンスLpの10%とすると: Lleak=Lp×10%=249μH×10%=25μH
トランス設計などですでに求めた各値を式に当てはめると:
R4 はこの値より小さくなければならないので、R4=75kΩ とします。
R4の値は75kΩに決まりましたので、R4の損失P_R4を決定します。P_R4は以下の式から計算できます。
3)C3の決定
C3 は以下の式から求めます。
C3にかかる電圧から耐圧は: 640V-264×1.41=268V ⇒ マージンをとって400V以上とする
4) D3の決定
ダイオードは、高速性が要求されるのでファストリカバリーダイオードを使用します。耐圧はMOSFETのVds(max)以上の電圧を選択します。回路図では800V品が選択されています。
これで、スナバ回路の抵抗R4、コンデンサC3 、ダイオードD3が決まりました。最後に、サージ電圧はトランスのリーケージインダクタンスの他に、基板配線の寄生インダクタンスの影響も受けるので、基板に組み込んだ状態でVds電圧の確認を行い、必要に応じてスナバ回路の調整をする必要があります。
スナバ回路は、フライバックコンバータでは基本的に必要になることが多い回路ですので、実機評価などを重ねて動作や効果を理解してください。
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