絶縁型フライバックコンバータ回路設計:主要部品の選定-MOSFET関連 その2

2014.11.28

この記事のポイント

・スイッチングトランジスタ(MOSFET)の動作を制御するための回路は電源ICの仕様に基づく。

・電源ICのデータシートには、回路、定数の決め方などが記されているので、それに従う。

主要部品の選定-MOSFET関連 その1」で、MOSFET Q1の選定が終わったので、MOSFET周辺の回路を構成していきます。

最初に回路動作のおさらいです。ICのOUT(PWM出力)からの信号は、MOSFET Q1が適正に動作するように、D4、R5、R6で調整され、MOSFETのゲートを駆動します。MOSFET Q1は、トランス T1の一次側に入力された整流された高電圧をオン/オフし、そのエネルギーを二次側に伝達します。Q1がオンしたときにIdsが流れますが、無制限に流すわけにはいかないので、R8を使って電流を検出し、制限をおこないます。

本稿では、MOSFETのゲートドライブを調整する回路、ダイオード D4、抵抗R5、R6を最初に決めます。次に、電流制限とスロープ補償に必要な電流検出抵抗R8を決めます。

MOSFET ゲート回路 R5、R6、D4

9A_mosfet

MOSFETをドライブするために、電源ICのPWM出力から信号が出力されますが、そのままMOSFETのゲートに接続するだけでは、最適な動作は得られず、回路や求める特性に合わせた調整が必要です。具体的には、MOSFETのスイッチング損失とノイズを最適化します。

MOSFETのオンとオフのスピードをそれぞれ調整して、スイッチング損失とスイッチングノイズの妥協点で動作させます。妥協点というのは、スイッチング損失とスイッチングノイズは相反する関係にあるからです。スイッチングスピードを上げるとスイッチング損失は減少します。ところが、スイッチングスピードが速いと急峻な電流変化が生じるので、スイッチングノイズが大きくなります。

ゲート回路の定数は、決まった式で計算することは困難です。したがって、電源ICのデータシートの回路図に示されている値から始めて、最終的には実機で動作させMOSFETの温度上昇が許容範囲であるか、つまりスイッチング損失をチェックします。さらに、スイッチングノイズの測定も行い、適正範囲にあるか確認することになります。

  • MOSFETオン時のスピードはR5とR6で調整
  • MOSFETオフ時は電荷引き抜き用ダイオードD4を通してR5で調整

選択した動作である電流モードの不連続モードでは、スイッチング損失は基本的にMOSFETオン時には発生せず、オフ時の損失が支配的になります。MOSFETオフ時のスイッチング損失を軽減するためには、R5を小さくしてオフのスピードを上げることになりますが、急峻な電流変化が生じスイッチングノイズが大きくなります。今回の例題の回路では、以下が提示されています。

  • R5=22Ω 0.25W、R6=150Ω、D4:RB160L-60 (ショットキダイオード 60V/1A)

ダイオード D4は、MOSFETオフ時にゲート電荷を高速に抜くために使います。損失が小さく高速であることからショットキバリアダイオードが選択されています。

注意事項として、R5にはパルス性の電流が流れるので、使用する抵抗の耐パルス性を確認してください。

電流検出抵抗 R8

MOSFETのソースに接続される抵抗で、ソース側の端は電源ICのCSピンに接続され、もう一端はGNDに接続されます。MOSFETオン時にR8に流れる電流によって発生する電圧降下を利用して、CSピンを機能させます。機能としては、一次側に流れる電流を制限、出力の過負荷に対する保護、電流モード制御のスロープ補償の3つを担います。CSピンの詳細は電源IC BM1P061FJのデータシートを参照願います。

複数の機能を担う関係で、トランスの一次側インダクタンスや入力電圧により制限を受ける場合があり、R8は以下の式により計算されます。IppkやDutyは、「トランス設計(数値算出)」で求めたものです。VcsはBM1P061FJのCSピン電圧の規格から0.4Vとなります。

expression01

計算結果から、R8は0.2Ωとします。

また、検出抵抗R8の損失P_R8は以下の式で求めます。

expression02

計算結果と耐パルス性を考慮して、1W以上を許容できる抵抗とします。耐パルス特性については、同じ電力定格でも抵抗の構造等によって変わる場合があるので、使用する抵抗メーカーに確認する必要があります。

これで、MOSFET周りの部品定数が決まりました。経験則や実機での確認など、式計算だけで済まずにちょっとすっきりしないところもあるかもしれませんが、電源設計にはこういった部分が多々あることを覚えておいてください。

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