奨学生レポート RMFレポート インタビュー

ウィーンから世界へ、コルンゴルトを通してつながるネットワーク(中村伸子さん)

中村 伸子さん/Ms. Nobuko Nakamura
(専攻楽器音楽学/musicology)

[ 2018.05.24 ]

学校名:ウィーン音楽演劇大学

ローム ミュージック ファンデーション奨学生の中村伸子です。

東京藝術大学の博士後期課程を休学し、現在はウィーン音楽演劇大学の博士課程で音楽学を学んでいます。

<大学内の展示室にて、コルンゴルトが着た燕尾服の前で>

 

私の研究対象は、20世紀前半にウィーンとハリウッドで活動したユダヤ系の作曲家E. W. コルンゴルト(1897~1957)です。

高校時代にコルンゴルトの音楽に出会い、東京藝術大学楽理科に入学してさらにその魅力に引きこまれた私は、これまで卒業論文と修士論文で彼のオペラ《死の都》を扱い、加えて彼の作品の演奏機会を増やすべく「コルンゴルトを広め隊」という名前で友人たちとコンサートの企画をしてきました。

修士課程在籍中には、ワシントンの議会図書館に収められている資料「コルンゴルト・コレクション」を調査し、その大量の自筆譜や手紙に圧倒され、同時にそれらが未だ十分に整理されていないことに大きな可能性を感じました。

そこで、この資料をもとに今後のコルンゴルト研究の基礎づくりをしたいと考え、博士後期課程に進みました。

 

ところが次第に、私一人で膨大な資料に立ち向かうのは現実的ではないと気付き始めました。

そんな折、ウィーン音楽演劇大学のゲロルト・グル―バー教授がコルンゴルトの資料目録・全集編纂プロジェクトを始めるという情報を耳にし、連絡を取ったところプロジェクトの初期メンバーとして迎え入れていただけることになったため、ウィーンへの留学を決めました。

こうした経緯から、現在はウィーン音楽演劇大学の学生として自身の博士論文のための準備をしながら、同時にプロジェクトの一員として調査をする、という二つの活動をしています。

 

<グルーバー教授と研究所のみなさまと(c) Franz Morgenbesser>

 

コルンゴルトは、ブルノ(当時はオーストリア=ハンガリー帝国の一部、現在はチェコ)に生まれ、ウィーンで人生の半分以上を過ごしました。

ところが、彼の重要な資料が世界に点在していることが支障となり、これまでコルンゴルト研究の中心地と呼べる場所はありませんでした。

というのも、彼が主に楽譜を出版していた会社はドイツのマインツにあるため出版関係の資料はここにあり、1938年の亡命後はロサンゼルスに住みこの地で亡くなり、さらに彼が所持していた資料を遺族が後にワシントンの議会図書館に移したためです。

 

しかしながら今回のプロジェクトを通して、ウィーンは世界におけるコルンゴルトの研究拠点として認知されつつあり、彼に関する情報や彼に興味を寄せる人々がウィーンに集まるようになってきています。昨年11月にはコルンゴルトの生誕120年と没後60年を記念する演奏会がウィーン音楽演劇大学で開かれました。

また、コルンゴルトの孫にあたる方や、20年前にコルンゴルトの伝記を出版した研究家、楽譜出版社をはじめ、世界中の方々と密接に連絡を取り合うこともできています。このような贅沢な環境で研究生活を送れることを、何より幸せに感じます。

 

学生として、プロジェクトの一員として、ともすると目の前のことに精一杯になりがちな毎日ですが、コルンゴルトの貴重な資料の数々を丁寧にひも解き、今後の音楽研究や演奏・上演の現場につながる成果を上げられるよう取り組みたいと思います。

 


学術の分野も一人ではできないことをアンサンブルのように協力して作っていくことで一つの素晴らしい成果を導き出せそうですね。ぜひ研究の成果が実を結ぶようにがんばってください!