絶縁型フライバックコンバータ回路設計:トランス設計(構造設計)-その2

2014.10.30

この記事のポイント

・数値算出に続き、具体的なトランス構造の設計に進む。

・数値算出に加え、おおよその構造設計ができれば、トランスメーカーなどの協力を得て最終化を促進することが可能。

トランスT1の構造設計の「その2」です。その1では、下記の手順の内①~④までを説明しました。その2では、⑤~⑦について説明します。

その1
①ボビン選定
②有効巻枠の確認
③巻線構成決定
④沿面距離とバリアテープ

その2
⑤線材の選定
⑥結線図、層構成、巻線仕様
⑦トランス仕様決定

6A_ckt_t1

⑤ 線材の選定

巻線の線材については、UEW(ポリウレタン皮膜銅線)、PEW(ポリエステル皮膜銅線)などが一般的ですが、小型トランスなど沿面距離が取れない場合には3層絶縁線を活用します。

巻幅いっぱいに巻くことで、結合度が高くなりますので、巻幅いっぱいになるような線径を選定します。

線径は細いほうが寄生容量が小さく、近接効果、表皮効果の影響が小さくなりますが、電流密度が大きくなってしまいます。目安として4~8A/mm2程度になるように線径を選定します。

以下に電流密度の計算例を示します。「トランス設計(数値算出)」の②と③での計算結果を使用します。

最大デューティDuty(max)=0.424、一次側の最大電流 Ippk=2.32A、二次側の最大電流 Ispk=12.5Aより、一次側の実効値:Iprms、二次側の実効値:Isrmsは以下となります。

ここで、電流密度を6A/mm2とした場合、線径は以下の式で求まります。

二次巻線は本例題では2層×2並列のため合計4本となるので、

※近接効果、表皮効果を考慮しない場合の計算となっています。

選定した線径での電流密度を計算し、目標値4~8A/mm2に入っていることを確認します。

また計算は、近接効果、表皮効果を考慮しない場合の計算です。近接効果とは、近接した導線に電流が流れることで励起される磁界の影響を受け、電流が導線内を均一に流れなくなる現象です。表皮効果は、高周波において電流が導線の外周部に集中する現象です。

巻線構成については、「トランス設計(構造設計)-その1」の「③ 巻線構成決定」のサンドイッチ巻構成、および、次の「⑥ 結線図、層構成、巻線仕様」を参照してください。

ちょうどよい線径がなかったり、さらに特性改善したい場合には、リッツ線を使用すると効果的です。リッツ線は、細い線材を複数本撚り合せたもので、細線による表皮効果などの影響を軽減し、複数本を使うことで断面積を大きくすることができます。

最終的には、トランスの温度上昇を確認して、必要に応じて調整します。

⑥ 結線図、層構成、巻線仕様

結線および層構成については、図化します。巻線仕様については、表にしておくとよいと思います。これらはトランスの試作を依頼するときに設計図の一部として必要になります。

結線図(下左)は、電源回路において、どのピンにどの信号を接続するかを示すものです。結線は基板レイアウトにも影響しますので、基板設計を見据えた設定が必要になります。

層構成図(下右)は、決定した構成を示す図です。今回は特性を重視して、結合度があがるようにサンドイッチ巻きを選択します。

7A_connection7A_layer

巻線仕様:前述のように巻幅いっぱいになるように線径を選択します。また、巻枠の厚み方向も許容範囲内にあるか確認します。

⑦ トランス仕様決定

数値算出から構造設計を経て、最終的にこのようなトランス仕様を作成します。

必要な情報としては、

  • ・結線
  • ・構造
  • ・コア・ボビンの指定
  • ・インダクタンス、巻数、線径
  • ・絶縁性能、組立指示

などになります。

実際にトランスを試作する場合、この辺りまで作成すれば、ほとんどのトランスメーカーは試作してくれると思います。トランスメーカーによっては、もっと簡単な仕様、例えば入出力電圧、周波数程度で試作してくれるところもあります。どこまで仕様を具体化すればよいかは、トランスメーカーに問い合わせ下さい。

【資料ダウンロード】PWM方式フライバックコンバータ設計手法

実際の電源用ICを用いた設計手法の説明です。電源仕様の決定から電源ICの選択、レイアウト設計に関する内容の他、一般にあまり説明のないトランスの数値算出方法と構造設計の具体例を含んでいます。

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